
いろいろなご当地グルメがある三重県。これまで「つづきは三重で」でも数々ご紹介してきました。
今回は少し趣向を変えて、グルメそのものの紹介ではなく、地元の人にとっては“当たり前の存在”だったご当地グルメの魅力を再発見し、「地元の方々に“自分のまち”への愛情と誇りを持ってほしい」という想いで活動する2つの団体をご紹介します。
■津市独自の小学校給食メニューをB-1グランプリ優勝まで盛り上げた「津ぎょうざ小学校」
最初にご紹介するのは、津市の「津ぎょうざ」の魅力を発信する団体「津ぎょうざ小学校」です。“学級委員”を務める西川直希(にしかわ なおき)さんにお話を伺いしました。
そもそも“津ぎょうざ”って?

津ぎょうざは、昭和60年頃に津市教育委員会の栄養士たちによって開発された小学校給食のメニューです。直径15センチの皮を使った大きな揚げぎょうざで、現在も小学校の給食で子どもたちに人気のメニューとなっています。
津市内で小学校時代を過ごした人たちにとっては慣れ親しんだメニューでしたが、津市以外ではまったく知られていない存在でした。

そんな津ぎょうざが学校給食の世界から飛び出したのは、平成20年に行われた「津まつり」。市民団体がイベント販売を行うと大反響を呼び、2日間で400個を完売したといいます。
津のご当地グルメとして一躍注目される存在となった津ぎょうざ。津市内の飲食店のメニューにも登場するようになり、ラーメン店やちゃんこ鍋店、居酒屋など、現在では30店舗ほどで食べることができます。
津ぎょうざは、皮の大きさなど決められたこと以外は、お店ごとに違うレシピで作られているそうです。
設立10周年!「津ぎょうざ小学校」の活動とは
この津ぎょうざを地元・津市の魅力をPRする手段の1つとして広めていこうと立ち上げられたのが「津ぎょうざ小学校」。
平成22年2月22日に設立され、今年で創立10周年を迎えました。メンバーは全員ボランティア。市役所や観光協会に勤務するメンバーに加えて、主婦や会社員なども加わり、活動に参加しているのは100人規模になるそうです。
西川さん「私は47歳なので4年7組です。下は小学生から、上は60代、70代と、ほんとうに幅広いメンバーの方に参加していただいています」
B-1グランプリで三重県初のゴールドグランプリを受賞!

津ぎょうざを三重県外の方にも知ってもらうための活動として、「B-1グランプリ」に出場をしている津ぎょうざ小学校。
B-1グランプリというのは、単にご当地グルメの“食べ物”としての魅力だけをアピールするのではなく、地元を愛する熱い仲間たちが集い、ご当地グルメをきっかけに地元の魅力をアピールしようという“日本最大級のまちおこしイベント”。出場するのは飲食店や飲食業組合ではなく、ご当地グルメを通じてまちおこしに取り組んでいる団体です。
令和元年11月に、兵庫県明石市で開催された「第11回B-1グランプリ」には、50以上の団体が参加し、趣向を凝らしたPRイベントとともにそれぞれわがまちの魅力をアピールしました。

過去に出場したB-1グランプリでは、3位のブロンズグランプリを受賞したことも。そのため、この明石大会は満を持しての出場だったといいます。
「今回はゴールドグランプリを獲るということをメンバー全員が意識して、自分たちが主催者となって明石大会を盛り上げるんだ、という気持ちで参加しました」と、西川さん。その結果、30万人以上の来場者による投票で最多得票数を獲得し、三重県初のゴールドグランプリに輝きました。
大会の主役を担うという意欲を持って臨んだ結果が、ゴールドグランプリ受賞に繋がったのです。
コンセプトは「入学から卒業まで」。“津ぎょ小あかし大運動会”って?

実は、この明石大会に津ぎょうざ小学校は総勢70名で参加し、“津ぎょ小あかし大運動会”を開催。

コンセプトは「入学から卒業まで」。入学していただいた来場者の方には、運動会に参加いただきます。

会場がある明石市の名物のタコをモチーフにした「タコ入れ」 や、津名物のうなぎを吊るした「グルメ食い競争」などの種目に参加してもらいました。

運動会の後は「給食の時間」として津ぎょうざを食べてもらい、卒業証書授与という流れになっています。
西川さん「津ぎょうざを求めて並んでくれている方たちに、どこまで津の魅力をPRでき、楽しんでもらえるかが重要なんです。ここでの体験を通じて、“津に行ってみたい”と感じてもらえればと思って取り組みました」
このような想いがゴールドグランプリの受賞につながったんでしょうね。
地元に密着した活動も!

津ぎょうざ小学校では、B-1グランプリなどのイベントに参加して三重県外の人たちに津の魅力をPRするだけでなく、小学校へ出向いたり、地元の子ども会のイベントで津ぎょうざを作るお料理教室を開催するなど、地元に密着した活動にも力を入れています。

「子どもたちに聞くと、みんな『津が好き』って答えてくれるんです。でも、大人になると、『津には誇れるものがない』なんて言い出すようになってしまう。津には天むすやうなぎといった名物もあるし、榊原温泉や国宝の真宗高田派本山専修寺御影堂・如来堂のような名所もたくさんあります。津ぎょうざのように自信を持って語れる存在がきっかけになって、大人になっても津のまちに魅力を感じてもらえたらと思っています」と、西川さん。
津ぎょうざだけではなく津市そのものにも魅力を感じてもらえたら、という想いで活動する“津ぎょうざ小学校”。津ぎょうざや津ぎょうざ小学校の取り組みが気になった方は、ぜひ津ぎょうざを食べに行ってくださいね。
■青春時代を過ごした地元を盛り上げたい─その想いで始まった手作りの活動「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」
次にご紹介するのは、松阪市の“鶏焼き肉”の魅力を発信する「特定非営利活動法人Do it 松阪」の鶏焼き肉隊(本記事内は、「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」と記載)。共同代表の一人である森下桂子(もりした けいこ)さんにお話を伺いました。
松阪だけど牛じゃない!“鶏焼き肉”とは?

甘辛い味噌ダレを絡めた鶏肉を串に刺さず、網で焼いて食べる鶏焼き肉。松阪市内には専門店も多くあり、地元の方にとっては慣れ親しんだ存在です。
そんな“鶏焼き肉”の魅力を発信すべく、なぜ森下さんは「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」を立ち上げるにいたったのでしょうか?
「中学・高校と青春時代を過ごした地元の駅前。あの頃は楽しみに満ちた場所のように思えたのに、進学や就職で地元を離れ、久しぶりに帰ってみると、当時の活気は失われ、寂しさを感じる。」と感じていた森下さん。同級生が久しぶりに顔を合わせた際も、自然とそんな話題に花が咲いたそう。
「寂しくなってしまったまちを何とかできないかって。最初はそれだけの想いで走り出したんです。同級生を中心に30人ほどが集まって意見交換を重ね、駅前に花時計を作るとか、商店街に風鈴を飾るとか、色々な案が出ました」と、森下さん。
長期的にみてそれがまちを元気にできるのかというと、手応えは感じられなかった。そんなときに出たのが「松阪鶏焼き肉」の話題だったといいます。「松阪に住んでいるときは当たり前のように食べていたのに、いま暮らしている場所では全然食べられない。こっちに帰ってくると食べたくなるよね」って。
「地元に元々あったものでも、他の地域の方から見ると珍しくて魅力的に映る。地元に眠っているグルメを使った発信であれば自分たちにもできるんじゃないかって思ったんです」と言う森下さんらを中心に、平成22年に「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」が発足。同級生を中心とした集まりで、飲食店や行政との関わりもなく、手探りで一からのスタートでした。
未知の領域への挑戦!目指すはB-1グランプリ出場
初めて鶏焼き肉をふるまったのは松阪市内の大学の文化祭。意気込んで臨んだものの、大量に作ろうということで鶏肉を鉄板で焼いてみたのが不評で、「水分が出て味噌ダレが薄くなってしまうし、焼き方も不慣れで。アンケートの回答には『マズイ』という意見ばかりで、散々な出来でした」と、森下さん。
これではいけないと、大型の網焼き器を使い始めたものの、今度は「炎が立ち昇りすぎて、テントが焼けそうになったこともありました」と、出だしはアクシデントの連続だったといいます。

それでも、メンバーたちはB-1グランプリ出場を目標に定めて、イベントでの出展を重ねていきました。そんな七転八倒の活動ぶりに注目して声をかけてくれたのが、高校生レストラン「まごの店」で有名な県立相可高等学校(以下、「相可高校」)食物調理科の村林新吾(むらばやし しんご)先生。営利目的ではなく、料理の素人たちが松阪のまちを元気にしたいとの想いで頑張っている姿を見て、手伝っていただけることになったのだそう。
B-1グランプリに出場するとなると、2日間で1万食近くの鶏焼き肉を提供することになります。それまではイベントに出展してもせいぜい100食から200食程度。まさに未知の領域への挑戦でした。

一度に大量に焼くとなると問題になるのは、どうやって鶏肉の中心までしっかり火を通すことができるか。生焼けの鶏肉を提供することになっては大変です。
森下さん「最初、私たちは湯せんしておこうと考えていました」

しかし、それでは鶏肉の旨味が逃げてしまうと村林先生の指摘を受けます。
先生が提案したのは、油で素揚げしておくという方法。鶏肉が油でコーティングされ、ふっくらとした仕上がりも生まれる方法なのだそう。
相可高校調理クラブの生徒たちに協力してもらいながら、B-1グランプリ出場に向けて素揚げの方法を習得していきました。

そして、平成25年のB-1グランプリ豊川大会に初めて参加。初出場だったこともあり、メディアの注目度も高く、テレビ局だけでも14社で紹介されるほど。用意した8000食が2日間で完売したといいます。

「一気に全国に向けて松阪鶏焼き肉の認知度を上げることができました。鶏焼き肉をきっかけに松阪の魅力に触れて松阪を訪れてもらえたら、という想いをようやくカタチにすることができた気がしました」と、森下さん。その後もB-1グランプリへの出場を重ね、平成27年の十和田大会では10位入賞の成績も収めています。

B-1グランプリ出場によって松阪の鶏焼き肉というご当地グルメが脚光を浴びたことで、「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」の地元での認知度も上がったといいます。
松阪鶏焼き肉の魅力や松阪市内の鶏焼き肉店を紹介している「松阪鶏焼き肉とりとりマップ」。
「最初に協力してもらえたのは数軒だけでした。どんな団体かもわからない状態で、飲食店の方に説明に回っても、“遊びごとにはつきあっていられない”と断られたこともあったくらいで…」と、森下さん。
現在は8号目を発行し、20店舗以上の鶏焼き肉店が掲載されています。
高校とのコラボレーションも!鶏焼き肉を広める取り組み

「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」は現在も10人程度のメンバーで構成される小所帯ですが、まちの賑わいを取り戻すための活動の幅を広げています。
B-1グランプリをきっかけに出会った相可高校調理クラブの生徒たちと一緒に公認商品として「松阪鶏焼き肉のタレ」を開発。地元のスーパーなどで販売されています。

仲間内の集まりの延長線上でスタートした「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」ですが、鶏焼き肉でバーベキューをしながらの婚活イベントを実施したり、パスポートで商店街の飲食店を回れる「松阪まちなかバル」など、さまざまなイベントを企画、主催できる存在にまで成長してきました。

今後は、高校生とのコラボレーションに力を入れていきたいと、森下さんは考えています。県立松阪工業高等学校漫画研究部の生徒さんにPR用の4コマ漫画を描いてもらったり、令和元年のB-1グランプリ明石大会では会場で三重高等学校ダンス部がパフォーマンスを披露しました。

また、県立松阪高等学校放送部が地域紹介動画を作る際には取材を受けるなど、高校生との交流を深めているのです。
「高校時代からこうした活動に積極的に参加して、地元・松阪への想いを高めていってもらえたら、進学や就職でいったんまちを離れた後にでも、また戻ってきてくれる機会が増えるんじゃないかと」と、森下さん。
青春時代を過ごしたまちの賑わいを再び取り戻す、「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」の活動は新たなステップを踏み出そうとしていました。
いかがですか?
「津ぎょうざ小学校」と「Do it! 松阪鶏焼き肉隊」は、それぞれのご当地グルメをきっかけに“自分のまち”の魅力をPRし、まちの活性化につなげようと活動をしています。皆さんも、津ぎょうざや松阪鶏焼き肉を食べに津市や松阪市を訪れて、まちの魅力を感じてみませんか。
(掲載情報は、すべて令和2年1月時点のものです)
- <今回の取材先はこちら>
★津ぎょうざ小学校
住所:津市寿町14-17(津市観光協会 内)
電話:059‐246-9020
HP:https://tsugyoshou.jimdofree.com/★特定非営利活動法人Do it 松阪 鶏焼き肉隊
住所:松阪市日野町788 カリヨンプラザ(株式会社松阪街づくり公社 内)
電話:0598-26-9500
HP:http://doitmatsusaka.net/blog/
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