キーマンに聞く!「三重県発クラフトビール」の明るい未来とは?

2020.9.25

フードライター 高田強

最近、人気が高まっているクラフトビール。小規模の醸造所(じょうぞうしょ)で、職人が作るこだわりのビールですが、初心者でも飲みやすいと、アルコールドリンクの一つの選択肢として定番化しつつあります。三重県でも注目されており、県内にあるブルワリー(醸造所)では、それぞれ個性的なクラフトビールを製造。さらに、クラフトビールが飲めるお店も増えてきています。そんな、三重県のクラフトビール業界を牽引するキーマンに、業界の未来について聞いてきました。※記事中の価格は税込み

四日市市でクラフトビールのおいしさと情報を発信するビアスタンド!

 最初に紹介する「Brewer’s Beer Stand 34(ブルワーズビアスタンドサーティーフォー)」は、三重県発のクラフトビアスタンド。近鉄四日市駅前の繁華街にある、三重県のうまいものを集めた新しい食のエンターテイメントスペース「三重うまし国横丁 四日市宿(よっかいちじゅく)」の一画に店を構えています。

オーナーは、美杉リゾートが手掛ける「火の谷(ひのたに)ビール工場」でクラフトビールの醸造や販売を担当していた千田 晋(ちだ しん)さん。

三重県には20年以上の歴史を重ねるブルワリーがいくつもあるのに、クラフトビールを飲める場所自体が少なく、地元のビールにふれるチャンスがないことから、出店を計画。クラウドファウンディングを利用し、2018年7月28日にオープンしました。

店は商店街に面した好立地。白を基調にした、コーヒースタンドのようなカジュアルさで、入店しやすい雰囲気です。

支払いは、ビールと引き換えのキャッシュオンデリバリースタイル。おつまみは、同じ施設内の飲食店から出前もできます。また、商店街などで買った食べ物の持ち込みもOK。

タップと言われるビールの注ぎ口が12あり、常時12種類のビールが味わえます。ちなみに、このタップの持ち手は三重県の伝統工芸品「萬古焼(ばんこやき)」。
「三重の人に、いろいろな種類のクラフトビールがあることを知ってもらい、味わって欲しい」と言う千田さんの思いから全国各地のブルワリーから取り寄せたビールが並びます。種類も「IPA」「ペールエール」「ピルスナー」「スタウト」など、バラエティー豊か。

「もちろん、三重に素晴らしいクラフトビールがあることを知ってもらうのもこの店の使命なので」と「火の谷ビール」に加え、伊勢市にある「伊勢角屋麦酒(いせかどやびーる)」、桑名市にある「長島(ながしま)地ビール」などから、2、3種類は三重県のクラフトビールとなっています。

取材した日の千田さんのオススメのクラフトビール

左から「ペールエール」700円(伊勢角屋麦酒)、「白」900円(コエドブルワリー)、「Neko Nihiki」 850円(伊勢角屋麦酒)、「グッドローカルサワーダブルベリー」900円(掛川ファームブルーイング)、「Chocolate Hazelnut Porter(チョコレートヘーゼルナッツポーター)」900円(ヘレティック・ブルーイング※アメリカ・カリフォルニア州にあるビール醸造所)

三重県のクラフトビール文化の醸成はこれから…、その分伸びしろがたっぷり!

◇お店を出店されたきっかけは?
千田さん「『火の谷ビール工場』でクラフトビールの醸造を担当していました。そのビール、『美杉リゾート』内では飲めるのですが、三重県でほかに飲める場所がほとんど無かったのが大きな理由でしょうか。『伊勢角屋麦酒』のように業界では世界的知名度のあるクラフトビールが、東京や大阪ではたくさん飲まれているのに三重県で飲める店がなかったというのもあります」

◇それで出店を計画したのですね。
千田さん「クラウドファウンディングも活用し、開店資金を集めて、三重県を代表する繁華街がある四日市市で開店。クラフトビールに対する敷居を下げたくて、気軽に入って一杯だけでも飲める、コーヒースタンドのような店にしました」

◇気軽に楽しんでもらうのがポイントですね。
千田さん「そうです。なので、チャージ料はありませんし、料理の持ち込みもOKにしています」

◇0次会的な宴会前の1杯や、飲み歩いた最後の1杯という楽しみ方ができますね。
千田さん「三重県のお酒好きは、一カ所で長居する方が多くて、首都圏などで多い酒場ホッピング、つまりはしご酒をする人が少なめ。そういうお酒の楽しみ方も含めて、いろいろ提案できればいいなと思っています。また、三重県のクラフトビールだけに絞ってもいいんじゃない?という意見もいただきますが、まずはいろんな種類のクラフトビールが日本全国で造られていることを知ってもらいたいと考えました」

◇少しずつクラフトビール通になっていってもらうんですね。
千田さん「大手メーカーのビールには無い、フルーティーさや酸味、コクなど、その面白さに気付いてもらえれば最高です。そこで、好きになっていただいて、たとえば『三重県産の黒ビールが飲んでみたい』や『ベルギータイプのビールはできないの?』といった声が出てくるようにまでなってもらいたいんです」

◇ファンを増やしていくのも楽しいですね。
千田さん「クラフトビール先進国のアメリカでは、ビール販売全体に占める20%がクラフトビール。でも日本ではまだ1%ほどなんです。そう考えると日本にはまだまだ伸びる余地があるし、三重県にも、もっとあるはずなんです。実はこの店、コロナ禍の中でもおかげさまで売り上げが前年比超え。着実に手応えを感じています」

◇三重県ならではといえる取り組みは?
千田さん「量り売りでお持ち帰りのビールの販売を始めました。水筒のような専用ボトルをこちらで貸し出して、詰めて販売します」

◇初めて見ました。
千田さん「海外ではすでにお持ち帰りボトルはあるんですよ。できるだけ品質の劣化が無いようにしたいので、高い気密性と最大34時間保冷効果が持続するボトルを探し出しました。三重県は車社会。車通勤者が多いので、そういった人が自宅で楽しんだり、バーベキューなどのアウトドアに持っていって楽しんだりできるようにと開発しました」

◇三重県のクラフトビールの未来は明るい?
千田さん「ユーザーは増えていますし、『伊勢角屋麦酒』の新工場は規模も設備も日本トップクラス。『長島地ビール』の若いブリュワーもいいビールを造って国内のコンテストで銀賞を受賞したりもしていますから、伸びしろはたっぷりあると思います」

世界が認める三重県発クラフトビールを生産する!

「Brewer’s Beer Stand 34」の千田さんが「三重県が誇れる世界的なクラフトビール」と言うのが「伊勢角屋麦酒」。創業1575年の老舗餅(もち)店「角屋(かどや)」が、1997年、クラフトビールの製造に挑戦を始めました。この事業を始めたのが21代目の鈴木成宗(すずき なりひろ)社長。大学で微生物などについて学んでいたことから、新規事業としてクラフトビールを選んだそうです。

小規模な工場からスタートし、2018年には伊勢市の下野(しもの)工業団地に、敷地面積5117平方メートルのビール工場を新設。今や日本でもベスト5に入るほどの出荷量の醸造所に成長しています。
成長の大きな理由のひとつが、海外で評価を高める戦略。創業時から、海外の品評会に出品し、そこで学んだ世界基準を、自社のビールにフィードバックしてきました。

社長自身も審査員の資格をとって、世界のブルワリーと交流を深めてきました。その結果、名だたるコンクールで最高賞を獲得しています。
特に、クラフトビールのスタンダードとも言えるペールエールは、ビール界のオスカーと呼ばれるイギリスの「The International Brewing Awards」で金賞を2連覇。日本だけでなく世界からも一目を置かれる存在となっています。

その原動力となっている2018 年に竣工した工場を、社長の鈴木さんに案内してもらいました。

小規模な醸造所であれば2つの釜で行う仕込みに、4,000リットルの釜を4つ使用。ビールの原料となる麦汁(ばくじゅう)を製造しています。また、最新の設備で的確に管理できることで品質のブレのない麦汁ができあがるそうです。

できあがった麦汁を移す発酵槽(はっこうそう)と熟成槽(じゅくせいそう)も大きなものを多数備えています。工場のスペースにはまだまだ余裕があるそうで、発酵槽や熟成槽のタンクを増設すれば、さらに生産能力を上げることができます。

◇スゴい設備に圧倒されました。
鈴木さん「東海3県では最大で、日本でも5本の指に入る生産量のクラフトビールの醸造所になります」

◇クラフトビールを作ろうときっかけは?
鈴木さん「450年続く餅屋の跡取りとして家業を継いだのですが、じっとしておれない性格で…。餅屋で並行して醤油と味噌の醸造もしていたのと、大学でプランクトンなどの微生物を勉強していたことから、地ビールに興味がわきました。それで、店の一画に醸造設備を作り、生産を始めたんです」

◇ここまでになった原動力は?
鈴木さん「いろいろあるんですが、そのひとつが生産開始当初に地元の新聞に『伊勢の地ビール誕生』と報道していただいたことなんです。その時は単純にうれしかったのですが、同時に“伊勢の”と付けていただいたことでヘタなことをできないなと思いました」

◇〝伊勢〟の名を汚してはいけない?
鈴木さん「地元だけのビールというのではなく、伊勢という名前で世界に認められたいという目標ができました。それで、『伊勢角屋麦酒』を創業した2年後の1999年には、ビールの国際的な審査員の資格を取って、出品も始めました」

◇初めての賞は?
鈴木さん「2003年にオーストラリアの『Australian International Beer Awards』で金賞を獲りました」

◇早いですね。それでブレイクしたんですね。
鈴木さん「いやぁ。業界内では注目されましたが、売れ行きには全く影響しませんでした(笑)。賞を取ったのに、全く儲からない状態。そこで、お伊勢さん観光で来られた方に飲んでいただいたり、お土産に買っていただく地ビールと、ビール好きをターゲットにしたクラフトビールと、商品を2系統にわけました。そこから成長軌道に乗った気がします」

◇三重と言うより日本を代表とするビールになりますね。
鈴木さん「私自身は、三重県、特に伊勢愛が非常に強いので、なんとか伊勢のエッセンスを加えたいと考えていました。そこで、目をつけたのが酵母。ほとんどの醸造所はビールの酵母を専門業者から買っているんです。この酵母を自社で生産するには、専門的な知識はもちろん、さまざまな機器も必要なので、ほぼ不可能でした。ただ私は、微生物の勉強をしていたので、その方面に興味がありまして。大学の本格的な機器を使いたい気持ちもあって、それで三重大学の大学院に入って酵母の研究をしました」

◇伊勢生まれの酵母ですね。
鈴木さん「はい。『ヒメホワイト』という商品に実際に使われています」

◇今後、三重県らしさを追求した商品は作られますか。
鈴木さん「三重県は南北に長くて、海も山も食材が豊富。それだけに、味に厳しい県民性ということを意識しています。なので、改めて三重県の人たちに認められて愛されるビールを造りたい。今、コロナ禍で遅れてはいますが、〝魚介系の和食に合うビール〟の製造がかなりいいところまで進んでいます。実は、魚介に合うビールってほとんどないですよ」

◇三重県産のビールと三重県の食材とを一緒に味わえますね。
鈴木さん「そうなんです。ただね、三重の人ってお酒に弱い人が多いらしいんですよ(笑)お酒を分解する酵素を持っている人が日本国内では最下位だそうで」


伊勢角屋麦酒のビールが飲めて買える店舗
「伊勢角屋麦酒」の店舗では、ラインアップは変わっても、だいたい定番を5種、期間限定ビールを5種程度、製造しています。

そのほとんどを購入できるのが「伊勢角屋麦酒 外宮前店」。

約10種の瓶入りクラフトビールほか、お土産用の缶ビールも販売。

店内奥にはビアサーバーもあります。4つのタップがあり、常時4種がスタンバイ。

特に人気なのが、4種飲み比べセット1,080円。「マイヤーレモンIPA」のような期間限定ビールが用意されることも多いそう。
「伊勢角屋麦酒」の直営店には、ほかに伊勢市内の「内宮前店」、「麦酒蔵」のほか、東京の「八重洲店」と「新宿店」があります。※八重洲店と新宿店は運営を委託。

ほかにも三重県には個性的なクラフトビール醸造所がいっぱい

三重県には個性的なクラフトビール醸造所や、併設のレストランなどでそのクラフトビールを飲めるお店があります。各醸造所を、オススメの定番ビールとともに紹介します。

モクモクブルワリー
伊賀市にある農業公園型テーマパーク「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」内のブルワリー。スッキリとした爽快感(そうかいかん)を持ちながらもシャープな苦味が心地いい「ゴールデンピルスナー」のほか、季節ごとに多彩なビールを醸造します。同パーク内の「PaPaビアレストラン」などの飲食施設で飲むことができます。

■オススメ定番ビール
セブンホップラガー 590円
7種のホップを贅沢に使い、かんきつ類やパッションフルーツをほのかに思わせる芳醇(ほうじゅん)な香りのラガービール。

伊賀の里 モクモク手づくりファーム モクモクブルワリー
住所:伊賀市西湯舟3609
電話(総合案内):0595-43-0909
営業時間:9:00~17:00
定休日:第2水曜日(月によって変わる場合あり)
URL:http://www.moku-moku.com/
※「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」内の「モクモクショップ」や自社サイトからも購入可能


長島ビール園
人気遊園地「ナガシマスパーランド」をはじめ、「ジャンボ海水プール」、イルミネーションで有名な「なばなの里」などを運営する「ナガシマリゾート」のブルワリー。副原料を一切使わず、麦芽・酵母・ホップのみから醸造する、麦芽100%の本格派ビールにこだわっています。「なばなの里」内のビアレストランで飲むことができます。

■オススメ定番ビール
長島地ビール ピルスナー  490円~(写真左)
長島地ビール デュンゲル  490円~(同中央)
長島地ビール ウァイツェン 490円~(同右)
原料から仕込みまで本場ドイツの味にこだわった、さっぱりとのどごしの良いビール。クセがなく、口当たりの良さが魅力です。

なばなの里 長島ビール園
住所:桑名市長島町駒江漆畑270
電話: 0594-41-0752
営業時間:11:00~21:00(特定日は22:00まで営業延長あり)
定休日:不定休
URL:https://nbpt502.gorp.jp/
※ナガシマリゾート内の各施設でも飲むことができる


火の谷ビール工場
津市美杉町にある体験型リゾート施設「美杉リゾート」のオーナーが、自らが惚れ込んだビールを醸造するために、アメリカのブルワリー施設をそのまま輸入して作った「火の谷ビール工場」。エールビール、ラガービールなどジャンルにとらわれることなく、真に美味しいビールを探求しています。美杉リゾート内のブッフェレストラン「Marest」で飲むことが可能。

■オススメ定番ビール
火の谷ラガー(瓶) 550円(写真右端)
NINJA BEER 伊賀流忍者麦酒(瓶) 550円(同左端)
地元津市美杉町の有機栽培のお米を原料の一部に使用した「火の谷ラガー」と、伊賀の酒米「うこん錦」と古代米「伊賀黒米」を一部に使用した「NINJA BEER 伊賀流忍者麦酒」が定番。「季節限定Session I.P.L」などもあります。

美杉リゾート 火の谷ビール工場
住所:津市美杉町八知5990
電話(代表): 059-272-1101
営業時間:8:00~21:00(ホテル売店)
URL:http://www.misugi.com/
※「美杉リゾート」内のショップや自社サイトからも購入可能


エール工房de伊賀
伊賀市の山あいにある小さなブルワリー。質の良い日本酒が造られている伊賀の伏流水(ふくりゅうすい)をビール造りに利用しています。このブルワリーでは4種類のクラフトビールを醸造。苦みが特徴のアンバー、柔らかで芳醇な味わいのヴァイツェンなど、伊賀の風土と職人のこだわりが作り上げた地ビールが楽しめます。

■オススメ定番ビール
かみなりアンバー(330ml) 500円(写真左)
くのいちペール(330ml) 500円(同中央)
芭蕉(ばしょう)ウィート(330ml) 500円(同右)
麦を深焙煎してコクを引き出し、ホップを利かせ苦味も立たせた「かみなりアンバー」、苦味を抑えたスッキリした飲みやすさが特徴の「くのいちペール」。「芭蕉ウィート」は小麦麦芽を加えて苦味を抑え、心地よい酸味が後味に残ります。

エール工房de伊賀
住所:伊賀市山出920
電話: 0595-21-3606
営業時間:10:00 ~ 18:00
定休日:土・日曜、祝日
URL:https://www.alecraftdeiga.jp/
※自社サイトのほか、三重県内を中心とした地元酒販店で購入可能

クラフトビールで地元産マリアージュを楽しむ

料理の世界でマリアージュという言葉がよく使われますが、最近特に注目されているのが、地元産同士のマリアージュ。元々の語源が結婚で、地元産食材とその土地で作られたワインを一緒に楽しむことです。三重県の食材を使った料理と三重県産クラフトビールを味わう。そんな、ぜいたくなビアマリアージュを楽しんでみてはいかがでしょうか。

<今回紹介した施設はコチラ>
Brewer’s Beer Stand 34
住所:四日市市諏訪栄町13-10
電車:近鉄四日市駅から徒歩約5分
電話:080-9739-3434
時間:15:00~22:00、土・日曜 12:00~22:00
休日:火曜
URL: https://brewersbeerstand34.business.site/
伊勢角屋麦酒 外宮前店
住所:伊勢市本町13-6
電車:JR・近鉄伊勢市駅から徒歩約5分、外宮から徒歩約2分
電話: 0596-20-5505
時間:9:00~17:00
休日:無休
URL:https://www.biyagura.jp/