お餅百変化 ココロ弾む伊勢参りの名物餅

2017.12.8

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

伊勢神宮をめざす旅人をもてなした、知られざるお餅の歴史

お出かけ大好きライターの内山真紀です。三重県には「餅街道」なるものがあると聞き、甘いモノも大好きな私が「これは調査せねば!」と行ってきました。

「お伊勢さん」の愛称で親しまれている伊勢神宮。江戸時代、“一生に一度の、お伊勢参り”と、庶民の間で伊勢神宮への参拝はあこがれの旅であり、日本各地から多くの人が訪れたといわれています。伊勢神宮へは、伊勢街道をはじめ、江戸から続く東海道、和歌山からつながる熊野街道…といった街道があり、三重県にはそれが今も残っているのです。
多くの人が行き交う街道には、旅人が休憩する茶屋ができ、そこで出されたのがお茶と餅。現代まで、その餅文化は受け継がれ、今では〝餅街道〟といわれているそうです。

今回は、そんな江戸時代の旅人も訪れた、伊勢市、亀山市、四日市市のお店を紹介します。※記事中の価格は税込み。

<Index>
・400年以上前から旅人をもてなす老舗の「二軒茶屋餅」
・かわいらしい見た目に胸キュン「志ら玉」
・シンプルで味わい深い四日市の名物「なが餅」

◆400年以上前から旅人をもてなす老舗の「二軒茶屋餅」

●二軒茶屋餅 角屋本店(伊勢市)
二軒茶餅01
創業は天正3年(1575年)と伝えられている伊勢市神久の「二軒茶屋餅」。お店は、伊勢街道を少し脇に入った場所にあります。伊勢神宮の外宮・内宮、二見興玉(ふたみおきたま)神社など、どこへ行くにも要となる道沿いで、行き交う人が後をたたなかったとか。その昔、尾張・三河(現在の愛知県)・遠江(現在の静岡県)方面からの参拝者は、海を船で渡るのが最短コース。伊勢湾を横切り、伊勢の町を流れる川をさかのぼって、二軒茶屋がある船着き場に到着したそうです。このような“船参宮”する人たちも、こちらのお餅を食べながら、ホッとひと息ついたのでしょうね。

二軒茶餅04
▲店内で食べられる、二軒茶屋餅(3個)とお茶のセット230円。※お土産用 は10個740円~。やわらかな薄皮のお餅に、あっさりとした上品なこしあんがたっぷりと包まれています。ひきたてのきな粉が香ばしく、一つ、二つと、ついつい手が伸びてしまいます。江戸時代は、食事替わりにお餅を食べていたそうで、その数は一度に8個~10個だったとも。長旅を続ける参拝者にとって、腹持ちのいいお餅は喜ばれ、重宝されたのでしょうね。また、江戸時代に真っ白いお餅は高級品。甘いお餅をおなかいっぱいに食べられるのは、“一生に一度の、お伊勢参り”だからこそのぜいたく、だったのかもしれません。
軽二軒茶餅02
趣のある現在のお店は明治時代に建てられたもので、築100年以上。温かみのある店内は、どこか懐かしさを感じます。

二軒茶餅06
お話を聞かせてもらった、20代目の鈴木宗一郎さん。現在は息子さんが21代目を継ぎ、二軒茶屋餅の歴史をつないでいます。

毎月25日には、黒砂糖を使用した「くろあん二軒茶屋餅」(お土産用3個230円~)が登場します。戦前まで砂糖は黒砂糖が主流。当時を懐かしむお客さんからの要望もあり、先代が復活! 甘さは現代人に合わせて抑えめですが、レシピはほとんど当時のままを再現したそうです。

軽二軒茶餅05
この石碑は、明治5年(1872年)5月25日に明治天皇が、二軒茶屋の船着き場を訪れられたことを記念して建てられたもの。訪問日の“25日”にちなんで、「くろあん二軒茶屋餅」の販売が25日になったと、鈴木さんが教えてくれました。

◆かわいらしい見た目に胸キュン「志ら玉」

●前田屋製菓 関店(亀山市)

_P3A9204
続いては、東海道五十三次の江戸から数えて47番目の宿場町として栄えた関宿(せきじゅく)の名物「志ら玉(しらたま)」です。
亀山市にある関宿は今も当時の面影を残し、1984年(昭和59年)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。約1.8キロメートルにわたって、江戸時代~明治時代に建てられた古い町屋が残っています。現在もバスツアーやお伊勢参りの道中に立ち寄る観光客でにぎわいます。

_P3A9304
こちらが、関宿の名物餅「志ら玉」を販売している「前田屋製菓 関店」。実は、「志ら玉」は戦後の混乱で一度、途絶えていましたが、地元の人たちの強い要望で、関宿が保存地区に選定された年に、前田屋製菓が試行錯誤を重ね、よみがえらせました。以降、観光客はもちろん地域の人たちにも親しまれているそうです。

_P3A9289
▲志ら玉(1個)100円。※箱入りは6個650円~。

北海道産小豆で作られたこしあんを、上新粉(じょうしんこ)の生地で包んだ素朴な味わいの生菓子です。勾玉(まがたま)を表しているくぼみには、春をイメージした緑色、夏の赤、秋の黄色と食紅で色づけられた生地が。白い生地は冬を表現しているそう。愛らしいフォルムに思わず笑顔になってしまいます。

_P3A9237
歯切れのよいお餅と、すっきりとした甘さのあんが、ちょうどいいバランス。舌の上でスッと溶けるこしあんに、職人の丁寧な仕事ぶりがうかがえます。

軽_P3A9322

店内には好きな和菓子とお茶が楽しめる「抹茶セット」(400円~)もあるので、ゆっくりと休憩するのもおすすめです。

_P3A9342
「休日限定のくさもちや黒豆大福、季節の商品なども並ぶので、いろいろ楽しんでください」と、店員の前田美那子さん。

◆シンプルで味わい深い四日市の名物「なが餅」

●なが餅 笹井屋(四日市市)
_P3A9363
最後は、東海道43番目の宿場町として栄えた四日市市北町の「なが餅 笹井屋」です。天文19年(1550年)に、笹井屋の初代・彦兵衛さんが、東海道と伊勢街道との分岐点だった「日永(ひなが)の里」で、地名にちなんだ「なが餅」を作ったのが始まりだそうです。その地は「日永の追分(おいわけ)」と呼ばれ、参拝者だけでなく多くの旅人が訪れ、宿や茶屋がたくさんあったとか。その後、笹井屋は空襲により、現在の場所に移りました。

_P3A9418
▲なが餅(7個)648円~。餅で粒あんを包み、一度、丸めてから手作業で長細く延ばします。その後、表面に焼き色を付けると出来上がり。
薄く長い形が特徴の「なが餅」。ひと口かむと、表面を焼き上げたお餅の歯触りと、香ばしさが広がります。お餅の柔らかさは驚くほど。北海道産小豆を5時間以上かけて炊くというあんは、ツヤツヤの粒あん。かめばかむほど、小豆の味と餅米の甘みがにじみ出る、味わい深いおいしさです。

_P3A9437
伊勢津藩主の藤堂高虎が足軽だった頃、笹井屋に「なが餅」をたらふく食べさせてもらい、出世してからはひいきにしたという言い伝えも。歴史のある老舗ならではですね。

軽_P3A9382
落ち着いた雰囲気の店内には定番の「なが餅」のほか、おめでたい「紅白なが餅」も売られています。

_P3A9461
「新茶の季節には『本かぶせ茶なが餅』、春が近づく頃には『桜なが餅』といった季節商品も並びますよ」と、スタッフの2人。

取材前は、三重のお餅といえば、伊勢の「赤福餅」という印象でしたが、こんなにもバラエティー豊かなお餅があることに驚きました。「一生に一度の、お伊勢参り」で、江戸時代の人たちは、さまざまな思いを胸に、自らの足で何日も歩いたことでしょう。そんな旅人たちを甘くもてなした茶屋のお餅。今も、伊勢神宮への参拝者や観光客だけでなく、地域の人たちから愛され、受け継がれているのが印象的でした。街道には、まだまだ名物餅が。餅街道で、お気に入りを見つけてくださいね。
※価格等掲載情報はすべて取材時のものです。

今回紹介したお店はコチラ。
★二軒茶屋餅 角屋本店
住所:伊勢市神久6-8-25
営業時間:7:30~18:00(時期により変動あり)、定休日なし
電話:0596-21-3108
http://www.kadoyahonten.co.jp/restaurant/info_c.htm
★前田屋製菓 関店
住所:亀山市関町中町407
営業時間:10:00~17:00、定休日なし
電話:0595-96-0280
http://www.maedayaseika.com/
★なが餅笹井屋
住所:四日市市北町5-13
営業時間:8:30~18:30、定休日なし
電話:059-351-8800
http://www.nagamochi.co.jp/

関連情報

■つづきは伊勢市で

■つづきは亀山市で 

■つづきは四日市市で 

■観光三重 三重県は伊勢神宮参拝者が食した名物餅がたくさん!「餅街道」のおすすめの名物餅をご紹介