尾鷲港で発見!めったに食べられない三重の希少な魚介

2018.12.14

フードライター 高田強

 

関西エリアを中心に年間200軒近くの飲食店を取材していますが、最近、気になっているのが海鮮居酒屋のメニューの変化。特にブームの日本酒を置いているお店で、お造り(刺し身)に使用する魚介の産地を明記する店が増えています。

日本酒のメニューリストで産地を掲載することにならってのようですが、そういった店は、あまり見かけない個性的な魚を置いている場合も多いように感じます。個人的に食べに行ったり、取材したりする中で気になったのが三重の魚。特に、今まで食べたことのないような希少な魚(希少魚)に尾鷲産の魚が多いことに気付きました。そこで今回、実際に尾鷲市の漁港へ行き、希少魚が取れる理由を調べに(食べに)行くことにしました。※記事中の価格は税込み。

魚介類の宝庫・尾鷲港のセリ市で希少魚をリサーチ

IMG_3336
こちらが尾鷲港。左奥に見える場所が、セリが行われる荷さばき所です。

IMG_0788

セリの現場に行けばたくさんの魚を見ることができると思い、始まる前に荷さばき所にやってきました。時刻は午前6時30分。セリの準備をしているところです。

IMG_0877

セリ場をチェックしていた三重外湾漁業協同組合 尾鷲事業所・所長の仲本政史(なかもと まさし)さん。今回の訪問の目的を説明し、いろいろ聞いてみました。

◇今からどんなセリが行われるんですか。
仲本さん「今日ここでセリにかかるのは、定置(ていち ※1)の漁船・4隻と沖底(おきぞこ ※2)の漁船・3隻から水揚げされたもの。ほかに1本釣りのものもあります」
※1定置網(ていちあみ)の略称
※2沖合底引き網(おきあいそこびきあみ)の略称

◇どういった魚が揚がるんですか。
仲本さん「定置ではいろんな魚が入ります。イワシやサバはほぼオールシーズン。秋はカツオ、これからの冬はブリがメインになります。春先にはタイ。最近はめっきり取れなくなったけれど、昔は秋になるとサンマがたくさん取れました。あと月2回のペースでマグロ漁船が入ってきます」

◇今回、希少魚を探しに来たのですが。
仲本さん「それであれば、沖底ですね。いろいろな種類の魚が取れるので珍しいものも入っているはずです」

◇底引き網にかかってくるんですか。
仲本さん「尾鷲の海はリアス海岸なので、沖に行くと、すぐに水深300mから400mほどになるんです。その海底に網を入れて取るのが沖底。いわゆる深海魚もたくさん取れます。みなさんが普段見ないような魚が取れていたりしますね。今、揚がっている沖底の魚介を見てみたらどうですか」

 

沖底のトロ箱は、見事に見たことのない魚だらけ

IMG_0825

沖底の魚を見せてもらいました。今日はたくさん揚がっているということで、トロ箱(海産物を入れる箱)がズラリと並んでいます。箱の中をのぞいてみると、大半が名前の知らない魚やエビ。

ということで、トロ箱の中をチェック!

IMG_0797

▲一番たくさん揚がっていたエビがこのガスエビ。「氷をどけてもっとわかりやすく写真を撮りなよ」と言われそうですが、これには理由があって、時間がたつと色が変わってしまう劣化の早いエビなんです

IMG_0821

▲こちらがオニエビ。胴は短めで頭が大きいのが特徴です

IMG_0812

▲これはウチワエビ。昔は尾鷲でもすごくたくさん取れたそうですが、今では希少なエビです。甲羅の中に身がしっかり詰まっていておいしいんです

IMG_0816

アカザエビも高級なエビ。鮮魚店やスーパーではめったに見ることがないのですが、その理由は大半がレストランへ行ってしまうから。イタリアンではスカンピと呼ばれ、これを使ったパスタはソースにエビのエキスが溶け込み絶品。なかなか食べるチャンスがないエビです

IMG_0792

▲甲殻類ではタカアシガニも。水族館でしか見たことのないこのカニも1杯ずつセリにかけられます。この日は20杯ほどが揚がっていました。食べ応えがあるのは見た目通りですが、ミソもたっぷり

owase_IMG_0536

▲こちらの魚は、アカアンコウ(一般名称はミドリフサアンコウ)。見た目がちょっとグロテスクですが、おいしい魚。価格も手ごろで、唐揚げなどにして食べます。煮付けや鍋にするのもおススメだそうです

IMG_0844

ユメカサゴアヤメカサゴは高級魚。煮付けにするとおいしい!

IMG_0858

ショウワダイ(一般名称はワキヤハタ)は、上質な白身の魚として、地元では知られているそう。お造りが一般的ですが、焼き魚にすることも多いそう。尾鷲の名産である干物にしてもおいしいといいます

IMG_0847

▲赤い魚はエビスダイ。硬いうろこの下においしい身が隠れています。煮魚が絶品ですが、皮もおいしいので、タイらしく焼き霜造りなどにするのがおすすめの魚。黒い魚はマトウダイ。フランス料理でソテーにして食べられることも多い白身魚。生でもおいしく味わえますが、熱を通すと身がしまるので、地元では焼き魚にすることが多い魚です

IMG_0856

▲天ぷらや唐揚げなどで人気のメヒカリ。口溶けのよい白身魚として地元で愛されています

IMG_0829

▲尾鷲を代表する魚・ニギスは、メヒカリ同様、お造りや焼き魚、天ぷらなど、いろいろな食べ方で食べることができます。たくさん取れることもあって、尾鷲では干物の素材としても人気

魚について仲本さんにいろいろと伺っていたら午前7時に。いよいよセリがスタートしました。真ん中のスタッフの方がセリを仕切っているセリ人。

IMG_0931

仲買人は、手に持った小型の黒板に金額を書き、セリ人に見せます。

IMG_0960

写真中央の岩崎肇(いわさき はじむ)さんは、尾鷲市内に店を構える岩崎魚店の店主。尾鷲の希少魚を愛する仲買人です。岩崎さんが今、特に注目しているのが、クモエビ

owase_IMG_0390

▲その名の通り、クモのようなルックスのエビです。殻が硬いわりに身が少ないのですが、味がよくしっかりダシが取れます。「味はいいからいろんな人に食べてもらえるようにしたい」と岩崎さん。これこそ希少魚ですね

岩崎さんは、地元の飲食店のほか、全国の消費地にも出荷しているそう。「本当は、もっといろんなところに出荷して尾鷲の魚を知ってもらいたい。ただ、漁獲高が安定せず減少している今の状況では、新規にルートを増やせないんです」と話します。また、「いつでも決まった魚があるわけではないですが、尾鷲に来て、いろんなおいしい魚に出会ってもらえたら嬉しいですね」とも。

IMG_0635

今回、尾鷲港を案内していただいた三重県尾鷲農林水産事務所 漁政課の原 健人(はら けんと)さんに、さらに気になることを聞いてみました。

◇いろいろ魚を見せていただきました。尾鷲では何種類くらいの魚が取れるのですか。
原さん「150~180種といわれていますね。今日は多い方でしたね。冬になるとブリが揚がり始め、春先には最盛期を迎えるので、港にさらに活気が出ますよ」

◇最近、関西でも尾鷲の魚が食べられることがあります。
原さん「断定はできないのですが、2014年に紀勢自動車道が開通し、関西エリアからのアクセスが格段に良くなったことが、広く流通するようになった理由の一つかもしれませんね。県としても、尾鷲を始め三重県のおいしい魚を皆さんに食べていただけるよう、もっとPRしていきたいと考えています」

◇今回はじめて見るエビや魚もたくさんありました。
原さん「足の早い魚介類は大半が地元で流通しています。ガスエビを始め、エビ類は特に足が早いので珍しいものが多かったのではないでしょうか。ほかにもメヒカリやニギスなどの魚もお手軽に味わえるのは、地元ならではですね。個人的には、地元でソマと呼ばれるヒラソウダのお刺し身は、本マグロよりおいしいんじゃないかと思うのですが、鮮度落ちが早く、尾鷲でしか味わえない希少な魚といえます。チャンスがあればぜひ食べていただきたいです」

◇たしかにスーパーに並んでいる地元産魚介が安いですね。
原さん「私も魚が大好きなんで、尾鷲は天国です。もともと、干物が名産なのでスーパーにも大きめの干物コーナーがあり、お土産におすすめですよ」

owase_IMG_0576

そんな話を聞いたら、希少魚を食べない訳にいかないので地元のお店に行って食べることにします。

地元の魚介ファンでにぎわう名店で希少魚を味わう

最初に訪問したのが地元の魚介ファンでにぎわう「食事処 おふくろ」。尾鷲産の魚介を使った多彩な料理が味わえます。名物は、観光客がほぼみんな注文するという海鮮丼。マグロやカツオ、アジ、タコなど15種類ほどのった魚介は、ほぼ地元産だそうです。民芸調の店内には、テーブル席だけでなく座敷席も用意されています。

IMG_0664

「できる限り地元の魚を食べていただこうと、尾鷲港から魚を仕入れています」とは、店主の梅谷直樹(うめたに なおき)さん。

梅谷さんに希少魚を使ったおすすめ料理を作っていただきました。

IMG_0706

尾鷲ではよく見かけるガスエビのお造りは780円。甘みがあり、ねっとりとした食感が心地いいです。

IMG_0709

メヒカリはスタンダードな唐揚げ450円で。ふんわりとした身はジューシーで、日本酒が欲しくなる味わい。

IMG_0728

オニエビは旨煮680円で、ふんわりした身はもちろんですが、頭の部分のミソが衝撃的なおいしさ。熱が加わることでミソの粘度が増し、口の中でうま味が広がります。

IMG_0737

水槽から取り出し、さばいたばかりのホラ貝活造り1380円。中心部は上品なホタテ貝のようなやわらかさなのに、外側はアワビ以上のコリコリ感。1つの貝で全く違った2種の食感が楽しめます。

次に訪れたのが、地元の魚介を使った料理が味わえる創業1978年の大衆割烹「鬼瓦(おにがわら)」。ランチの煮魚定食が人気で、JR尾鷲駅前にあることから観光客も多く訪れます。店は広く、カウンター席のほか座敷や個室もあり、最大70人ほどが利用可能。しっかり味の染みた煮魚が好評なお店ですが、刺し身や焼き魚、天ぷらなど、地元尾鷲で捕れた魚介の定食が充実。定食にお造りをプラスする客も多いそうです。もちろん夜も多彩なメニューをそろえます。

IMG_1205

「友人が沖底の漁師をしていることもあって、数年前から積極的に珍しい魚介を置くようになりました」とは、店主の中野勝敏(なかの かつとし)さん。「〝わぁ?〟と言いながら、写真を撮るお客さんも多いです」とのこと。SNSにアップされた写真を見て、遠方から希少魚を求めて訪問するお客さんもかなりいるそうです。

IMG_1201

そんな希少魚料理の数々。大きなオコゼの煮付け800円~、ミミイカの煮付け600円などです。

IMG_1158

中でも人気はエビのお造り。手前はオニエビ、奥がクモエビで各600円。クモエビはねっとりした食感で身が甘く、オニエビは頭にしっかり詰まったミソの味が格別。

 

IMG_1177

クロムツの昆布締め600円。しっとりした身に昆布のうま味が加わっています。

IMG_1181

メヒカリのお造り。天ぷらがメジャーなメヒカリですが、ここまで大きいとお造りにできるそう。半身は炙(あぶ)りで。地元ならではのメニューですね。

IMG_0758

2軒のお店でいただいた料理はどれも初めて出会うものばかりで感動の連続。すっかり尾鷲の魚介のファンになりました。尾鷲の魚を飲食店で見かけたらぜひ食べてほしいですし、地元でしか味わえないガスエビのお造りなどは、尾鷲まで食べに行く価値ありです!

※記事内の魚介の名称は尾鷲での呼び名です。一般的な名称と異なる場合があります。

尾鷲の魚
http://www.city.owase.lg.jp/cmsfiles/contents/0000009/9607/posuta.pdf

尾鷲よいとこ定食の店
http://www.city.owase.lg.jp/contents_detail.php?co=new&frmId=13731

(掲載情報は、すべて平成30年12月時点のものです)

<今回訪れた店はコチラ>

食事処 おふくろ
住所:三重県尾鷲市小川東町31-15
電話:0597-22-9040
営業時間:11:30~14:30、17:00~21:00
休日:不定休
駐車場:10台

鬼瓦 (おにがわら)
住所:三重県尾鷲市野地町12-31
電話:0597-22-8055
営業時間:11:00~14:00、16:30~21:00
休日:不定休(月4回)
駐車場: 10台

■関連情報

つづきは尾鷲市で

つづきは三重で 「津市にはなぜ、安くておいしいうなぎ屋さんが多いのか?を調査&実食」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/eat/6480

つづきは三重で 「若手海女さんに会いに鳥羽へ 海を学び、カキを食する」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/feature/6070

つづきは三重で 「『カラスミ』&『マンボウ』 三重県南部の港町で2大珍味を味わう!」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/eat/5864

つづきは三重で 「三重県南部・尾鷲(おわせ)市で発見! 干物でも、燻製でもない、『梶賀(かじか)のあぶり』製造現場へ」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/eat/5672

つづきは三重で 「海の畑で海が育てる、三重の味覚『牡蠣』を訪ねて。」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/eat/4929