
自然豊かな三重県には、野菜や果物からお肉まで、食の特産品が数多くあります。今回は、お茶、松阪牛、みかんを多くの方に美味しく食べていただこうと、生産から加工、販売・提供までの行程を全て行う3つのお店をご紹介します。
■お茶農家が運営!こだわりの日本茶が飲めるカフェ・椿茶園(つばきさえん)
多くの参拝者が訪れる鈴鹿市の椿大神社(つばきおおかみやしろ)。そのお膝元にある、日本茶カフェ「椿茶園」をまずはご紹介します。
こちらが店内の様子。椿茶園は鈴鹿の山々を仰ぐ鈴鹿市山本町(椿地区)にあり、この辺りの茶葉の歴史は古く平安時代までさかのぼる、と言われているそうです。
カフェといえばコーヒーというイメージがありますが、そんな固定観念をもつ多くの日本人に向けて、「お茶をカフェで飲むのが当たり前になってほしい」と話すのは、もともとお茶農家だった店主の市川晃(いちかわ あきら)さん。
入店するとまず、お茶(緑茶(三種類)・ほうじ茶・玄米茶があります)を五種類の中から選びます。
選んだお茶を、店主が目の前で淹れてくれました。
一杯540円(税込)。この価格の中には驚くべきことに、椿茶園オリジナルの陶製カップが含まれています。
そのカップごとテイクアウトで注文することも可能で、次回来店時にカップを持っていくと100円引きというありがたいサービスも。
もちろん店内では、茶葉の購入も可能です。緑色の袋の『拝啓かあさん』は、複数のお茶農家の共同工場・有限会社緑粋園(りょくすいえん)のオリジナル商品。
「お茶は名脇役」という考えから、お茶と一緒に楽しめる地元の名産品や和菓子なども販売しています。
市川さんに、カフェを開店することになったきっかけを伺いました。
市川さんは、父・眞己(まさみ)さんが始めたお茶の直売店で働いていた時、来店されたお客様の一言に衝撃を受けます。
「お茶は販売していないのですか?」
市川さんが店頭に並ぶ茶葉を勧めると、彼女は首を振ってこう言いました。
「これはお茶の素。私が欲しいのは飲むお茶」
この出来事が、椿茶園を始めるきっかけとなります。自分が育てたお茶を目の前で淹れて、お客様に飲んでもらえる場所を作る。そして「もう一度、うちでも淹れたい」と思ってもらう。椿茶園は、来た人がお茶を身近に感じられる場所を目指しているのです。
「おしゃれな女性やカップルが、自分の淹れたお茶を飲んでいるのを見るのがすごく喜び」と笑いながら言う市川さん。
店内にはJAZZが流れていて、大人な雰囲気が感じられるお店です。
「いろいろな想いをもった人が、ちょっと心穏やかになってくれるようなところ。お茶ってそういうものですから」と市川さん。
椿大神社に立ち寄った際には、ぜひ一杯お茶を飲んでいきませんか?
■特別な日に食べたい!松本畜産の特産松阪牛
三重県を代表する特産品・松阪牛。その中でも多気町にある有限会社松本畜産は、こだわり抜いた特産松阪牛を肥育し、自社で育てた牛を自ら精肉販売したり、カフェで提供したりしています。
国道42号線から道を少し入ったところに、木々に囲まれた「お肉料理カフェ まつもと」があります。
代表の松本しのぶさんです。松本畜産は精肉販売もカフェも家族で経営しています。今回は定番メニューの「まつもとランチ」をオーダーしました。
そもそも「特産松阪牛」とは、但馬地方をはじめとした兵庫県より生後8ヶ月の選び抜いた仔牛を導入し、900日以上の長期に渡って肥育された牛のこと。
通常の松阪牛は長くても2年で出荷を終えるところ、特産松阪牛はそれ以上の期間肥育をします。そのため、餌代のコストがかかるうえ、多くても年間40~50頭しか出荷できないそうです。写真は松本一則(かずのり)さん。
それでもこの肥育の方法にこだわる理由とは。
目指すのは「特別な日に食べてもらえるお肉」だそうです。
「家族の誕生日や何かのお祝いのときに、じゃあ松本畜産のお肉食べよっかって。そういう立ち位置でいたいと思ってます」と、しのぶさん。
ランチは、最初に出てくるスープを飲みながら、お肉を待ちます。
メインディッシュの松本畜産で育った特産松阪牛です。薄切りのお肉を醤油ベースのソースに絡めたものです。また、自家栽培の無農薬有機野菜を中心に、地元産にこだわった野菜がお皿を彩ります。

お肉だけではなく、お野菜やお米などにもこだわった絶品ランチでした!
もともと畜産農家だった松本畜産が、精肉販売とお肉料理カフェを始めたきっかけは何だったのでしょう。
お肉は食卓に並ぶまでに、屠殺(とさつ)や精肉といった専門的な工程を経なければなりません。そのため畜産農家は、自分が育てたものを自分で食べるということが通常は非常に難しいそうです。
「自分で育てた牛を食べようと思ったら、またお金を出して買わないといけない。松阪牛なので高いですよね。一番悲しいのは、自分たちが育てたものを食べることが難しいこと」そう語るしのぶさん。
「きちんと味もみて、美味しいって確認して、それが明日の肥育に繋がるわけじゃないですか。最後の最後まできちんと責任をもって売るために、育てたものを食べるまでの道筋を自分たちで作りたくて」とのこと。
畜産農家ならではの葛藤があったのですね。松本畜産がもともと屠殺権を持っていたことや、しのぶさんが松阪市内の精肉店で生まれ育ち、調理師免許を持っていたことも、精肉販売とカフェ実現の近道になったそうです。
木の温もりが感じられる店内でいただくランチは完全予約制で、前日までに予約が必要です。
精肉は、近くの直営店で販売しています。
畜産農家が自信を持って勧めるこだわりのお肉・松本畜産の特産松阪牛。ぜひ一度、味わってみてください。
■みかんのキャラメルにカステラ焼きも!?南伊勢の土実樹(つみき)
お茶で心も身体も温まり、お肉でお腹がいっぱいになった後は、デザートも食べたいですよね!
ということで、最後にご紹介するのは、海に面する南伊勢町の国道260号線沿いで、柑橘類の直売店を経営する農事組合法人土実樹です。「五ヶ所みかん直売店」と大きく書かれた看板が目印。
こちらでは、南伊勢町で生産しているさまざまな品種の柑橘類を販売しており、また、自社ブランドのみかんである「デコタン」をいろいろな形で利用した企業連携のオリジナル商品も販売しています。
柑橘類の自然雑種をタンゴール(みかん×オレンジ)と呼ぶことから、「出っ張っているタンゴール」の意味を込めてデコタンと命名したとのこと。
南伊勢町内で最もよく知られている商品の一つが「でこたんようかん」。商品の製造は別の会社ですが、土実樹で有機栽培したデコタンだけを原料に使っています。さっぱりとした甘みが好評で、南伊勢ブランド品にも認定されています。
こちらも土実樹のデコタンのみで作られた「でこたんキャラメル」
「でこたんの輝き カステラ焼」。デコタンの爽やかな香りと濃厚な甘みと酸味が生きた焼き菓子です。
三重限定の「でこたんみるく」。有名お菓子メーカーが土実樹のデコタンを使用して作ったキャンディーです。
「でこたんの雫」。デコタンのうまみがたっぷり詰まったジュレです。
こちらは土実樹オリジナルの商品「五ヶ所みかん 完熟こつぶ ストレートジュース」。
直売店ではデコタンをはじめ南伊勢のみかんを利用した商品のラインナップが豊富で、お土産にも喜ばれそうですね!
3〜11月はソフトクリームの販売も行っているので、タイミングがあえば、ぜひいただいてみてください。

もともとは生産のみを行うみかん農家だった代表の溝口さん。みかん畑の前や庭先で販売をしてみたところ好評を得て、お客さんからの要望もあり「直接販売したい」と思うようになったそうです。
しかし、実際に販路を自分で用意するのは一農家の力では難しいため、二の足を踏んでいた溝口さん。後押ししてくれたのは奥様で、「すべては家内の『私が全部売ったるよ』という一言が始まりです」とのこと。
直売店で取り扱う豊富な商品ラインナップについては、「自分たちが作ったものに対して愛着があるから、こんなこともしてみたいっていうアイデアが浮かんでくる」と溝口さん。
どうせやるなら町内で一番人通りの良い場所に店を構えようということで、国道沿いに大きく看板を掲げて販売を始められました。
生産したみかんの直売に、加工品の販売も行う土実樹。これからは加工部門へさらに力を入れていきたいと語ってくれました。どのような新商品が生まれるのか期待が高まりますね!
いかがですか?
今回ご紹介したお店は、もともと農業や畜産業だけを営んでいましたが、「自分が育てたものをお客様が食べたり、飲んだりするところを自分の目で見てみたい」というような思いから始まりました。
このような、生産者が加工、販売・提供までの工程を全て行うことを「6次産業化」と言うそうです。このような取り組みが、どんどん広がっていくといいですね。
自ら育てたお茶、松阪牛、みかん。素材のこと、どのように食べると美味しいか、を知っているからこそ生み出される味を、ぜひ現地で皆さんも味わってみてくださいね。
(掲載情報は、すべて令和元年12月時点のものです)
- <今回の取材先はこちら>
★椿茶園
住所:鈴鹿市山本町1795-1
電話:059-371-1845
営業時間:10:00〜17:00
定休日:火曜日
- ★お肉料理カフェまつもと
住所:多気郡多気町前村1808
電話:0598-39-3368
営業時間:9:00~14:00(お食事は完全予約制で11:00~。前日までの予約が必要)
営業日:木・金・土曜日 ※第二水曜翌日の木曜日はお休みです。
- ★土実樹
住所:度会郡南伊勢町五ヶ所浦3958
電話:0599-66-1201
営業時間:9:00〜17:00
定休日:水曜日(不定休あり)