
とある写真関係者の集いに出席した時のこと。”お久しぶり”やら”はじめまして”やらが行き交う談笑中、「三重県といえば、全日本写真連盟の鈴鹿支部はすごいね」と複数の方々に声をかけられたのが心の奥にひっかかっていました。
ちなみに全日本写真連盟とはなんぞやといいますと、全国に約700の支部がある日本屈指の写真愛好家の組織です。むむむ、気になってしょうがない、写真談義をしてみたい……!!!!!
浅田:次の “つづきは三重で”、鈴鹿支部に行きたいんやけど
鼻息荒く直談判してみるとあっさりOK。
近鉄電車の白子駅で降車、カメラを握りしめ皆さんに会いに行ったのです。
———心待ちのご対面

鈴鹿支部は全員で22人在籍していて、その中でも今日は幹部の6人の方々、例えると侍ジャパンのクリーンナップにお集まりいただきました。
メンバー:浅田さんの写真展は、三重県立美術館の個展を観に行きましたよ。
ちなみに僕は家族と一緒に三重県内でいろんなシチュエーションになりきって、セルフタイマーを使い作品を撮影している「浅田家」という作品で、ありがたいことに第34回木村伊兵衛写真賞という賞をいただいたのです。
浅田:えっ!ありがとうございます!ちなみに……僕のように演出を加えてセットアップで撮る方はいらっしゃいますか?
メンバー:浅田さんのような写真を撮る人はいないね~。
メンバー:ちょっと演出やりすぎっ!行き過ぎって言う人もいるかもね。
浅田:もしかして……不評ですか……?
メンバー:いや、爽やかなやらせで、見てて気持ち良いです。
浅田:よかったー。爽やかなやらせってうまいこといいますね~。
一同ガハハハ!そんなこんなで写真好きな三重県人同士、会話は盛り上がります。さあさあ、自分で振っておきながらなんですが、僕の話は置いといて皆さんの写真を見せてくださいませ~。

———自信作とご対面
メンバー:事前に”三重県で撮った写真を持って来てほしい”と伝えてもらっていたのですが、どこで撮ったか分からない写真が多くて、あんまり三重県の観光PRにはなりませんよ。
浅田:だ、大丈夫です。観光写真じゃなくても全然問題ありせん。
メンバー:ならいいのですけど。
慣れた手つきで写真を並べます。
印画紙を大量に買う時の空箱に、四つ切りにプリントされた写真がどっさりと入っているのがちらっと見えました。やはり只者ではない雰囲気が漂ってきます。わくわく。

大学の写真部がきっかけで写真にハマり、今日まで撮った写真は数知れず。奥さんからは「あんたから写真を取ったらなにも残らない」と言われるほど。常にカメラを持ち歩き、鈴鹿の年中行事は全て取り尽くしたという。
浅田:この写真はどこで撮られたのですか?
坂尾:メジロという鳥で、うちの庭です。
美しい構図と配置、まるで日本画のような佇まい。背景が真っ黒で、木とメジロが鮮明に浮かび上がります。
浅田:ちなみに背景が黒いのは後で焼き込んで黒くしたのですか?
坂尾:いや、これは枝ごと冷蔵して保存し、周りに実がなくなった頃に黒い壁を立てかけた前で枝ごとセットして、そこに寄ってきたメジロを撮っているんです。
……一瞬言葉を失いました。しかしそうでもしないとこの写真は撮れないでしょう。
なんだろう、子供の頃、木に蜂蜜を塗ってカブトムシを採る時のようなワクワク感でしょうか。最初からパンチのある写真です。
浅田:次の写真は大雪ですが、三重県ってあんまり雪降りませんよね?雪国で撮られた写真のように見えますが、これは三重ですか?
坂尾:そう、雪が降って珍しかったから、孫と娘夫婦を連れ出して撮ったんです。
娘さん夫婦の(この寒い中で写真とらなくても…)という心の声と、お孫さんのはしゃいだ顔が雪の勢いとあいまって印象的です。お孫さんの成長記録としても良いし、他人が見ても目尻が下がりますね。

凛として静けさを感じる写真です。モノクロもカラーもお祭りの一コマのようです。
鎌田:これは二枚とも桑名市の石取祭で撮ったの。通称「日本一やかましいお祭り」として有名で、とても撮りどころの多い祭りよ。
浅田:なんと!三重の有名な祭りなのに恥ずかしながら知りませんでした。それに写真からは静けさを感じたのですが、「日本一やかましい祭り」なんですね。祭りでは神輿を担いだりするのですか?
鎌田:大きな山車がたくさん出てくるのよ。けど山車は全然撮らないで人の表情しか撮らないわね。
祭りと言えば神輿や山車をメインにレンズを向けがちですが、その周辺に目を向けて人の姿を撮られていて、写真から物語を感じます。


ハーレーにまたがる海女さんの写真は、一度目にしたことがあります。「全日本写真連盟2013 一般の部」で金賞、つまりその年度の最高の賞に輝いたもので、僕の愛読誌に掲載されていたのでした。
牛場:これは海女の撮影会で、海女着を乾かすシーンのたき火を準備している合間に、たまたま海女さんが若者のところで遊んでいるところを見つけて撮ったの。
浅田:なるほど。だからこんなに表情が自然なんですね。
他の5人のメンバーから横槍が入ります。「牛場さんは1番歩いて撮るもんな」「1カ所にじっとしてないわ」「瞬発力があって好奇心も強い」「目が3つあるんちゃうか?」
もう1枚のお相撲さんの写真も、同じように足で稼いでこの光景に出会ったのでしょう。まさに最高の一瞬が詰まった写真。牛場さんは特別な瞬間を引き寄せる力を持っていそうです。

写真歴50年以上、僕の写真歴のだいたい2.5倍です(汗)。
浅田:写真がデジタルになったのはここ10年くらいですよね。
堀:そう、昔は男5~6人で暗室に入って、朝までプリントしてたんや。あの頃は楽しかったな~。
そう言って遠くを見つめる堀さん。その表情で暗室作業が大好きなのが伝わってきます。
堀:写真は3回楽しめるんや。1回目は撮りに行くとき、2回目はプリントするとき、3回目はコンテストで結果が出たとき。
浅田:堀さん、それは名言ですね。
素晴らしい一言に感動しているのをよそに、部員の面々は堀さんのプリントを囲んでじっくり見つめます。
「これちょっと固すぎるの~」「確かに中間色が出てないわ」「ほんまやなぁ、ちょっと焦げとるなぁ」
躊躇ないダメ出し。鈴鹿支部は感じたことをズバズバ言うのが特徴だそうです。きついことも言い合うが、それはその人のことを思えばこそであると。鈴鹿支部が全国でもトップレベルである理由はここにもありそうですね。

テーブル一面に猫の写真がズラリと並びます。
浅田:どのように猫を撮るのですか?
矢田:そうですね、朝5時から撮っています。
浅田:朝5時!? なんでそんなに朝早いんですか?
矢田:朝日が出て逆光になるからね。僕はほぼ100%逆光でストロボを使用して撮るから。しかも15ミリくらいの超広角レンズでギリギリ寄って撮るのが好きやな。
昨今、巷では空前の猫写真ブームですが、矢田さんの猫写真はなんとも奇妙な?雰囲気がします。
浅田:まるで合成したかのようにものっすごいジャンプしていますけど、これは一体どうなっているんですか?
矢田:秘密兵器見せてあげるわ。これを使って撮るんです。

写真の理由、お分かりいただけたでしょうか。

樋口:最近は三重県で撮ることよりも、タイへ行って撮ることが多くて、どんな写真を持ってこようか悩みましたよ。
浅田:えっ、タイですか!?
樋口:タイの奥地では、今の日本では撮れない写真が撮れます。特に親子をテーマに撮影しています。
そんな樋口さんの写真で、僕がとても気になったのがホタルの写真です。
樋口:これは白子の家の周りにいるヘイケボタルです。1年に3週間も撮れる日はありません。10年ほど撮り続けましたね。
今ではデジタルカメラになり、暗くても綺麗に撮れますが、フィルム時代にこの暗さではさぞかし撮るのに苦労なさったはずです。
樋口:最初は田んぼの隅で水に足を突っ込んで撮ったりしていた。けど少しでも風が吹くと写真がブレるのでアクリルの箱を被せて風を避けたり、色々試行錯誤しました。時には不審者扱いでパトカーが来たりね……(苦笑)。
確かに遠くから見たら相当怪しい撮影風景ですが、写真は極限まで削ぎ落とされ、洗練されたとても美しい写真です。

新しいものが好きで何事にも興味がある樋口さん。もちろんばっちりスマホをお使いです。フィルムからデジタルに変わったときも、一番早く取り入れたそう。新しいものを柔軟に取り入れることもステップアップの一つになるのですね。

スマホの画面をちらっとのぞくと、まさかのポケモンGOです。
僕はポケモンGOに手を出しておらず、時代についていけておりません。
樋口さん:ポケモンはやらんといけんよ~これで4キロ痩せたし。
樋口さんのそういうおちゃめなところに、みんなが惹かれるのかも!?

せっかくなので、一緒に鈴鹿の町を歩きながら撮影することになりました。
メンバー:いつもはこんなにぞろぞろと歩くことないもんね。各々勝手に散らばって好きなものを撮っているから。


浅田:坂尾さんにとって三重県を撮るとは?
坂尾:作品を作ろうと思えば、どうしても三重県らしさが飛んで行ってしまう。だから三重県らしさ、その地域らしさという概念に縛られると良い写真は撮れない。だけど故郷が原点、鈴鹿市にとても愛着を持っています。

浅田:堀さんまだまだこれからも写真撮りますか?
堀:そりゃまだまだ撮るよ。一人で動ける間はね。生涯現役ってやつです。
今回の鈴鹿支部での写真談義では、多くの学びがありました。月並みな言葉ですが、やっぱり写真っていいなぁと改めて思った次第です。
その中で牛場さんが仰っていた言葉が強く心に残っています。
牛場:写真をやる前と今では、別の人生を生きている気がします。写真をやっていない頃からでは今の自分は想像がつかないですが、日々、未知の自分と出会いながら、支部のみんなと写真を撮っています。
各々が勝手にちらばって写真を撮っていても、根っこの部分で仲間同士のつながりを深く感じている。One for all, All for one 一人はみんなのために みんなは一人のために、ですね。
僕も、30年40年50年……と写真を撮り続け、家族、友人、仕事仲間、撮影先での出会い、たくさんの人々を巻き込みながら未知の人生を力いっぱい生きてゆきたいです。
これからもお互い、バリバリ写真を撮っていきましょう。故郷の三重県に愛着と誇りを持ちながら。
カシャ、おしまい。