幻の海女に出会う夏、2016。【浅田政志企画 vol.1】

2016.11.18

浅田政志

幻の海女

———幻の海女が鳥羽にいるらしいー

僕の生まれ故郷である三重県津市から海女のメッカである伊勢志摩方面へはやや距離があります。
そのため、観光客向けのデモンストレーションを見た記憶がうっすらとあるくらいで、海女の存在を身近には感じていませんでした。
今は東京を拠点に写真家として全国津々浦々を撮影する日々。他府県を知れば知るほど、故郷である三重県への探究心を募らせる今日この頃です。
そこでまずは三重県と言えば…の横綱的存在である海女に会っておかねばならないのでは!?と謎の使命感に駆られて車を走らせました。

———早速待ち合わせ場所の海女小屋へ

津市から車で向かうこと1時間半。鳥羽市国崎町(くざきちょう)に近づいてきました。
事前情報では、国崎町の海女は三重県の中で一番歴史が古く、伊勢神宮に奉納する熨斗鮑(のしあわび)を大昔から捕るなどまさに海女の老舗。
それなのにメディアにはほとんど露出がなく、まさに”幻の海女”であるらしいのです。
こ、これは…。期待に胸が膨らみ、ごくりと唾を飲み込みました。

海沿いの細く長い一本道が、さらに期待を煽ってくれる
▲海沿いの細く長い一本道が、さらに期待を煽ってくれる

国崎町へ到着、早速待ち合わせ場所の海女小屋へ向かいます。
(この扉の向こうに、幻の海女が……)
緊張のご対面、小屋のドアをノックすると、「今、着替え中〜!」とのお返事。
基本待ち合わせ時間30分前行動の僕。張り切りすぎてかなり早めに着いておりました。
改めて落ち着くべく深呼吸をします。すーはー。

海女が休むための海女小屋(通称”かまど”)
▲ここは海女が休むための海女小屋で、通称”かまど”と呼ばれています

着替えを終えられたということで、おずおずとかまどの中へ足を進めます。
すると、目の前には真っ白い磯着を着た3人の海女さんが!
そしてとびきりの笑顔!
メディアお断りの無骨で硬派なイメージがガラガラと音を立てて崩れていきます。
「今日は海が荒れてるから、海には入れませんけどどうします?」
前日が台風で今日は波が荒く海が濁っているため漁には出られないとのこと。
実際に潜っているところを見られないのは残念だけど、その代わりたっぷりと撮影させてもらえることになりました。

———巷で流行の女子会のルーツは”かまど”

かまどに入るとタイムスリップしたような気持ちになれる
▲かまどに入るとタイムスリップしたような気持ちになれる

真夏なのにたき火がパチパチと音をたて燃えている。
真夏でも海の中に潜り続けると身体がとても冷えるのだ。たき火で身体を温めてから潜り、帰ってきたら冷えきった身体を温める。たき火は年中欠かすことができません。
暖をとりながら芋や干物を焼いて食べ、その日の漁の話から旦那の悪口?まで、会話に花が咲くのだそうです。
巷で流行の女子会のルーツは”かまど”だそうです。
国崎の海女の歴史はなんと2000年以上!紀元前から海に潜って、たき火をして、女子会を開いていたとは…。
女子会はさておき、三重県が誕生する太古の昔から、海と人間の関係を築いてきたのです。

それではここで、”幻の海女”を惜しげもなくご紹介したいと思います。

世古 きみ子さん
▲世古 きみ子さん(国崎生まれ国崎育ち 海女歴40年以上)
奥田 しげ子さん
▲奥田 しげ子さん(国崎生まれ国崎育ち 海女歴40年以上)
岡本 和歌子さん
▲岡本 和歌子さん(石鏡(いじか)から嫁いで国崎へ 海女歴40年以上)

経歴がざっくりしていますね?正確な海女歴は皆さん不明のようです。
なぜなら国崎町の女性は中学生くらいになると、みんな海に遊びに行って潜り、時には親の手伝いをするのが当たり前なので、今日この日から海女業を始めました!という線引きがないらしい。
「眼鏡をせずに、石を掴んでくるのが最初」
一人がそう言うと他の二人も大きくうなずく。
ちなみに、海女歴40年はまだ若手だそうで、国崎には82歳の現役海女がいらっしゃいます。
しかも1番よく捕るとのこと…。国崎町の海女恐るべし!

3人のピース
▲さすが若手の皆さん!ピースがバッチリ似合っています

素敵です〜次は浜辺に行ってみましょうか。

 

———これぞまさしくマーメイドスマイル

かまどで汗をかいたせいか、外の風が涼しく気持ちよく感じる
▲かまどで汗をかいたせいか、外の風が涼しく気持ちよく感じる

天気はこの通り晴天。
台風で洗われた澄んだ空気が、太陽の日差しをそのまま海女さんに届けてくれています。

国崎町の海女とともに歴史を育んできた海
▲この海が国崎町の海女とともに歴史を育んできた

漁が行える日は、国崎町の海女総勢30人ほどが午前10時から一斉に潜ります。
制限時間は1時間30分。乱獲を防ぐため、厳正に制限されています。
漁の期間は4月1日から9月15日まで、季節によってアワビやサザエや岩牡蠣、ウニやナマコなど季節により捕るものも変わります。
そして皆さん、”自分だけが知っている、秘密のポイント”があるそうです。
潜水時間は40〜50秒が勝負。息が続くギリギリの秒数です。
1時間30分と聞くと短く感じますが、何度も海に潜るので、体力の消耗はとても激しいそうです。
海女のノウハウを親や先輩から教えてもらったことはほとんどなく、人の技を取り入れたり、日々の経験で得た技術に磨きをかけたりしました。

浜から潜る人、船で少し沖まで行って潜る人、人それぞれ
▲浜から潜る人、船で少し沖まで行って潜る人、人それぞれ

さて今度はゴーグルをかけてポートレートを撮らせてもらうことに。
やはり思った通り、ゴーグルをかけると海女の顔つきへと変わります。

世古きみ子さん
▲世古きみ子さん
奥田しげ子さん
▲奥田しげ子さん
岡本和歌子さん
▲岡本和歌子さん

今日は好調!の時は、制限時間内に20個のアワビが捕れるそう。
そして時には全く捕ない日もあり、1日中テンションが下がってしまいます。
頼れるのは自分の体一つです。

見慣れた海を眺める姿がバッチリ絵になる
▲見慣れた海を眺める姿がバッチリ絵になる

どうやってアワビを捕るのか尋ねました。
「アワビの貝殻に藻やホコリが積もって岩そっくりだから、潜って海底を見ただけではどこに獲物がいるのか分からないよ。だからアワビがいそうなポイントに近づくの。
アワビは私の気配で一瞬ピクッと動く。そこに狙いを定めてささっと捕るの。
下手に触ると、アワビは岩から剥がれなくなっちゃうからね。
捕れそうなポイントの見つけ方は、自分の勘(笑)」

ざざ〜ざっぱ〜ん
▲ざざ〜ざっぱ〜ん

今日のメインカットはこの1枚。
潜らずとも、3人が海の近くにいるだけでとても絵になります。
海は海女さんにとって職場でありながら、生まれた時からずっと側にいる存在です。
「じゃあ皆さんもっと寄って下さい。大きなアワビが捕れた時を思い出して…ハイチーズ」
いいですね〜なんとキラキラとして凛々しい姿なのでしょう〜。

これぞまさしくマーメイドスマイル
▲これぞまさしくマーメイドスマイル
まさしく三重県の誇りです
▲まさしく三重県の誇りですね

撮影の終わりが近づき、堤防を歩いて帰っていると、国崎町の子どもたちが描いた絵が見えた。
そこになんと、とーっても大きいアワビがあるではありませんか!
すかさず「そのアワビを捕ってください!」 「え??こう?」 「そうです!巨大アワビ捕獲!」 「ハハハッ」
思わぬ出会いで今日一番の笑顔を捕りました!いや撮りました。
さすがに実物はこんなにビッグアワビではないですが、子どもからはこれぐらいの大きさに見えるのかも!?

アワビのモチーフ
▲他のモチーフの中でアワビが一番大きく描かれていました

海の中では色とりどりの魚に囲まれて、海女さんも一緒に泳いでいるのですね。。。

海の中で一緒に潜っているような気分!?
▲海の中で一緒に潜っているような気分!?

———海女さんの、もう一つの顔とは?

実はこの3人、海女以外にももう一つの顔を持っています。
その姿も撮りたい欲が出てきまして…同じトル(捕る・撮る)仲間同士、きっとこの撮りたい欲をわかりあえるはず。
ということで、いそいそと後をついてゆきました。

世古 きみ子さん
▲世古 きみ子さん(旅館一乃波 女将)

海だけじゃなく畑仕事もお手の物です。

奥田 しげ子さん
▲奥田 しげ子さん(浜辺の宿丸文 女将)

旅館から漁港まで徒歩30秒。朝から漁を眺めるのも良いかも。

岡本 和歌子さん
▲岡本 和歌子さん(民宿・居酒屋かどや 女将)

岡本さんが捕ったアワビやサザエをこの居酒屋でお腹いっぱい食べてみたいですな。

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〜完〜

「幻の海女に出会う夏、2016」はこれにておしまい〜。
は〜!実に濃厚な1日でした。思わず知ったかぶりで会う人会う人に海女知識を披露してしまいそうです。
岡本さん、世古さん、奥田さん、お忙しい中1日取材にご協力いただき、本当にありがとうございました!!

 

水引に熨斗鮑がついたお守り
▲水引に熨斗鮑がついたお守り

(おまけエピソード)
今日の取材を終えた感謝をお伝えしたいと思い、国崎町内にある海士潜女神社(あまかづきめ、あまくぐりめじんじゃ)へ立ち寄りました。
そこでアワビの貝殻に入って、水引に熨斗鮑がついたお守りを発見。
熨斗鮑は不老長寿の効果の伝説があるそうで、お土産として実家の父に買って帰りましたとさ。