コーヒーから広がる人の輪 多気町の古民家カフェが熱い!

2021.7.9

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

里山の自然豊かな風景が広がり、ゆったりとした空気が流れる三重県多気郡多気町。そんな町に”コーヒーを飲む最高の場所”を求め、東京で60年以上続くコーヒー豆の焙煎店を営んでいた金川幸雄(かねかわ ゆきお)さんがオープンした「金川珈琲」があります。東京からの移住を決めてから、たくさんの人との縁が生まれ、その輪は広がり続けているそう。「金川珈琲」を中心に生まれた、新たな地域のつながりを取材しました。※記事中の価格は税込み。

<Index>
・親子3代続いたコーヒーの味を守り続ける「金川珈琲」
・人の縁がつないだ開業までの道のり
・スイーツの提供でさらに深まった地域とのつながり
・常連さんにも聞きました「金川珈琲ってどんなお店?」
・コーヒーがつないだ縁を大切に、祖父の代から守る豆の魅力を伝えたい
・多気町に行ったら立ち寄りたい「オススメ観光スポット」

親子3代続いたコーヒーの味を守り続ける「金川珈琲」

2020年6月、築130年以上の元呉服店を改装してオープンした「金川珈琲」。中庭には、水琴窟(すいきんくつ)や石灯篭(いしどうろう)など、今ではなかなか見かけない、昔の装飾品もいくつか残っているそうです。落ち着いたたたずまいに、心ひかれますね。

店主の金川幸雄さんと、パートナーの淺奥美穂(あさおく みほ)さん。金川さんは祖父の代から続くコーヒー豆の焙煎店の3代目。祖父の英一(えいいち)さんが、1951(昭和26)年、東京の大田区で開業。父の正道(まさみち)さんはブラジル政府のブラジルコーヒー院(IBC)で学び、「コーヒー鑑別人」の資格を取得。金川さんは、帰国した父・正道さんのもとで焙煎の技術を極めたそうです。

人の縁がつないだ開業までの道のり

生まれ育った東京でお店を経営していた金川さん。2015年頃、「ゆっくり落ち着いてコーヒーを飲める場所で『金川珈琲』を開きたい」と、移住を具体的に考え始めました。移住者を支援する「ふるさと回帰支援センター」で出会った担当者の熱心な対応から、三重県が気になるように。三重県に移住してから、どの町で開業するか、100軒以上の家を見学して、多気町丹生(にう)で暮らすことを決めたそうです。
その理由は、多気町役場の移住促進担当者の親身な対応に心を打たれたこと、さらに物件との運命的な出会いも。移住を考え始めてから、実に5年かかりました。

「ここに決めてオープンするまでに、すでに多くの人との出会いと、さらにたくさんの支えがあってたどりつきました」と金川さんと淺奥さん。特に店舗の改装には特別な思い入れがあったそう。施工は「三重県古民家再生協会」の担当者に紹介してもらった、三重県大台町の山路工務店に依頼しました。
「山路工務店さんは、古民家再生に力を入れていて、素晴らしい技術を持っています。建物の良さや雰囲気を最大限に残したいという思いを伝え、内装デザインなど何度も打ち合わせを重ねた結果、当時の梁や建具を残したまま、現代のライフスタイルにも合う、ステキな空間ができました」と金川さん。

「歴史ある建物なので、中を見たいという人がたくさんいらっしゃることから、山路さんのご協力で、改装前に家の内覧会を開きました。開業に先駆けて、こういう形でご近所の皆さんに見て頂く機会を得たのは本当によかったと思います」

(写真提供:金川珈琲)

DIYの経験はまったくなかったそうですが、自分たちでできるところは作業に挑戦。写真は金川さんが、「おくどさん」と呼ばれる昔のかまどを取り壊している様子。毎日、職人と一緒に顔を真っ黒にしながら取り組んだとか。着工してから完成まで、約6ヶ月かかりました。

(写真提供:金川珈琲)

カウンター奥の木目のタイルは金川さんと淺奥さん2人で貼ったそう。

店内には、家が完成したときに山路工務店の人たちと撮影した記念写真が飾られています。「工務店のみなさんとは今でもお付き合いが続いています。釣り友達になった人も。空き家だった状態から完成まで、一緒に取り組んだチームのような存在です」と淺奥さん。

オリジナルのマドラーは、改築の際に出た130年もののケヤキの廃材で作られています。持ち手に刻印されたコーヒーのメニュー名がオシャレですね。


オープン祝いにいただいたオリジナルのコースターのデザインを気に入った金川さんと淺奥さん。制作した木工アーティストのトクモリカズヒロさんを紹介してもらって依頼したというこだわりのマドラーです。木の温もりが感じられるお店の雰囲気にマッチしています。

喫茶スペースの奥にある座敷には、年代物の蓄音機(ちくおんき)や打掛(うちかけ)が展示されていて、誰でも気軽に見ることができます。毎日のように通う常連のお客さんが、「この家にきっと合うやろう」と言ってコレクションの一部を提供してくれたそうです。

こちらも常連のお客さんが提供してくれた年代もののカメラコレクションの一部。趣のある内装にピッタリ。古民家を改装して誕生した「金川珈琲」を、地域の人が受け入れ、大切に思う気持ちが、あちこちに感じられる店内です。

スイーツの提供でさらに深まった地域とのつながり

「金川珈琲」で提供するスイーツは、すべて近くのお店から仕入れています。「地域のみなさんと一緒に頑張っていきたいという思いがあり、ご縁ができたお店のスイーツをおかせてもらっています」と金川さん。

写真左は、ご近所のお菓子職人・竹川さんのチョコレート菓子です。香ばしいナッツ入りと、「金川珈琲」のコーヒー豆を使った味の2種類(各150円)があり、コーヒーとの相性もバツグン。写真右は、多気町のお隣に位置する度会町(わたらいちょう)にある洋菓子店「ルシエン」の「Rucien’sクッキー」(250円)。チョコやバターなど5種の味が楽しめるそうです。同店が提供する「バスクチーズケーキ」(350円)は特に人気で、開店早々に売切れることもあるそう。

そのほか、多気町相可(おうか)のパン屋さん「のことこ」の「ミニトースト」(200円)も人気のメニュー。「金川珈琲」には地元のおいしいものが多彩にそろいます。

こちらはお店の斜め向かいにあるパン屋さん「ホタルカゴ」の「ガトーショコラ」(250円)。お酒の香りが広がる濃厚な味わいがコーヒーにピッタリです。

この「ガトーショコラ」を提供している「ホタルカゴ」を訪ね、オーナーさんにお話を伺いました。

お店を一人で切り盛りするオーナーの由紀子(ゆきこ)さん。2018年12月、由紀子さんの自宅の縁側で開業した「ホタルカゴ」は、第1と第3金曜だけの限定営業で、自家製酵母のパンを販売。焼きたてパンのおいしさが口コミで広がり、すぐに売り切れてしまうほどの隠れた人気店です。

「『金川珈琲』さんには定番のガトーショコラと、気まぐれで焼いているタルトなど、主にスイーツを提供しています。『チョコレート系のスイーツをお店で出したいんだよね』と金川さんと立ち話をしたのがきっかけです」と由紀子さん。立ち話から始まるなんて、ご近所さんらしいエピソードです。

「ホタルカゴ」の看板商品はカンパーニュ。小麦の香りなど素材本来の味が楽しめます。お店には、プレーンのほか、ナッツやチョコを練り込んだものなど、常時5種類ほどが並びます。

(写真提供:ホタルカゴ)
(写真提供:ホタルカゴ)

メロンパンやドーナツ、どら焼きなど菓子パン系も人気。「ホタルカゴ」の営業日に限り、購入後に、「金川珈琲」に持ち込んでいただくのもOKだそうです。

レーズンを水に漬けてつくる自家製酵母

気軽な気持ちで始めた「金川珈琲」とのコラボでしたが、これがきっかけとなり、新しいお客さんとの出会いが増えたそう。「『金川さんのところで食べたガトーショコラがおいしくて』と言って、帰りに立ち寄ってくれるお客さんが結構いらっしゃるんです」と由紀子さん。

実は由紀子さんも金川さんたちと同じく、多気町への移住者。自然豊かな環境に惚れこみ、6年前に同じ県内の津市から家族で移り住みました。移住者が多く、同じ悩みを相談し合える仲間が多いのも、暮らしやすい理由の一つだそう。また、訪れるお客さんのほとんどが、誰かの友達や知り合いで、そんなローカルなつながりも魅力に感じています。

「少し歩けば季節の花が満開。ホタルの時期には、庭にまで飛んで来るんです。多気町は子育てには特にオススメ。田んぼでお米を育てたり、庭でニワトリを飼ったり、ここだからできる学びがたくさんあります」と多気町への思いを話してくれました。

常連さんにも聞きました「金川珈琲ってどんなお店?」

「金川珈琲」には、顔なじみの常連さんがたくさんいます。週に1回は必ずコーヒーを飲みに訪れるという松本公男(まつもと きみお)さん。この日は、奥さんと2人で来店していました。いつも必ずカウンターに座り、金川さんとの会話を楽しむのがお決まりだとか。

「近所で本格的なコーヒーを飲めるのは嬉しいね。私はいつもブラジルを注文して、マスターが淹れてくれるのをこの指定席から見るのがお気に入り」と話してくれました。「金川珈琲の魅力は?」と聞くと、奥さんと顔を見合わせて「コーヒーはもちろんやけど、マスターの人柄かな」とニッコリ。「金川珈琲」が地元の人に愛される理由がわかったような気がします。

「金川珈琲」では、オーダーを受けてから、一杯一杯、丁寧にハンドドリップします。コーヒーの香ばしく芳醇(ほうじゅん)な香りがただよい、お客さんも待ち遠しい様子。

コーヒーのメニューは8種類がスタンバイ。オリジナルブレンドの「Vosso Amigo mix(VAmix)」、「French Roast mix(Fmix)」、オリジナルブレンドをアイスコーヒー用に焙煎した「アイスコーヒー」、豆の個性をダイレクトに味わえるストレートコーヒーの「コロンビア」「ホンジュラス」「ブラジル」「キリマンジェロ」「モカ」(すべて、1杯/500円、コーヒー豆200グラム/950円)です。

ブラジル語で「あなたの友」という名前の、オリジナルブレンド「Vosso Amigo mix」(500円)。コク、苦み、酸味のバランスが良く、すっきりした味わいです。
こちらは夏季限定、金川さん手づくりの「コーヒーゼリー」(300円)。暑い季節にピッタリの人気メニューです。数量限定。

コーヒーがつないだ縁を大切に、祖父の代から守る豆の魅力を伝えたい

「金川珈琲」を中心にどんどん広がる人の輪。2人の思い描く未来について聞きました。
「まずは、これまでのご縁に感謝しながら、くつろぎの場所として、地域に恩返ししていきたいです」と金川さん。「東京ではコーヒー豆の卸しがメインでした。それだけでなく、コーヒーを飲める場所も提供したいと思った理由の一つは、淹れたてのコーヒーを口に運んだ表情を見たかったということ。その方が、ウチの豆の良さを最大限に伝えられると考えたんです。ご自宅で誰もがおいしく飲めるよう、今後は、コーヒーのドリップ講座なんかもやっていきたいですね」

2人の夢はさらに広がります。「まだまだ夢の状態ですけど、いつか三重県産のコーヒーをつくりたいんです。三重県で栽培から焙煎までして、地産地消ができたら最高だねと、よく話しているんです。お店の縁で、バナナのハウス栽培をしている方と知り合えたので、いろいろと意見を聞かせてもらおうと思っています。そしてもう一つ、いつか地元でコーヒーフェスを開催したい。県内には、こだわりのコーヒー屋さんがたくさんあるので、その人達と一つの会場で、コーヒーの魅力を多くの人に発信したいですね」

多気町に行ったら立ち寄りたい「オススメ観光スポット」

松阪市と伊勢市の中間に位置している多気町。豊かな自然と利便性が魅力で、移住者も増えています。最近、新たな観光スポットも誕生し、さらに注目のエリアに。金川珈琲に行ったら、ぜひ訪れたい場所をピックアップして紹介します。

★VISON[ヴィソン]

(写真提供:VISON)

産直市場や宿泊施設、飲食店などが集結した、日本最大級の商業リゾート施設。2021年7月20日のグランドオープンを前に、エリアごとに順次オープンしています。ミシュランガイドパリ一つ星シェフが手がける産直市場「マルシェ ヴィソン」や、地産地消のスイーツなどがならぶ「スウィーツ ヴィレッジ」など、三重県のおいしいものがせいぞろい。ほかにも薬草湯やリラクゼーション施設など、家族で一日中楽しめる新スポットです。

★丹生大師神宮寺(にうだいしじんぐうじ)

(写真提供:神宮寺)

古くから「丹生大師(にうだいし)」さんの愛称で親しまれる歴史あるお寺。境内には弘法大師が自作像を刻むために姿を映したとされる姿見の池が残され、夏には睡蓮(すいれん)の花が咲き誇る幻想的な風景を見ることができます。

★CAZACLEサイクリングステーション

(写真提供:CAZACLEサイクリングステーション)

ゆったりした速度でサイクリングする「スローサイクリング」を楽しむ「カザクルサイクリングツアー」を実施しています。歴史や文化、農業のある暮らしなど、ストーリー性を感じられる4つのコースは、じっくりと多気町に溶け込めるツアーばかり。里山の澄んだ空気の中を颯爽(さっそう)と走り抜ければ、リフレッシュできること間違いなしです。乗り方からレクチャーしてくれるので、初心者でも安心です。

こちらの記事でも「CAZACLE」を紹介しています。あわせてチェックを。
「マウンテンバイクもロードも!大人も子どもも!!三重は自転車も熱い!!! 」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/play/6987

平日でも、たくさんのお客さんが訪れていた「金川珈琲」。みなさんが笑顔でコーヒーを楽しむ様子が印象的でした。「地域のお店と一緒に頑張りたい」という思いをもった移住者の金川さん、淺奥さんを応援したいという周囲の思いが、新たなつながりとして広がっているように感じました。
移住者にも人気が高いという多気町エリア。地域の人たちも、オープンであたたかい雰囲気でした。ぜひ、一度お出かけしてみてください。

今回紹介した施設はコチラ
金川珈琲
住所:多気郡多気町丹生1618
電話:0598-67-8194
時間:9:00~17:00(L.O.16:30)
定休日:水曜・木曜
URL:https://kanecafe.com/index.html

ホタルカゴ
住所:多気郡多気町丹生1329
電話:なし
時間:12:00~売切れ次第終了
定休日:第1・第3金曜のみ営業
URL:https://www.facebook.com/hotarukago/

RUCIEN ルシエン
住所:度会郡度会町大野木2445-1
電話:059-6689-092
時間:10:00~18:00
定休日:月曜・火曜
URL:https://rucien.net/

のことこ
住所:多気郡多気町相可127
電話:0598-38-2477
時間:11:00~18:00 ※売切れ次第終了
定休日:水曜・金曜のみ営業
URL: https://www.instagram.com/nokotoko127/

VISON[ヴィソン]
住所:多気郡多気町ヴィソン672-1
電話:0598-39-3190
時間:施設により異なる
定休日:無休
URL: https://vison.jp/

丹生大師神宮寺
住所:多気郡多気町丹生3997
電話:0598-49-3001
時間:参拝自由 ※ご納経(ご朱印)の受付は9:00~16:00
URL:http://www.ma.mctv.ne.jp/~jr2uat/daisi/daisi.htm

CAZACLE サイクリングステーション
住所:多気郡多気町丹生1718-1
電話:0598-49-4800
時間:9:00~17:00
定休日:不定休
URL:http://cazacle.niu-mon.com/

三重県の取り組み紹介
三重県では、東京有楽町に「ええとこやんか三重 移住相談センター」を開設するなど、移住の促進に取り組んでいます。
https://www.ijyu.pref.mie.lg.jp/