三重県から女子ラグビー日本代表を生み出すプロジェクトが進行中!

2018.1.10

スポーツ中心にあれこれ カワサキマサシ

楕円球を追いかける三重のラグビーガールたちに迫った

 三重県には、優れた運動能力を持つ県内の女子小・中学生を発掘し、育成する「MIEスーパー☆(スター)プロジェクト」があり、第1期生が「MIEスーパー☆ガール」として、ラグビーに取り組んでいるというウワサを聞きつけました。国内トップカテゴリーのラグビーリーグやバスケットボールなど、スポーツの取材が多い私としては、聞き捨てておくわけにはいきません。ということで、早速、現地に取材に行ってきました。

◆「MIEスーパー☆(スター)プロジェクト」
三重県で生まれ育った女子を、世界を代表する選手に

まずはこのプロジェクトを推進する、三重県競技力向上対策課の名渕里美(なぶち さとみ)さんに、「MIEスーパー☆(スター)プロジェクト」の成り立ちや、目的を聞きました。

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名渕さん「きっかけは、2016年の岩手国体から、女子の新種目が増えたことですね。三重県も、2021年に“とこわか国体”が控えています。それに合わせて、次の世代の女子選手を育てていかないといけません。そこで、女子種目でアスリートタレントを発掘していこうということが、始まりでした」

―――その目的とは?
名渕さん「さまざまな取り組みを通じて選手を育成し、国体をはじめとした国内大会や、オリンピック、ワールドカップなどの国際大会で活躍する選手を輩出することです。三重で生まれ、三重で育った子どもたちに、日本や世界を代表する選手になってもらうため、3年間かけて取り組みます。現在、1期生6人が活動していますが、2018年1月からは2期生が加わります」

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―――数あるスポーツの中で、なぜ三重県でラグビーなのでしょう?
名渕さん「岩手国体以降、女子種別で正式競技となる競技の中で考えていました。プロジェクトを進めるには競技に関する協会や連盟との連携も必要です。三重には、『PEALS(パールズ)』(以下「パールズ」)という女子ラグビーのクラブチームが活発に活動していることなど、ラグビーをする環境が整っていました。パールズの協力を得て、ラグビーの専門的なスキルを高めてもらうことができると思いました。
そういったことを総合的に判断し、ラグビーにしました。でも、スポーツで同じように競技特化型タレント発掘をしている他の県は、2~3種目で取り組んでいます。1種目は三重県だけ。今後は、競技数を増やしていければと、思っています」

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プロジェクトの活動を、現場でのぞいてみた
「教室の座学で頭を、グラウンドのトレーニングで体を鍛える

プロジェクトの第1期生は、2016年8月から開始したオーディションで6人が選ばれ、2017年1月から始動しました。基礎体力向上のほか、ラグビークリニックをはじめとする体力アップや技術向上カリキュラムが実施されています。さらに「教育・育成プログラム」として、月1回、スポーツ医・科学、栄養学などの講座の受講も。今回は、2017年12月に三重県立朝明高等学校で行われた、「教育・育成プログラム」を見学させてもらいました。

この日は、須股莉子さん(すまた りこ・中学3年生/鈴鹿市)、中西夏希さん(なかにし なつき・中学3年生/志摩市)、高井愛美さん(たかい えみ・高校1年生/桑名市)の3人が練習に出席しました。今回参加できなかった3人も、ラグビーチームに所属するなど、練習に励んでいるそう。

最初のプログラムは、午前9時30分から始まる「スポーツ医・科学講座」。
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管理栄養士の柴崎真木(しばさき まき)さんを迎え、「身体づくりと栄養」をテーマに講座が行われました。
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“口に入るものが、体を作るもの”。一般の人にとっても、アスリートにとっても、食事は体をつくるためにとても大事なことです。「栄養を正しく取ってトレーニングをし、しっかり休養することで強い体が作られていく」「トレーニング後は、なるべく早くに栄養を補給することが望ましい」などの説明があり、3人ともノートを取りながら、柴崎さんの話に真剣に聞き入っていました。
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教育・育成プログラムの後はグラウンドに出て、専門プログラムを実施。この日は、ラグビーのプレーで大事なキックの練習です。ここからはパールズの選手たちも加わって、合同でトレーニングが行われました。
プロジェクトのメンバー3人も、快晴の空の下でボールを手に、講座のときとは違った表情を見せます。
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ラグビーはボールを手で投げる場合、自分より横か後ろにしか投げられません。一方でキックは、前方に蹴り出すことが認められています。これらのプレーを駆使してボールをつないでいき、相手ゴール内に運ぶことで点が得られます。
ボールを前に投げてはいけないラグビーにおいて、キックは自分たちの意思で、ボールを前に進められる戦法。展開を一気に有利にしたり、場合によっては得点を狙うこともできます。

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▲ボールに向かって走る須股さん

中学ではラグビーのほか、引退するまで陸上部を掛け持ちしていた須股莉子さんは、足の速さが自慢。味方が前方にキックしたボールに鋭いダッシュで追い付き、何度もトライを決めていました。

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▲何度もキックを繰り返す高井さん

中学3年生でこのプロジェクトに参加し、現在は高校1年生になった高井愛美さん。主にフィールド中盤のポジションであるスクラムハーフ、スタンドオフを務めるため、ボールに触れることが多くあります。試合中はキックを使う機会が多いポジションということもあり、最後まで熱心に練習に取り組んでいました。

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▲中西さんは、足を負傷していても元気いっぱい

足をケガしていた中西夏希さんは、練習には部分参加。それでも仲間にパスを出すなど積極的でした。「動きたくて、仕方がないんです。グラウンドに来て天気がいいのに、じっとしていられません(笑)」

 

◆プロジェクトに参加するラグビーガールたちに迫る

「MIEスーパー☆(スター)プロジェクト」に参加する、三重県のラグビーガール3人に、話を聞きました。この日、練習に参加していた3人は、パールズの一員としても活動しているラグビーが大好きな女の子たちです。
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ためになることが多いし、学校以外の友達もたくさんできまし

須股莉子さん(中学3年生)
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お父さんが昔、ラグビーをしていたことがきっかけで、保育園の年長から始めました。最初はみんながやっているのを見ていただけでしたが、“鬼ごっこのようで楽しそうやな”と思い、自分もやるようになったんです。

このプロジェクトは、学校で配られたプリントを見て知りました。メンバーに選ばれたら3年間、いろいろなことを教えてくれると書いてあって、ラグビーをしている私にはプラスになることが多そうなので、やってみようと。実際に参加してみて、講義などためになることが多いので、良かったです。

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▲中学校の陸上部を引退し、受験勉強にも力が入る須股さん

みんなといっしょにラグビーができて、おしゃべりをするのも楽しい。学校以外の友達も、たくさんできました。

高校は女子ラグビー部がある、県内の学校に進学するつもりです。高校に行ったら部活と、このプロジェクト、それにパールズでの練習と、毎日ラグビーができるので、すごく楽しみです。
足に自信があるので、試合でトライを決めたときが最高に気持ちいいです。これからもラグビーを頑張って、将来は国体に出たいですし、日本代表にもなれたらいいなと思っています。

 

周りの人に支えられているのを実感しているから、頑張らないと!

中西夏希さん(中学3年生)
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中学校の部活は、バレーボールをしていました。小学生のときにタグラグビー(身体的接触のない、子どもや初心者向けの簡易ラグビー)をした経験はあったけれど、本格的なラグビーはこのプロジェクトに参加して、今年の1月から始めたばかりです。

もともと走ることが好き。でも、バレーボールはあまり走る競技ではないんですよね。プロジェクトの募集のプリントを見て、よく走るタグラグビーが楽しかったことを思い出しました。やってみたいと思って親に相談したら、反対されることもなく、オーディションに応募させてくれました。

プロジェクトは、教えてくださる講師の方の話がわかりやすくて面白いですし、学ぶことも深くて、興味をそそられるテーマばかり。プロジェクトに参加してみて、周りのいろいろな人たちに支えられているのを感じて、“頑張らないと”という思いがあります。

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▲中西さんは、受験勉強を頑張っているときも、“グラウンドに出たいな”と思うそう

ラグビーはタグラグビーと違って接触もあるし、最初は痛い思いをすることもありましたが、教えてもらううちに痛いとか怖いということよりも、もっと強くなりたいという気持ちが強くなりました。今はラグビーがとても好きで、ずっとラグビーをしていたい。部活のある学校に進んで、高校に行っても続けます。

ラグビーは相手のディフェンスに止められたら悔しいけど、走って抜いて、トライを決めたときは爽快感があって、すごく楽しい。将来はまず、三重国体にトップ選手として出場し、活躍することが目標。日本代表にもなれるように頑張ります。

 

まずは三重国体に出て、いつかは日本代表に」

高井愛美さん(高校1年生)
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お父さんがラグビーのコーチをしていて、お兄ちゃんもやっていました。私は生まれたころから、大阪・花園のスタンドに連れられていたそうなんです。そんな環境だったから、ラグビーを始めたのは自然とですね。最初は遊び半分だったので、怖いとは思いませんでしたが、小学校高学年で本気でやり始めたころ、少し怖さを感じました。でもそれも、最初のころだけでした。

このプロジェクトのことは、パールズでもらったプリントで知りました。自分の実力を確かめるためというか、自分が今どのくらいの位置にいるかを知りたくて、オーディションを受けました。

 

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▲学校のラグビー部では1期生としてキャプテンも務める高井さん

参加してみて、講座を聞いて自分の食生活を見直せましたし、メンタルをどう強くしていくかも教えてもらえ、自分にプラスになることばかりです。夏にはプロジェクトのメンバーの6人で、山形に合宿に行きました。みんなで勉強したり、山寺に行ったり、山形のコたちと交流して練習したり。ココでしかできない貴重な体験が多く、楽しかったですね。

今の自分の一番近いところにある目標は、三重国体に出ること。ラグビーを始めたころからの夢は、日本代表になることですが、今は近いところから、一つずつクリアしていきたいと思います。

団体競技は、みんなで助け合えるところが好き。ラグビーも、一人じゃできないし。みんなで頑張って、勝ったときにみんなで喜び合える瞬間が最高です!

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近い将来の女子ラグビー日本代表選手は、ここから生まれるかもしれません。これからも、三重のラグビーガールたちに注目していきます!

今回紹介した取り組みやチームの詳細はこちら
MIEスーパー☆(スター)プロジェクト
メンバーを決めるオーディションでは、50m走やボール投げ、立ち幅跳びなどの基礎能力やラグビーの能力チェックも行われます。
女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」

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