子どもにたくさんの自然体験を! 森の中で好奇心いっぱいに

2018.1.26

グルメからエンタメまで 佐野 興平

三重県で野外体験保育に取り組む「森の風ようちえん」

三重県では、保育や幼児教育の中に、三重県内の豊かな自然の中での体験活動を取り入れる「野外体験保育」を推進し、さまざまな取り組みを行っているとのこと。大人がサポートしながら、かけがえのない体験を重ねていくうちに、自発的で豊かな感性を持つ子どもに育っていくことを、めざしているそう。
今回は、三重県における野外体験保育の先駆け的存在である、菰野町(こものちょう)の「森の風ようちえん」を訪問し、その様子を取材してきました。

 

◆青空の下、“今日やりたいことはコレ!”

「森の風ようちえん」に通う子どもは、現在51人。菰野町のほか、鈴鹿市や四日市市、桑名市、いなべ市といった三重県だけでなく、岐阜県から通う子どももいるそう。どんな活動をしているのでしょうか。
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「森の風ようちえん」に取材スタッフが着くと、園舎には誰もいません。園長先生に連絡を取ると、すぐに迎えに来てくれ、車で5分ほどの場所に移動しました。

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施設内にある「森の風しぜん学校」に到着です。学校といっても、森の中の広場のこと。中から子どもたちの笑い声が聞こえてきます。小川にかかる橋を渡って、声のする方へ近づいてみると…。

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子どもたちが、先生と一緒に何かを作っているようです。別の方へ目を向けると…。

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林で取ってきた木を、釜の前に集めていました。さらに…。

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こちらのグループは、絵を描いています。みんな、やっていることが違うのですが、園長の嘉成頼子(かなり よりこ)先生、どういうことでしょうか?

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嘉成先生「朝、その日にしたいことを聞いて、相談し、それぞれが自分で見つけたことをやっています。今はお昼のみそ汁を作る、工作をする、紙芝居を作るという感じに分かれていますね。自由に遊んでいる子もいます」

————それは、子どもたちが決めるのですか?
嘉成先生「予定が決まっていることもありますが、子どもたちの思いを聞いて、みんなでどう動くかを決めることが多いです」

————野外体験保育に取り組み始めたきっかけを教えてください。
嘉成先生「2000年ごろ、青少年による事件が立て続けにあり、命が軽んじられていると感じました。社会全体も、命というものに対する感覚が薄らいでいる、と。今のような保育者の知識の切り売りや小手先の技術では間に合わない。そこで、自分の命、そのほかの命、そして自然の中で自分たちの命も生かされていることが豊かに感じられる場に、子どもたちをゆだねようと思ったのです」

————野外体験保育を行う場所はここ1カ所ですか?
嘉成先生「ほかに、農作物の収穫などを行う田んぼや畑、みんなが“おじさんたちの秘密基地”と呼んでいるヤギとニワトリのいる場所もあります。この4つを主な暮らしの拠点として、周辺エリアを自由に行ったり来たりしている感じです」

————方針などはありますか?
嘉成先生「“子どもたちを自然の中で育てよう”“指示するのではなく自ら学ぶことのできる環境を整えよう”というものですね。野外体験保育によって、子どもたちに好奇心、意欲、自主性などの力が、目に見えて育ってくるのを感じています。遊ぶにしても、自主的に責任を持って遊んでいます。
野外体験保育を通じて、“自然の中では自分勝手なことはできない、もし、そんなことをするとケガをするかもしれない”ということを知ります。お互いが助け合わないと、楽しく過ごせないんです。高いところに登ろうとする子がいたら、手を貸すことが自然とできるようになるんですね」

————確かに子どもたちは、誰かに強制されることもなく、自ら進んでやりたいことをしているように見えます。
「自然の中にいると毎日違う出会いがあり、すると“次は何をやろうか”という、意欲と好奇心が子どもたちに湧いてくるんです」

◆子どもたちはきれいなものを見つけることが得意で、“仕事”が大好き

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取材時に取り組んでいた紙芝居作りは、年長さんたちのグループ。少し前にあったお泊まり保育の様子を伝える方法を、子どもたちで話し合ったそう。その結果、「年少さんたちにも、わかりやすいように」と紙芝居に決めて、制作していたのです。「あのとき着てた服は青かった!」「違う、ピンク!」などなど、楽しそうに絵を描いていました。

3歳~6歳が通う「森の風ようちえん」。紙芝居作りのように、“年長さんだけ”の活動もありますが、基本的に野外体験保育は各学年を“縦割り”にした2つのグループで行っています。

 

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昼ごはんに食べるみそ汁用に、包丁でイモの皮をむく子どもたちも。冬は毎日、みそ汁をみんなで作るそう。ほかの季節も、収穫したサツマイモでおやつの天ぷらを作るなど、調理の機会が多いのも特徴です。

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釜を載せたカマドに火を起こします。子どもたちの表情は真剣。

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洗い物をしたり、火の管理をしたりと、自分で見つけた“仕事”を楽しんでいる様子が伝わってきました。

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いよいよお昼ごはんの時間です。できたばかりのみそ汁を入れに行く子どもたち。順番を守って、自分の器に注いでいきます。

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こちらのグループは食べる場所のセッティング。先生と一緒にベンチを運んでいました。

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おにぎりは、おうちの人の手作り。午前中、たくさん活動したので、お昼ごはんのおいしさもひとしおでしょう。

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ここで先生たちにも、話を聞いてみました。野外活動中の子どもたちは、「表情がいきいきしている」と口をそろえます。自然の中では「手も足も頭も使って、子どもたち自身がやりたいことを、自分なりに一生懸命やって、自分たちの生活(暮らし)を深めていっています」とも。

子どもたちは、きれいなものを見つけることが得意で、“仕事”が大好きだそう。取材中の料理でも、薪(まき)を集める、火を付ける、調理するなど、いろいろな作業がある中で、自分ができるものを見つけて、各自が進んで仕事をしていました。「体験というより経験。1年の成長が大きいですね。そして大人にはない発想に、教えられることも多いです」という話が印象的でした。

 

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午後からも、屋外での保育が続きます。この日は、いくつかのグループが劇ごっこをしたり、歌を歌ったりしていました。シダの葉を背中につけて天使になる子がいるかと思えば、大きな声で歌うグループもあり、みんな笑顔いっぱい。午前中から引き続き工作をする子もいるなど、思い思いの作業を進めていました。

 

 

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そろそろ午後3時、終わりの時間が近づいてきました。子どもたちは片付けを始めます。

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帰りの会の前には、みんなが輪になって座り、本を読んだり、おやつを食べたりという時間も。

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帰りの会では、今日あったことや、明日のことなどの話が。お迎えに来た保護者も、子どもたちの後ろで一緒に話を聞きます。今日の野外体験保育はこれで終了。

 

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保護者の方にも、話を聞きました。「野外体験保育中の子どもたちは、のびのびとしているように感じる」「ここでは“ダメ”と言われることが少ない」という声が。そのほか、「みんなが同じことではなく、別のことをやってもいい。自分の意見が通らないときでも、子どもが納得する形で進めていくのがいい」「みんなと一緒が苦手という子も安心できると思いますよ」と、話してくれました。

 

 

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野外体験保育の現場を訪れた今回。嘉成先生の「子どもたちは、自然の中では、できないこと、危険なことは教えなくてもやりません。でも、自分の能力より少し上にあることには、自らチャレンジしていくんです」という言葉を聞き、子どもがもともと持っている可能性に感心させられました。やらされるのではなく、自分で進んで作業する子どもたちの姿はとても美しかったです。

 

◆保護者も自然に触れて、家庭でも“野外体験保育”を

ところで、家庭でもできることはあるのでしょうか? 「田んぼでも畑でも公園でも、まずは自然が残っているところに足を運んでみること。見過ごしてしまっている自然がたくさんあることに気がつくはずです」と、嘉成先生。そこで子どもたちと一緒に何も考えずに遊ぶことで、親にとっても新しい何かが見えてくるのだそう。野外体験保育に、これからもますます注目が集まってくることは間違いなさそうです。

今回紹介した施設はこちら
★一般社団法人森の風「森の風ようちえん」(認可外保育施設)
住所:三重県三重郡菰野町千草2506
電話:059-393-4782
http://morinokaze-youchien.com

関連情報

つづきは菰野町で 
■三重県Webサイト 野外活動保育について
リーフレット「野外体験保育のすすめ」もあります。