三重の林業はポテンシャルがいっぱい!現場で働く若者に密着

2019.1.18

スポーツ中心にあれこれ カワサキマサシ

山林に入って測量を行う川口さん

 

三重県は森林面積が県土の65%を占めるほど、森林資源に恵まれた環境にあります。中でも、ヒノキは全国トップ10に入る生産量で、製材工場の数は全国2位。三重県で林業は“熱い”産業なのです。今回は、そんな林業に従事する若い世代に注目。実際のシゴト場を直撃取材し、三重の林業の今とこれからをレポートします。

 

前職は公務員!今は三重の林業の現場で活躍する女性のシゴト場にフォーカス

三重の林業界に2017年の夏、20代の女性が飛び込んできました。その女性は川口洋美(かわぐち ひろみ)さん。三重県津市の出身です。大学卒業後は、青森県で公務員として勤めていましたが、山での仕事に携われることに魅力を感じ、Uターンを決意。現在は中勢森林組合(津市)の生産課で働いています。

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◇林業に興味を持ったのはいつごろですか?
川口さん「高校生のころです。森林は、山に水を蓄え、浄化する働きがあります。また、森林では植物が育ち、育った木々は木材として私たちの暮らしに活用できます。そんな森林の力に魅かれました。大学では林学を勉強。チェーンソーを使った間伐のボランティアなどもしていたんです。間伐をして暗かった森に光が入り、その森の所有者の方に喜んでいただいた。そのときに、林業っていいなと思いました」

大学卒業後、別の職業に就いた当初は、休日に登山に行ったりボランティア活動に参加したりして、森林や林業に関わっていこうと考えていたそうです。でも、実際には、なかなか時間がとれず…。それで思い切って林業を仕事にしようと決心し、農林水産業を対象とした就職フェアに参加。今の職業と出合いました。

◇現在はどのような仕事をされているのですか?

181213_044▲川口さんが働く中勢森林組合

川口さん「今は、『森林境界明確化』という事業に携わっています。この事業の目的は、森林の整備。山が荒れ放題で放置されていると、最悪の場合、山崩れなどの災害につながることもあります。そのためには木を切らないといけないのですが、そうするには所有者の方の同意が必要です。この山林はどこからどこまでが、誰の所有かを明確にし、間伐の際には所有者の方と交渉しています」

◇現場作業は多いのでしょうか?
川口さん「事務所内での作業と、山林での現場作業が半々くらいですね。現場作業では、先輩に同行して山林を測量しています。森林の所有者の境界を明確にするためには、地図を作成する必要がありますので。事務所では、間伐の際に所有者の方と交わす契約書の作成などの業務をしています」

181213_061▲山林に入って測量を行う川口さん。大好きな山での仕事に笑顔が絶えません

◇仕事のやりがいは何でしょうか?
川口さん「私が作った地図や契約書が、森林の整備につながっていくことですね。外に出ると、自然の中を歩くので、キレイな景色や植物、動物に出合ったり、四季の移り変わりを感じたりでき、癒やされています。仕事をしながら森林浴なんて、ぜいたくですよね(笑)。とはいっても、夏は暑いし、冬は寒い。自然が相手でいろんなことがありますが、好きな山で仕事ができるので毎日が楽しいです」

◇林業といえば、体を使った仕事のイメージがあります。女性が林業に就くうえで、大変なことなどはあるのでしょうか。
川口さん「体力的にキツいとは思っていません。ただ、山歩きの登りはちょっと大変ですね。整備された山道ではないので、草をかき分けながら歩かないといけませんから。先輩たちはさっさと進むのに、私はえっちらおっちら歩いて付いていっています(笑)」

181213_103▲林業を始めてまだ1年という“ひよっこ”。先輩からの指導に耳を傾けます

◇仕事の悩みなどはないのでしょうか?
川口さん「整備すべき山があっても、所有者の同意を得るための過程が容易でないことを実感しています。『切らせてくださいと』とお願いしても、『放置しておいてくれ』と同意が得られないことも少なくありません。その背景には、所有者の高齢化や林業への意欲の低下などもあると思います。人と交渉することが必要なので、分かりやすく説明する力が必要だと感じています」

三重県は森林資源が豊富とはいえ、林業は漁業や農業と同じく、従事者の高齢化の問題を抱えていることは事実。そんな三重県の林業の将来は、20代の彼女の目にどう映っているのでしょうか。

川口さん「林業機械の高性能化が進んでいますし、新しい技術や発想を取り入れ、まだまだ発展していくのではと思っています。林業といっても幅は広く、木を切るだけじゃなく、製材や家具作りなど、いろいろな分野の仕事があるんです。だから、若い人たちに、もっと関心を持ってもらいたいですね。林業に携わるのに必要なスキルですか? 山や森が好きだったら、大丈夫ですよ!」

次代の林業の担い手を育てる「みえ森林・林業アカデミー」が2019年4月開講

川口さんのように若いフレッシュなマンパワーがもっと増えれば、三重県の林業ももっと発展していくはずです。三重県では次代の林業の担い手を育てるため、2019年4月に林業大学校「みえ森林・林業アカデミー」を開講します。同アカデミーでどんなことが学べるのか、三重県林業研究所アカデミー運営課の野々田稔郎(ののだ としろう)さんに伺いました。

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◇「みえ森林・林業アカデミー」の特徴について教えてください。
野々田さん「ここ最近、各地で続々と林業大学校が開校され、現在は全国で20校ほどあります。が、そのほとんどは新卒者が対象です。一方、『みえ森林・林業アカデミー』では、林業の現場で働いておられる方のスキルアップをめざしています。ほかの林業大学校は通年でカリキュラムが組まれていますが、『みえ森林・林業アカデミー』では、働きながら一カ月に2日~3日授業に参加し、学べるスタイルになっています」

2行▲「みえ森林・林業アカデミー」のイメージビジュアル

◇アカデミーではどんなことが学べるのでしょうか。
野々田さん「働いている方が対象ですので、現在の職場での立場や、将来めざすポジションに応じて選べる3コースを設けました。現場技術者がより高度な技術を身に付けられる『プレーヤー育成』コース、組織を管理する立場にある人が対象の『マネージャー育成』コース、そして、経営者対象の『ディレクター育成』コースです」

◇三重県の林業の現状について教えてください。
野々田さん「三重県の林業は、従来は住宅の柱などに使われる高級材の生産が主でした。しかし、最近は純和風の家が減り、高級材の需要が減少。今後は人口も減少していきます。ですが見方を変えれば、需要量が減ったということは、蓄積量は増えているということ。木材資源は多くあるので、あとは販路をどう開拓していくかだと思っています」

14▲「みえ森林・林業アカデミー」では、森林資源の活用のため、現場技術者から管理者、経営者まで幅広い人材を育成予定(写真は中勢森林組合提供)

◇三重県の林業のポテンシャルについて、どのようにお考えですか。
野々田さん「県土の65%という広さの森林面積がありますから、ポテンシャルは十分あると思います。例えば、最近はバイオマス発電(※)が脚光を浴びていますが、三重県には大規模なバイオマス発電所が3カ所あり、その発電所への燃料供給も担っています。それが、木材価格の下支えになっているんです。あとはやはり、“高級材をどうするか”を考えることが、三重県の林業復活への糸口になるのではないでしょうか」

※バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称(廃材・残材、稲ワラ、家畜排泄物、生ゴミなど)。バイオマス発電では、この生物資源を直接燃焼、またはガス化するなどして発電します。

個々のスキルアップはもちろん、林業の新たな可能性を開拓できる人材を育成することも、「みえ森林・林業アカデミー」がめざすもののひとつ。受講者同士の横のつながりが広がっていけば、そこからさまざまな発想が生まれる可能性も。近い将来、アカデミー出身者が、三重の林業に新しい風を吹かせてくれるはずです。

「みえ森林・林業アカデミー」のプレ講座には幅広い年齢層が参加

「みえ森林・林業アカデミー」は2019年春の開講に先駆け、2018年11月から県内各地で公開講座を実施しています。12月には、四日市市で「持続可能な森林と社会」をテーマにした講座が行われました。

SDIM0964▲12月の公開講座は、当初30名程度の予定が、50名を超える参加者が集う盛況ぶり。年齢層は20代~60代、職業も学生から会社員、NPO団体、林業関係者など、幅広い男女が多数参加しました

参加者からは…

●マーケティング的には社会性のある取り組みが重要。それは、森林資源の活用にも通じると思った(20代・学生・男性)

●持続可能な社会に向けた森林保全などの取り組みが、CSR(企業の社会的責任)の枠を超えて企業の軸になっているという話を聞き、とても素敵だと思った(30代・会社員・女性)

●林業や環境などを個々ではなく、木材利用や森林保全を含めたもっと広い視点で考える必要があると感じた(20代・学生・男性)

●アカデミーでも、幅広く異分野と連携するプロジェクトを進めてもらえたらうれしい(30代・教員・男性)

といった声が聞かれ、林業への関心の高さが感じられました。

当日は「みえ森林・林業アカデミー」の特別顧問である、速水林業代表・速水亨(はやみ とおる)さんも参加。速水さんは、日本林業経営者協会の会長などを歴任し、現在は三重県林業経営者協会長やFSC(森林管理協議会、本部はドイツ・ボン)ジャパンの副代表などを務めています。特別顧問に就任されての、意気込みを語っていただきました。

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速水さん「林業の経済的状況が厳しい中、さらなる刺激を与えるには、仲間内で資金が回るのでなく、外部投資が可能になる仕組みを作る必要があります。それを可能にするセンスを持った人々が、林業界に必要です。また、森林の環境問題を、子どもたちとともに学んでいくことを担う人々も必要。さまざまな気付きを持った人々を育てて送り出し、そのような人々が集う場にアカデミーがなればと考えています」

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▲三重県には適正に管理された森林資源が豊富(写真は中勢森林組合提供)

◇アカデミーに参加を希望する人々へメッセージをお願いします。
速水さん「日本の林業の新しい1ページを開く。その、きっかけを作る人になってほしいと思います。国際的な視点を持ち、『自らで考え、自らが挑戦し、自らを変えていく。そして、地域の森林をより適切に変えていく』。そんな意気込みで、アカデミーへ参加いただけたらうれしいです」

◇幅広い世代の人々が一緒に学ぶことになるんですよね。
速水さん「アカデミーは、世代を超えた人々が集える場にもしたいと考えています。年配の方々は素晴らしい成功体験をお持ちですが、まずはそれを捨てて、若い人と一緒に新しい時代を切り開いていただきたい。修学期間だけでなく、一度でもここで学んだみなさんは、アカデミーの一員です。多彩な方々をお待ちしています」

(掲載情報は、すべて平成31年1月時点のものです)

「みえ森林・林業アカデミー」では2019年4月の開講に合わせ、現在受講生を募集中です。
応募締め切りは2019年3月1日(金)。興味がある人はコチラをチェック!
http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/000221553.htm
「みえ森林・林業アカデミー」
住所:津市白山町二本木3769-1
電話:059-262-5350
https://www.facebook.com/miemorimanabi/
<今回取材した施設はコチラ>
★中勢森林組合
住所:津市白山町南家城915-1
電話:059-262-3020

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