
三重県が実は知る人ぞ知る“ものづくり”の場所であることをご存知でしたか?
今回は日本中の模型愛好家が集まるという「カフェ」と、模型のプロから直接指導が受けられる「模型塾」をご紹介します。
※本記事の内容は、取材時(令和2年2月時点)の情報であるため、営業時間などの最新情報は、記事最後の取材先までお問い合わせください。
■伊勢神宮のある町へ
伊勢神宮(外宮)の玄関口、近鉄電車「伊勢市駅」から車で10分ほどの「ホビーカフェ ガイア」。
外から見た感じは街角にある喫茶店ですが、カレーと喫茶、そしてプラモデル工房を併設し、北は青森から南は宮崎まで遠方からも訪れる方がいる、全国でも珍しいお店です。
その三つはすべて「ホビーカフェ ガイア」で体感できます。
特に二つめの“自分の理想とする完成形へ向かう作業”を楽しめる環境の提供が、「プラモデル工房」の大きな役割だと感じました。自腹ですべては揃えられないツールや塗装ブースなどが完備の上、的確なアドバイスが得られることで、より完成度を上げることができるのですね。
そこで私も、初のプラモデル作りに挑戦することに!
でもその前に、美味しいと評判のカレーとコーヒーで腹ごしらえです!
■美味しいカレーが評判

プラモデルはもちろん、ご飲食で来店される方も多い喫茶店だけに、オーナーはお客様同士の会話を大切にしています。男性も女性も関係なく趣味のある人たちが集い、つながりができ、そこからクリエイティブな活動と交流に発展していくそうで、店内に同人誌やイラストなどの作品を置かれる方もいらっしゃるとのことです。
私もさっそくチキンカレーをいただきました。野菜のエキスがカレーソースにギュッと詰まっています。そして、喉を通った後で口に残るスパイスの辛さ! 美味しい、そして辛い! お米とのコラボも抜群で、あっという間に完食してしまいました。

■初めてのプラモデル作り体験
(1)プラモデルづくり

プラモデル専用のニッパーを貸してもらいましたが、逆に持ったところからスタート!使ったことがないとはいえ先行き多難です!
© & TM Lucasfilm Ltd.
パーツを切る時は、ギリギリではなく少し余裕を持って大きめに切った後、きっちりと切り整えるといい、とのこと。そしてこの切り整えをしないと、組み立てる時うまくはまらず後で泣くことに……。身をもって体験することになりました。


順番に切り離していかないと、何番の部品だったかわからなくなるので、慎重に!


お店の人や隣に座った人から教えてもらったり、あれこれお喋りしながら作るのは心地いいものだということが、良くわかりました。

こうして私の初プラモデルの組立作業は完遂!
(2)塗装
塗料が後ろの棚にも前の開き扉にもぎっしり! どの色を使うとイメージ通りの表現ができるかも教えてもらえるので心強いですね。


次は黒く塗った表面を、専用のツールで拭き取っていきます。細かい凹凸に入った黒だけが残って影ができ、立体感が増しました。
(3)仕上げ

つや消しスプレーを吹きかけます。

通常は乾燥ブースで乾かすそうですが、今回は時間短縮のためにドライヤーを使いました。
(4)完成 撮影ブースでパチリ

出来上がった作品は、照明と背景が整った撮影ブースで写真を撮れます。自分の作品を美しく撮れるのは醍醐味のひとつですね!

■完成したら甘い物を食べたい!
プラモデルチャレンジの後、「アフタヌーンセット」500円(税込)を頂きました。
セットに合わせるデザートは「蜜だれプルプル玄米ちゃ」を。玄米茶を使った自家製寒天に白玉を添え、黒蜜ベースのオリジナルソースをかけたものです。プラモデル作りでほどよく疲れた脳にぴったりの甘さ!
オリジナルメニューの「コーヒー牛乳」にも癒されました。コーヒーの美味しさと香りを活かしながら、牛乳とブレンドされたまろやか懐かしい味。半年近くもテストを重ねてできあがったという味に、納得のひとときでした。
■ガイアでのイベント

「ホビーカフェ ガイア」では色々なイベントも行われています。Xmasや1月3日には、お子さんたちに無料開放されて大盛況となりました。

女性もお子さんも、どんどん楽しんでほしいですね。

ベテランプロモデラー伊藤霊一(いとう りょういち)さんによる模型製作交流会も不定期ですが開催されています。内容は一ヶ月ぐらい前にホームページやTwitterで告知されますので、ぜひチェックしてみてください。
では、次にそのプロモデラー伊藤霊一さんを尋ねてみましょう。
■有名プロモデラーの模型塾
プロのモデラーという珍しい職業の伊藤霊一さんが主催する「伊勢模型塾パチポチ」が、同じ伊勢市内にあります。現在はお母さんの美容室をそのまま使って塾のスペースとしています。
伊藤さんは1970年生まれ。小学生のときアニメのプラモデルと出会ったのがこの道へのスタートでした。高校卒業後に上京して数年間漫画家として活動していましたが、月刊模型誌『モデルグラフィックス』の読者コーナーに作品を投稿したのをきっかけに、1995年に同紙で模型ライターとしてデビューしました。デビュー作は「1/100ウイングガンダム」。
その後1997年27歳でフリーの原型師としての活動を開始しました。それ以降、多くの有名大手フィギュアメーカーでフィギュアやプラモデル用原型を多数製作し、現在はプロモデラー・フリー原型師として活動しています。
1998年から『月刊モデルグラフィックス』誌上で、初心者向け模型講座『Let’s TRYビギナーズ!!!』が始まり、現在も連載中です。それをまとめた単行本も発売中なので、これから始めたい方も、もっと詳しく知りたい方もぜひ読んでみてくださいね。

伊藤さんが8年前に雑誌掲載のために作ったガンダムです。なんとこのガンダムは、40年前のガンダムブームの頃に発売された古いキットを大改造したんだそうです。
まずはキットをそのまま組み立て、より格好良くなるように改造し、仕上げの塗装が見せ場です。幾重にも重ねた着色、文字入れ、あえて汚れた部分を出した感じなど、目に見えない細かいところまで改造と加工をして作っていく、モデラーとしての真骨頂がここにあります!

この足の部分に傷や汚れの入った感じが、戦闘後の雰囲気をかもし出して、とてもリアルです。
伊藤さんのオリジナルキャラクター“アル”。今にも動き出しそうでドキドキします。
生き生きとしたかわいい女の子の表情を作るところが、さすがプロの技です。前述の「ホビーカフェ ガイア」でも、伊藤さんが講師のフィギュア造型教室を不定期で開催しています。
もちろん、個人的に伊藤さんの「伊勢模型塾パチポチ」で教えてもらうことができますよ。
今まで作った数々の原型のキャラクターやフィギュアが並びます。ガチャポンなどに使われた作品もあります。
伊藤さんの得意なジャンルは、ガンダムなどのアニメロボットモデルやアニメキャラクター、フィギュアなどで、プラモデルの製作からフルスクラッチまで多岐に渡ります。
バンダイ「ガールズインユニフォーム」というフィギュアのシリーズのキャラクターも。
「ねんどろいど」シリーズも20体くらい原型を作ったそうです。このモデルも伊藤さんの作品です。
■「伊勢模型塾パチポチ」とは
(1)塾を開いたきっかけ
長く模型の世界に携わってきた伊藤さんだからこそ、近年の若い人たちの模型離れや模型業界の高齢化などが気になっていました。そこで、自分でも模型の世界のために何かできないかとずっと模索していたとのこと。模型雑誌の連載や書籍化なども具体化されましたが、まだまだ足りないともどかしい想いを抱えていたそうです。
そんな中で、前述の「ホビーカフェ ガイア」で月に1回程度、模型製作会で講師を務めたところ、一定の手応えを感じたとのことです。そこで、自分で常設的に模型製作スペースを開けばもっと多くの人に楽しんでもらえるのではと考え、2017年に「伊勢模型塾パチポチ」がスタートしました。
プラモデルやフィギュアに興味のある人がフリーで参加できる模型製作スペース。年齢性別関係なく誰でもキットを持ち込んで製作できる上、さらに上を目指したい人も含め、伊藤さんが直接教えてくれるのです!! プロモデラーに直接教えてもらえるなんて、こんなチャンスは他にはありません!
(2)参加者二人に聞いてみました
40代後半だという男性に「模型づくりの楽しさ」を聞いてみました。「作るのも途中まではしんどいけど、加工しているうちにだんだん作っている工程が楽しくなりますよ。自分のイメージに近づいて、できあがっていくと達成感があるんです。自分は完成品ができるとそこで気持ちが完結して、並べて眺めようとは思わないんです。ジャンルは問わずでプラモデルでもフィギュアでも何でも作りますよ。」
ニッパーで手際よくどんどん切って、サクサク組み立てていく手元は、さすがにキャリアを積んでいることを感じさせました。
中学3年という男性にも同じ質問をしました。「作品ができあがって、飾ったときイェイと思います。」とはにかんだ表情で答えてくれました。小学生から始めているのでキャリアは長く、小さい子に教えるのも得意とのことでした。
まだ途中だけど、と言って赤い飛行機を見せてくれました。
(3)模型塾の営業日と料金は?
開講日は基本的に週2回の木曜日と日曜日で、それぞれ昼の部(13時~17時)と夜の部(19時~22時)となっています。なんと日曜日の昼の部は高校生以下無料!!親子で行ってもいいですね。受講料は1時間あたり500円、高校生以下300円(いずれも税込)で、基本的な工具のレンタル料と素材の使用料も含まれています。
この料金はあくまで標準なので、自分の作りたいものを元に伊藤さんと相談して決めていくことができますよ。詳しくはホームページをご覧になってくださいね。
伊藤さんは、多くの人に作る楽しさを知って欲しいとのことで「出張模型塾」も行っています。全国の模型店や製作スペースなどで行うイベントがあれば、どこへでも指導に出かけてくれるそうです。遠いからとあきらめることなく、ぜひ伊藤さんに連絡を取って相談してみてくださいね。
ガンプラは今も絶大なる人気を誇っています。ガンプラというは「機動戦士ガンダム」のシリーズに登場するモビルスーツと呼ばれるロボットなどを立体化したプラモデルのことで、1980年に誕生して以来世界中で大ヒットしているバンダイのプラモデルです。
株式会社バンダイは40年前と同じ金型を使用可能な状態で保有しており、不定期ながら当時と同じプラモデルを再販してくれているとのこと。しかも昔と同じ値段で!! これはすごいことですよね! ガンプラは子どもの頃に作った人が30代~50代になって、再び作り始めるそうです。ガンプラには根強いファンがついていますね。
■模型塾でできること
(1)プラモデル

ガンプラや特撮物、映画キャラクターなどのプラモデルは伊藤さんの得意ジャンルです。組み立てから塗装まで希望のレベルまで指導してくれます。もちろん、戦車、戦艦、戦闘機、自動車なども同じ工程です。この4体で仕上げの変化を説明してくれました。
まず一番左の“その1”はそのまま組み立てたもの(所用時間1時間程度)。“その2”は本体色以外を塗装し、接着面を削って組直しはげた塗装をリタッチしたもの(所要時間8時間程度)。“その3”はヤスリをかけて合わせ目を消し、本体色以外を塗装しさらにスミ入れしたもの(所要時間20時間程度)。“その4”はパテ埋めで合わせ目を消し、すべての部品を塗装。スミ入れと書き文字と汚しをほどこしたもの(所要時間30時間程度)。
このプラモデルは古い物なので、きちんと仕上げるには技術と経験が必要とのことですが、時間があっという間に過ぎそうですね。
(2)フルスクラッチビルド

伊藤さんが原型を製作した限定版ガレージキットです。フルスクラッチビルドというのは、全ての部品を自分で作成して模型を作り上げる事で、世界に一体だけの作品になります。プラモデルの組み立ても四苦八苦の私にすれば、ゼロから自分のイメージ通りに作り上げるというのは神業に近い感じです。これは、なかなか自分だけで作るのは難しい作業ですね。
(3)ガレージキット

ガレージキットというのは、モデラーが自作した模型を複製して、組み立てキットとして販売した物の事です。最近は生産数が減りつつありますが、それでもまだ一定のファン層がいるジャンルです。プラモデルより、よりディープな世界と言えますね。
世界各国から模型ファンが訪れる「ワンダーフェスティバル」という、世界最大のガレージキットのイベントが年に2回東京で行われています。こういったイベントで購入して来たガレージキットを組み立てるお手伝いも、模型塾ではしてもらえます。
ちなみにガレージキットという名称は、一説では昔欧米のモデラーが自宅のガレージで、自分が作った模型を複製して売り始めたという事からついたとのこと。大きなイベント会場で自分の作品が売れたら嬉しいでしょうね!
(4)原型
複製をするための原型の作り方を教えてもらえます。上手に複製を取るための原型製作は熟練のノウハウが必要なので、それを直接指導してもらえるのは嬉しいことではないでしょうか?
(5)レジン複製
作った原型のゴム型を取り、レジンと呼ばれる樹脂を流し込んで複製品を作る技術です。これもかなり専門性が高く使う道具も多いので、慣れた人に教えてもらうのが一番の近道と言えるでしょう。
(6)ジオラマ

では次に、情景模型と言われるジオラマの工程を見せていただきましょう。まず、戦車とフィギュア配置を考えているところです。

台座にニスを塗ったところです。この台座は100円均一ショップで買った木の箱だそうです。

ヤシの木を作っているところです。よく見ると紙で出来ているのが分かりますね。

地面にジャリを置いているところです。これだけで、もうだいぶ雰囲気が出てきましたね。

地面を塗っているところです。その地域の気候風土などを調べて、土の色を決めるんだそうですよ。凄いです!

ヤシの木と草を植えているところです。ぐっと戦場の雰囲気に近づいてきました。
兵隊の顔も、とてもリアルで驚きます。
戦車がリアルに表現されています。キャタピラーのサビ具合など、実に塗装などが細かいですよね。
伊藤さんがつけたこの作品名は『VORWÄRTS!(フォーヴィッツ)』。ドイツ語で『前進せよ』という意味だそうです。戦車とフィギュアで、ひとつの風景を作り上げています。こういう情景模型をジオラマと言います。
このように見ていると、ジオラマは女性がチャレンジしやすいジャンルなのではないでしょうか。ミリタリーな戦場だけでなく、プールサイドのカフェテラスや公園をお散歩するワンちゃんなど、さまざまなシーンを思い描くことができますね。
伊藤さんは、ここ伊勢の地に戻ってきた時から“地元に根差したこと”“この地で何かできること”を考えていたそうです。私が今回の取材を通して強く感じたのは、この「伊勢模型塾パチポチ」という場ができたことで、全国の模型つくりの愛好家の拠点になっていく可能性が見えてきたのではないかということです。
前述の「ホビーカフェ ガイア」と共に、三重県が知る人ぞ知る模型づくりの場所として多くの人に親しんでもらうことで、世界各地から模型ファンが訪れるようになるかもしれません。
本気で取り組みたい人であれば、この地に住んで日々プラモデル作りに没頭した生活ができる上に、ガレージキットを自ら生産して売るまでの技術を身につけ、プロモデラーへの道も開いてくるかもしれません。
人生100年の過ごし方の中で、本当に好きだったことに時間を費やしてはいかがですか?
(掲載情報は、すべて令和2年2月時点のものです)
- <今回の取材先はこちら>
★Hobby Cafe GAIA(ホビーカフェ ガイア)
住所:伊勢市御薗町高向2042-1 コーポ御薗 1F
電話:0596-67-7223
営業時間:平日 10:00~20:00 土日祝 9:00~20:00
定休日:木、金曜日、その他不定休あり
HP:http://hobby-cafe.x-i-g.blue/ - ★伊勢模型塾パチポチ
住所:伊勢市小俣町明野495-5
電話:080-4300-3166
営業時間:毎週木、日曜日 昼の部 13:00~17:00 夜の部 19:00~22:00
HP:http://isepachipochi.blog.fc2.com
■関連記事
1日を元気に過ごせる絶品朝食! 三重県モーニング探訪
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/eat/7663
高校生のアイデアで地域資源が華麗に変身!?グルメに美容も、地域を盛り上げる取り組みとは
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/live/9771