三重刑務所に併設された全国の逸品を集めたセレクトショップとは?

2020.12.4

田舎やのんびり日帰り取材が多いスローライター 松本光範

津市にある三重刑務所には、家具から文房具、雑貨まで、多彩な製品を販売するショップが併設されていることをご存知ですか? こちらで販売されているのは、全国の刑務所に収容されている被収容者が作った製品。刑務所作業製品と呼ばれていますが、より多くの人たちにも親しんでもらおうと、「CAPIC」(キャピック)というブランドで販売されています。品質の良さや安さで知る人ぞ知る「CAPIC」。どんな商品があるのか。また、三重県ならではのアイテムや売れ筋なども、三重刑務所で取材してきました。※記事中の価格は税込み

<Index>
・そもそも「CAPIC」製品とは
・こだわりがつまった三重県独自のアイテムたち
・県とコラボした兎の助(うさのすけ)グッズも誕生
・人気商品と最新アイテムはコレ!
・気になったアイテムはネットでも買える!

そもそも「CAPIC」製品とは

「CAPIC」製品は、三重刑務所の敷地内にある「刑務所作業製品展示場」(以下、展示場)で販売されています。「CAPIC」の事務所は全国にある刑務所に併設されていて、うち三重刑務所も含めて35カ所には常設の展示場があります。
まずは製品について、三重刑務所 統括矯正処遇官(とうかつきょうせいしょぐうかん)法務事務官 看守長の山中義春(やまなか よしはる)さん、処遇部企画部門 法務技官 作業専門官の小松豪史(こまつ ごうし)さん、草間拓海(くさま たくみ)さん、小川雅彦(おがわ まさひこ)さんに話を伺いました。それぞれ製品ごとに担当が分かれていて、小松さんは木工、草間さんは金属、小川さんは洋裁を担当されています。

左から草間さん、小松さん、山中さん、小川さん

背景にある、レンガ組みの重厚な建物は、1916年に建築された刑務所の正門。「安濃津監獄(あのつかんごく)」の文字が右から左に書かれています。現在は三重刑務所内に、歴史的資料として保存されていて、駐車場から見える場所にあるので、所内に入らなくても誰でも見学することができます。

◇「CAPIC」とはどんなブランドなのですか?
山中さん「公益財団法人 矯正協会刑務作業協力事業部を英訳した頭文字からとって『CAPIC』。刑務所作業製品をより広く親しんでもらえるようにと名づけられました。売上の一部を犯罪被害者支援団体の活動に助成しています。ここ三重刑務所では、全国の刑務所で作られている商品の中から300種類以上の商品を販売していて、うち約50種類は三重刑務所で製作しています」

こちらが展示場。三重刑務所の正門を入ってすぐ右手にあり、誰でも利用できます。

全国の人気商品がズラリ。こちらは滋賀刑務所で製作されている寄木細工の模様を組み合わせた名刺入れです。

◇「CAPIC」製品はどうやって作られているのですか?
小松さん「被収容者が刑務作業として製品を作ることは、出所後の就労を支援する大事な職業訓練にもなっています。また、私たち作業専門官としては、『CAPIC』製品の企画から図面製作、材料発注、製造まで。製品に関わる工程のすべてを担当していて、被収容者に作り方の指導も行います」

こだわりがつまった三重県独自のアイテムたち

◇数ある製品のなかでも三重県ならではのアイテムはありますか?

小川さん「洋裁では、くみひもと伊勢木綿を使ったものがあります。人気商品のくみひもは、11年前、先輩方が三重県組紐協同組合で指導を受けて立ち上げました。私は先輩から学んでもまだ知識が不足していると感じたので、さらに技術習得のため、創業100年の老舗企業に学びにも行きました。作り方だけでも100種類以上もあるんですよ。また、伊勢木綿は、日本で1社しかない伊勢木綿の生地メーカーから素材を仕入れて作っています」

デザインの違いや用途に応じてさまざまな種類がある人気のくみひも。写真左から「くみひものキーホルダー」(950円)、「眼鏡ストラップ」(700円)、「名札用ストラップ」(1,100円)
素材自体がとても貴重な「伊勢木綿のサコッシュ」(2,410円)

他の刑務所の展示場から三重刑務所に注文がよく入る商品としては、バーベキューコンロや貯金箱、木の絵本などがあり、どれもロングセラー商品なのだそう。それぞれのこだわりをお聞きしました。

草間さん「バーベキューグリルは30年近く売れているロングセラーです。資源を活用し、材料費を抑えるために、グリル本体に、使用済みのプロパンボンベを再利用しています。こだわりは溶接部分ですね。ボンベの曲面に足などをとりつけるのですが、筒の大きさは一つ一つ違っているので、隙間が空かないよう、注意しながら作業しています」

網や鉄板がセットになった「バーベキューコンロ」(16,200円)、網や鍋がセットになった「バーベキューグリル」(13,600円)

小松さん「私が担当している木工製品は子ども向けの商品がメイン。椅子の角を丸くするなど、安全性を意識しています。また、人気の高いマジック貯金箱には、開くためのからくりが仕掛けてありますが、木材の樹脂がにじみ出てきてしまうと、からくりがひっかかってうまく作動しなくなってしまいます。そこで、木材の材質に合わせてろうを塗るなど、細かな部分にまで気を配っています」

ある操作をしなければ絶対に開けることができないマジック貯金箱「貯金箱 黒金具桧(くろかなぐひのき)」(2,150円)

県とコラボした兎の助(うさのすけ)グッズも誕生

バラエティに富んだ商品ラインアップの「CAPIC」ですが、新アイテムとして三重県応援キャラクター「兎の助(うさのすけ)」とコラボしたグッズも登場しました。

◇「兎の助」とコラボしたきっかけは?
小松さん「地域とのつながりを強化していこうとする中で、地方公共団体や教育機関、民間企業とのコラボレーションがアイデアとして生まれました。その中で『やっぱり、三重独自のキャラクターとコラボして地域の活性化につなげたい』となったのがきっかけですね」

兎の助グッズの販売スペースには顔が「兎の助」になったバージョンのマネキンがありました。

◇どんなグッズがあるんですか?
小松さん「知育玩具のメモリーカード、一筆箋(いっぴつせん)、和紙折り紙の3種類です。2020年10月から1年間の期間限定生産になりますので、この機会にぜひ手に取ってみてください」

「メモリーカード」(1,320円)。「兎の助」のイラストがプリントされた小さい木製の札。神経衰弱など、いろいろな遊び方が楽しめる知育玩具
オシャレな「一筆箋」(85円)はメモ帳としても使えそう
ポップなイラストでお土産にもピッタリの「和紙折り紙」(各320円)

◇今回地元のキャラクターを使ったコラボグッズを製作されていかがでしたか?
小松さん「『兎の助』は、三重県の公式ツイッターで毎日つぶやいているのを目にしていたので、とても愛着を感じていました。将来的には熊本県のあの有名なキャラクターに負けないくらいの人気になってほしい(笑)。三重県の魅力を発信するために、私たちも製品を丁寧に作り、地域に貢献していきたいです」

人気商品と最新アイテムはコレ!

豊富なアイテムを販売する展示場。実際、三重ではどんなものが売れているのか、人気ベスト5を小松さんたちにお伺いました。

まずは、第5位!
「そばがら枕」小(1,130円)、特小(605円)。

長野刑務所で作られている「そばがら枕」。藍染(あいぞめ)の美しい色と、小ぶりで使いやすいこと、通気性がいいことなどから年齢層問わず人気の商品です。

続いて第4位。
「“へそくり”ジャパニーズペンケース蔵(くら)」(500円)、「“へそくり”ジャパニーズペンケース平(へい)」(300円)と、「“へそくり”おにぎりポーチ」(500円)。

広島刑務所で作られている、畳のへりと和柄の布を組み合わせたペンケースとおにぎりケースです。ひとつひとつ異なる和柄が海外向けのお土産としても人気。“へそくり”シリーズとして、内側に紙幣を隠せる小さなポケットが付いているのがポイント。

そして、第3位。
「テーブル遊家具」(11,000円)。

3歳以上が対象の木製テーブル。天板の右上に小さな穴があり、木製の車(写真下)を入れると斜めのスロープをつたって机の下まで走らせることができます。発売してまだ2年ですが、子どもやお孫さんへのプレゼントに人気だそうです。

第2位!
「バーベキューコンロ」(16,200円)、「バーベキューグリル」(13,600円)。

コンロ(大)
少人数用のグリル

先ほども紹介したバーベキューグリル。高圧ガスが入っていたプロパンボンベを再利用しているので、耐久年数が20~30年とかなり丈夫なのと、価格の手ごろさが人気の理由。個人だけでなく、キャンプ場を経営する施設のまとめ買い需要も高いそうです。

いよいよ第1位!
「ブルースティック」 3本組(275円)、オレンジ1本(130円)、液体(305円)。

横須賀刑務支所で作られているこちらのブルースティック。汚れた部分に直接つけて、歯ブラシなどで磨くのがオススメなんだとか。泥汚れと油汚れに強く、子どもの運動靴やユニフォームの汚れがよく落ちると評判です。写真左はオレンジオイル入りで、オレンジの香りをプラスした洗濯用石鹸。お手軽に買える値段で消耗品のため、常に売れているのだそうです。

展示場では、これらの人気アイテムだけでなく、毎年さまざまな新商品も登場します。そこで2020年に三重刑務所で誕生した新商品の中から、注目アイテムを紹介します。

こちらは「燻製器(くんせいき)」(14,000円)。金属担当の草間さんが、「新しい調理方法ができる器具を作りたい」と、バーベキューグリルと同じくプロパンボンベを再利用し、生み出しました。これがあれば、アウトドアでもソーセージや卵、魚などの燻製が手軽に作れますね。この製品は、中部6県(富山、石川、福井、愛知、岐阜、三重)の刑務所で製作した新製品の開発コンクールで、何と2020年度の最優秀賞を受賞したそうです!

「積み重ねられる椅子」1脚(1,980円)。こちらは木工担当の小松さんが開発しました。野菜や動物などのイラストがプリントされた椅子は、キレイに場所をとらずに6脚まで積み重ねることができます。また、昆虫のイラストは小松さんが幼稚園で子どもたちに話をきいて、昆虫人気が高いことから追加したそう。

お話を伺った三重刑務所のみなさんに、今後の目標や取り組みについてもお聞きしました。

小松さん「最近は、椅子にイラストレーターで描いた絵をプリントするなど、新しいことにも挑戦してみました。被収容者にも、新しいことを取り入れることが学びにつながり、成長していくことだと感じてもらいたいです。また、初めて三重県とコラボをしましたが、今後も地域と交流を重ねて、みなさんに刑務所作業製品を知ってほしいですし、それが刑務所への理解を深めるきっかけになればと考えています」

草間さん「バーベキューコンロの製造は、職業訓練で学ぶ内容がそのまま作業に直結するので、溶接方法などをできるだけ具体的に教えるようにしています。そうすると私自身の教えるスキルの向上にもつながります。今後もできるだけ被収容者がイメージしやすい指導を心がけていきたいです」

小川さん「指導者としては、被収容者にどんどん仕事をやってもらうことが目標ですね。新しい仕事に取り組むにつれ、顔もいきいきしてきますし、本人の成長にもつながります。商品を開発する側としては、各地の刑務所から、私が企画した商品を販売したいと言ってもらえた瞬間が何よりも嬉しいです」

気になったアイテムはネットでも買える!

三重刑務所の展示場では、毎年秋頃に販売会を行っています。2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止に。そこで「CAPIC」では、全国の刑務所作業製品をネットで購入できるサイト「全国ネットde刑務所作業製品即売会」を公開しています。2020年12月21日(月)12時までの期間限定なので、早めにチェックを。
詳細はこちらhttps://www.e-capic.com/

今回の取材で、作業専門官の人が、企画から製造までを担当していることには大変驚きました。開発した商品は、値段が手頃なだけでなく、しっかりと細部まで丁寧に作られ、品質も高いものばかり。
上記の即売会以外でも、「CAPIC」製品はホームページに公開されているカタログから注文することもできるので、ぜひ一度見てみてください。

今回の取材先はこちら
三重刑務所
住所:津市修成町16-1
※近鉄名古屋線津新町駅から徒歩10分
電話:059-226-9144(作業 直通)

CAPIC三重地方事務所(商品に係るお問い合わせ先)
電話:059-221-1726
営業時間:9:00~15:30
定休日: 土、日、祝日
https://www.e-capic.jp/