日本の原風景・丸山千枚田に魅了される理由はここにある!

2021.2.5

旅行大好き ぐーたらライター 宮崎優子

日本最大級の規模を誇り、「日本の棚田百選」にも選ばれている熊野市の「丸山千枚田(まるやませんまいだ)」。黄金色に実った稲穂と、空の青の美しいコントラストは、多くの観光客を魅了しています。一時期は棚田の数が激減し、消滅の危機もあったそう。そんな「丸山千枚田」をどのように復活させ守ってきたのか、「丸山千枚田保存会」会長の喜田俊生(きた としお)さんにお話しを伺うとともに、地元民がこっそり教える絶景ビュースポット、棚田のオーナーとして田植えや草刈りなどのアクティビティに参加できるユニークな制度など、さまざまな角度からその魅力を紹介します。

INDEX
・900年前から続く「丸山千枚田」
・地元の人がこっそり教えるビュースポットへ
・四季折々の異なる表情を楽しめるのも魅力
・オーナーになれば田植えや草刈りへの参加も
・「丸山千枚田」周辺には極上食材とも出会える道の駅も

900年前から続く「丸山千枚田」

今から約900年前、周囲を山々に囲まれた熊野市紀和町(きわちょう)丸山地区では、温暖で水が豊富なことから、山の斜面を開墾(かいこん)して田んぼを作るようになりました。そうしてできた棚田は総称して、「丸山千枚田」と呼ばれるようになりました。

(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

記録によると、慶長(けいちょう)5年(西暦1600年)頃には大小合わせて2,240枚もあったとされ、その後も1950年代までは地区一面を埋め尽くすほどの棚田風景が広がっていたそうです。しかし、1960年頃を境に徐々にその数が減っていきました。

「丸山千枚田保存会」会長の喜田俊生さん

―なぜ棚田が減っていったのでしょうか?
喜田さん「当時は材木の値段が高くて、米を作るより木を売った方が儲かると、棚田を手放す人が増えていきました。それに加えて高度経済成長期の真っただ中。若い人が仕事を求めてどんどん都会に行ってしまい、地元の働き手がいなくなってしまったことも影響して、多い時には2,400枚程あった棚田が、平成に入る頃には約500枚までに減少してしまったんです」

―そこからどうやって棚田を復元させたのですか?
喜田さん「『貴重な文化遺産である千枚田を復興し、地域を活性化させたい』いう旧紀和町(今の熊野市紀和町)の町長の熱意と、『先祖から受け継いできた千枚田を自分たちの代で絶やしたくない』という地元住民の思いが重なり、1993年に『丸山千枚田保存会』を発足しました。それからは旧紀和町と保存会が連携しながら、約5年がかりで現在の1,340枚まで復元することに成功しました」

―棚田の復元で大変だったことは?
喜田さん「活動を始めた当初は、車も入れないような細い道しかなく、機械を入れることができませんでした。ほとんど手作業で雑木を切り倒したり、石垣を積み直したりしなければならず、体力的にも大変でしたね。その後、道を整備し、機械を導入することで、当時に比べるとずいぶん作業負担も軽減しました。それでも小さな田んぼはまだまだたくさんあるので、保全活動は今でも大部分が手作業で行われています」

―保全活動を続けていく上での課題などはありますか?
喜田さん「保全活動には毎年、莫大な経費が掛かっています。熊野市の援助を受けて、何とか活動を継続していますが、今後は、千枚田で採れた米の販路拡大や、オーナー制度の会員数を増やすなどして、いかに収入を確保していけるかが課題と言えます。もう一つは人材の確保です。丸山地区では以前から過疎化が進み、若者がほとんどいないのが実情です。保存会のメンバーも高齢化していて、どうやって後継者を育てるかが大きな問題となっています。一人でも多くの人に千枚田の事を知っていただき、保全活動に興味を持ってもらえるような体制をつくることが今の大きな目標です」

―最後に「丸山千枚田」の魅力について教えてください。
喜田さん「自然が作り出した美しい景観はたくさん存在しますが、『丸山千枚田』は人の手によって作られた棚田と自然が融合して生まれた、全国的に見ても数少ない貴重な景色です。そんな、他ではなかなかお目にかかれない景観を楽しんでいただけると嬉しいです」

地元の人がこっそり教えるビュースポットへ

「丸山千枚田」と一口に言っても、高低差160mの谷合いに1,340枚の棚田が広がる広大な場所。せっかくなら棚田がより“映える”場所で見たいですよね。そこで「熊野市ふるさと振興公社」で丸山千枚田を担当する和平憲一(わひら けんいち)さんにオススメの絶景スポットを教えていただきました。

和平さんイチオシは「熊野古道 通り峠(とおりとうげ)展望台」。展望台まで行くのにちょっと体力を使うそうですが、そこからだと千枚田全体が見渡せ、空と山と棚田のコントラストがとても美しいそうです。そうと聞いては行かないわけにはいかないので、張り切って行ってきました!

2004年に世界文化遺産に登録された「熊野古道」。その中の「通り峠」は登録の対象にはなっていませんが、古くから生活道として頻繁に物資が行き交い、栄えた道だそうです。石畳がわずかに残っていたり、子安地蔵(こやすじぞう)が祀(まつ)られていたりと、ちょっとした歴史散策気分も味わえます。

その昔使われていたであろう石畳
峠の中腹には約170年前に造られたとされる子安地蔵が祀られています。

20分弱歩いて、ようやく到着しました!

展望台から眺める「丸山千枚田」はまさに絶景! 棚田と山並みが一望できます。

ちなみにこちらの展望台ですが、「丸山千枚田保存会」の初代会長が大のカメラ好きだったそうで、そのため、千枚田をより美しく撮ることができる場所に展望台を作られたとのこと。今でも周辺の管理は保存会メンバーでされているそうです。本当に皆さんの努力には頭が下がります。

四季折々の異なる表情を楽しめるのも魅力

秋の収穫時期、棚田一面を黄金色に実った稲穂が埋め尽くす様は圧巻ですが、それ以外の季節や時間帯によっても、異なる美しい風景を楽しむことができるのも「丸山千枚田」の魅力です。

春、夕焼けに染まる千枚田(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

さらに新緑の季節になると、くっきりと輪郭が浮かび上がった棚田を眺めることもできるそうです。

(写真提供:三重フォトギャラリー
毎年6月に行われる「虫おくり」(写真提供:三重フォトギャラリー

「虫おくり」は害虫駆除(がいちゅうくじょ)と豊作を願う伝統行事。夜には1,340本のキャンドルの火が灯され、幻想的な光景が。「丸山千枚田」の一大イベントとして多くの観光客が訪れます。

(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

朝の冷え込みが強くなる初秋から冬にかけての早朝には、朝霧が棚田全体を包み込む神秘的な景色を目にすることができます。

運が良ければ、「風伝(ふうでん)おろし」と呼ばれる現象に出会えることも。大量に発生した朝霧が、熊野古道の「風伝峠(ふうでんとうげ)」から山の東側の麓(ふもと)に向かって滝のように流れ落ちる様からそう呼ばれていますが、滅多にお目にかかれないこの現象を見るために何日も泊まり込む人もいるのだそうです。

農産物直売場「さぎりの里」から見える「風伝おろし」の様子
土地柄あまり雪が積もらないので、実は珍しい雪景色(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

オーナーになれば田植えや草刈りへの参加も

「都市住民との交流を深めつつ、一緒に千枚田を守っていこう」という趣旨のもと、千枚田の一部を利用したオーナー制度があります。オーナーになると田植えや稲刈りなどのイベントに参加できるほか、千枚田で採れた米や地域の特産品がもらえるなどさまざまな特典もついていて、全国から毎年100組を超える申し込みがある人気の制度です。

(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

<丸山千枚田オーナー制度 概要>
【参加資格】
丸山千枚田を愛し保全活動に理解のある方で、地域住民をはじめとした地域の人々とのふれあいを大切にできる方。
【会費(年間)】
30,000円
【期間】
4月~翌年3月まで
【特典】
・農業体験やオーナー専用イベントへの参加
・丸山千枚田で採れた新米10kgと地域の特産品プレゼント
・宿泊施設の割引や温泉入浴の無料回数券プレゼント
・機関紙「めはり」の配布(年3回)
・熊野市ふるさと振興公社特産品購入の際の割引

(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

年齢制限などは特になく、農業をしたことが無くても保存会のメンバーが丁寧にサポートしてくれるそうなので、小さなお子さんの参加もOK。申込み1口につき10名まで参加可能なので、家族や友人同士で参加される方も多いそうです。
2021年度のオーナー募集は2021年2月から。興味のある人は「熊野市ふるさと振興公社」まで問い合わせるか、ホームページをチェックしてみてください。

【問い合わせ先】
熊野市ふるさと振興公社
電話:0597‐97‐0640 
http://kumano-furusato.com

「丸山千枚田」周辺には極上食材とも出会える道の駅も

豊かな自然に囲まれた「丸山千枚田」周辺は、実は知る人ぞ知る極上食材の宝庫。千枚田から車で10分ほどの場所にある道の駅「熊野・板屋 九郎兵衛の里(くまの・いたや くろべえのさと)」では、地元ならではの食材やオリジナルスイーツが購入できます。同施設イチオシ商品をいくつかご紹介します。

「丸山千枚田米」(2合 400円、2kg 1,100円、5kg 2,750円、10kg 5,500円)

「丸山千枚田」産のあきたこまち。豊かな自然と澄んだ水、そして米作りに適した気候で育つことで、あきたこまちならではの旨みと香りがより一層際立つ美味しいお米です。

「千枚田もち」(1パック3個入・450円)※土・日曜限定販売

「丸山千枚田」で採れた貴重なもち米を使った人気の品。もち米本来の旨みを生かしつつヨモギの香りと粒あんの上品な甘さをプラスした、素朴でどこか懐かしい味わいの和スイーツです。

「熊野地鶏」(1,296円~)

「日本一おいしい最高級地鶏をつくろう」をスローガンに開発された、「三重ブランド」にも認定された食材。臭みがほとんどなく、程よい弾力と濃厚な旨味が特徴で、シンプルに塩焼きで食べるのがオススメです。

熊野市でしか採れない幻の柑橘類(かんきつるい)「新姫(にいひめ)」を使ったドレッシングやジュースも
熊野の新名物として近年盛んに栽培されている「熊野唐辛子(くまのとうがらし)」を使った加工品
昔ながらの製法で丁寧に作られた「紀和(きわ)みそ」もオススメです

また今回紹介した商品以外にも、店内には魅力的な品が豊富に並んでいますので、「丸山千枚田」に行かれた際は、ぜひこちらの道の駅にも立ち寄ってみてはいかがでしょうか。ちなみに一部の商品は「熊野市ふるさと振興公社」のHPからも購入できます。

世界に誇るべき、人と自然が作り出した芸術的な風景が広がる「丸山千枚田」。今回の取材を通して、その復活の経緯や、保全活動の苦労などを知ることができました。ただ美しいだけではなく、背景にある、自然と共に暮らす人々の営みの素晴らしさがあるからこそ、「丸山千枚田」がより多くの人々をひきつけるのかもしれないなと感じました。この棚田を守ってきた人々に敬意を払いつつ、皆さんも、美しい景色とこの地で暮らす人々のあたたかさに触れてみませんか。

(写真提供:熊野市ふるさと振興公社)

※現在は新型コロナウイルスの影響で、毎年開催されるイベントの開催が未定となっています。詳細は熊野市ふるさと振興公社のHPをご確認ください。

(掲載情報は、すべて2020年12月時点のものです)

<今回の取材先はコチラ>
丸山千枚田保存会
住所:熊野市紀和町板屋78
電話:0597-97-0640(熊野市ふるさと振興公社内)
一般財団法人熊野市ふるさと振興公社
住所:熊野市紀和町板屋78
電話:0597-97-0640
URL:http://www.kumano-furusato.com
熊野・板屋 九郎兵衛の里
住所:熊野市紀和町板屋82
電話:0597-97-0968
営業時間:平日10:00~16:00、 土・日曜、祝日10:00~17:00、飲食店11:00~14:00
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間が変更となっている場合がありますので、詳しい営業時間はお問い合わせください。
定休日:第2・3火曜日
URL:https://kurobee.net/