飼育種類数国内1位の「鳥羽水族館」には知られざる魅力がいっぱい(前編)

2021.4.22

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

「とばすい」の愛称で親しまれ、2020年に65周年を迎えた「鳥羽水族館」。飼育生物の種類は約1,200種で国内1位。ユニークな表情がSNSで話題になったアザラシや、飼育日数で世界記録を更新中のジュゴン、超レアな生きものや一風変わった生きものを集めた「へんな生きもの研究所」など、見どころがいっぱいです。水族館を支えるスタッフの努力や情熱とともに、三重県が世界に誇る「とばすい」の魅力を前編・後編の2回に分けて紹介。前編では、“日本一”の理由や、全国区で人気のスターな生きものに注目します。※記事中の価格は税込み

<Index>
・「鳥羽水族館」に“日本一”や“日本初”がたくさんある理由とは?
・国内最大級の施設には驚きの仕掛けがいっぱい
・全国区の人気を誇る「とばすい」のスターたちを紹介!
・看板娘「セレナ」のお世話をする飼育員を直撃

「鳥羽水族館」に“日本一”や“日本初”がたくさんある理由とは?

三重県内や東海・近畿エリアだけでなく、全国から観光客が訪れる「鳥羽水族館」。現在は世界でも2施設しか見ることのできないジュゴンの飼育展示や、希少な生物の繁殖(はんしょく)に積極的に取り組むなど、調査研究活動で研究者からも高い評価を得ています。

企画広報室の村上真美(むらかみ まみ)さんにお話をお聞きしました。

◇飼育種類数日本一。なぜ、そんなにたくさんの生きものを飼育展示するようになったのでしょう?
村上さん「1955年、伊勢志摩観光の拠点として誕生した『鳥羽水族館』。開館時の飼育種類数は50種ほどでしたが、徐々に種類を増やしていき、1994年には約4倍にスケールアップした現在の『新鳥羽水族館』が完成。飼育種類も700種を超えました。その後も、ゾーン新設にともない飼育種類を増やしていき、2013年には、変わった生きものたちを集め飼育展示する『へんな生きもの研究所』をオープン。飼育生物が約1,200種になり、国内の水族館の中で1位になりました。

日本で唯一飼育するジュゴンから、小さな変わった生きものまで、『飼育種類数日本一の水族館』が私たちのキャッチフレーズです。その根底にあるのは、『お客さんに楽しんでもらいたい』『感動を与えたい』という思い。そのために、飼育種類を増やしたり、国内初の生きものの飼育や効果的な展示方法を模索したりと、いろいろなことに業界に先駆けてチャレンジしてきました」

◇調査研究にも力を入れているとか
村上さん「海洋生物を生息地に近い環境で飼育するために、海外での現地調査を積極的に行ってきました。ユニコーンのモデルとなったイッカクを追って北極圏での撮影に成功したり、謎の古代魚と言われるシーラカンスの生体をビデオに収めたりと、日本初の快挙をいくつも成し遂げているんですよ。また、大学など研究機関と共同研究をしたり、学術交流などを行うこともあります」

館内入り口には「繁殖賞」のメダルがズラリ。飼育する動物で、国内で初めて繁殖に成功した動物園や水族館に「日本動物園水族館協会」から贈られる賞です。こんなにたくさんの動物の日本初の繁殖を成功させているなんて、驚きです。

国内最大級の施設には驚きの仕掛けがいっぱい

室内型水族館としては国内最大級の規模を誇る「鳥羽水族館」。建物の全長が約240m。通路の長さは全館で約1.5kmあり、生きものの種類や生息する環境に合わせ、12のゾーンに分けられています。ラッコやイロワケイルカなど、極寒の世界の生きものに会える「極地の海」や、セイウチなどと触れ合える「水の回廊」、アフリカマナティーやカピバラが暮らす「ジャングルワールド」など、海・川・陸さまざまな環境で暮らす生きものを飼育展示。なかでも、「海獣の王国」と「奇跡の森」には、「鳥羽水族館」ならではの仕掛けが盛りだくさんです。

アシカやアザラシの仲間が暮らす「海獣の王国」ゾーン。人里離れた断崖の海岸で生活している動物たちをより自然な姿で生活させるため、プールを本物そっくりの岩で覆い、生息地のチリの海岸を再現しました。プールの中央には世界初となる水上チューブを設置。体重700kgを越える巨大トドが岩からダイビングをしたり、アザラシたちがスイスイと泳いだりするのを間近で眺めながら、迫力満点の水上散歩を楽しめます。

下の階に降りると、水槽の横から観察することも。間近にやってくるアシカやアザラシに圧倒されます。

まるで古代遺跡に迷い込んだような雰囲気の「奇跡の森」ゾーン。ゆらゆら揺れる吊り橋や滝など、ジャングルを探検しているような気分を味わえる体験型のエリアで、湿地帯や川辺に暮らす生きものを見ることができます。

水族館としては日本で初めて飼育を行った「スナドリネコ」にはここで会えます。水かきのついた前足を使って、水辺で器用に魚などを捕まえることから「フィッシングキャット」とも呼ばれています。そこから日本では漁をする「漁(すなど)り猫」の名前がつきました。ほかにも、巨大な水生ガメや極彩色(ごくさいしょく)の「ヤドクガエル」など、珍しい生きものがいっぱい暮らしています。

手を入れると皮膚の角質を食べにくる「ドクターフィッシュ」の池は、子どもにも大人にも大人気。

全国区の人気を誇る「とばすい」のスターたちを紹介!

多彩な種類の生きものを飼育している「鳥羽水族館」では、全国的に人気となった生きものも数多く飼育されています。そんなスターを紹介します。

●「人魚の海」ゾーンの人気者 ジュゴンのセレナ
人魚伝説のモデルになったジュゴンを日本で見られるのはココだけ。2021年に34歳(推定)になるセレナは、長期飼育の世界記録を更新中です。

つぶらな瞳、優しい表情でゆったりと泳ぐ姿は、見る人の心をほぐしてくれます。
水面に浮かぶエサを食べるために、時々あお向けで泳ぎます。海で暮らす野生のジュゴンはこのようなことをする習性がないので、これはセレナだけの特技なのだとか。

●「極地の海」ゾーンのアイドル ラッコのメイ
2020年にチャンネル登録数3万人を超えた「鳥羽水族館」の公式YouTube。たびたび話題になるラッコのメイちゃんです。お食事タイムに見せるもふもふポーズが、“あざとカワイイ”とさまざまなメディアで注目されました。

飼育員さんの肩を叩くメイちゃん。「気持ち良い?」と聞いているみたいで可愛いですね。飼育員さんとの息の合った掛け合いが見られるお食事は、朝9:40、昼13:00、夕16:20の1日3回。朝・夕のお食事タイムでは、飼育員さんが投げたイカのミミをジャンプして取る、名物の「イカミミジャンプ」が見られますよ。

●「極地の海」ゾーンのスター バイカルアザラシのニコ
2020年2月22日に誕生してすぐに、おじさん顔のアザラシとしてSNSで広まり、一躍有名なアザラシとなりました。

生後約2ヶ月のころのニコ(写真提供:鳥羽水族館)

陸に上がって毛が乾いた状態の表情がもっともおじさんぽく見えるそう。日中は水の中に入っているので、乾いた状態を見られるのはかなりレアだとか。

●「水の回廊」ゾーンの芸達者 セイウチ
芸達者なセイウチは水族館ファンから根強い人気を集めています。「ポンッ」と音が響く豪快な投げキッスなど、ずんぐりとした体で繰り出すコミカルな動きに、大人も子どももクギヅケ。
セイウチに触ったり写真撮影ができる「ふれあいタイム」は、毎日11:00と14:00に開催。

●「水の回廊」ゾーンの隠れた人気者 アメリカビーバー
最近ひそかに注目を集めるアメリカビーバーは、大好物のサツマイモをおねだりするゆったりとした独特の動きがカワイイと、公式YouTubeチャンネルではラッコのメイに並ぶほどの人気者に。前足でサツマイモをしっかりとつかんで、おいしそうに食べる姿に胸キュンです。

看板娘「セレナ」のお世話をする飼育員を直撃

さまざまな生きものを飼育展示する「鳥羽水族館」の裏側をのぞいてみましょう。普段は入れないバックヤードに特別に入れていただき、看板娘のジュゴンのお世話する、飼育員の半田由佳理(はんだ ゆかり)さんにお話を聞きました。

半田さんはジュゴンのほかにアフリカマナティーやスナメリ、イロワケイルカなどを担当しています。

◇セレナの飼育で一番心がけていることはなんですか?
半田さん「環境やエサのやり方など、見いだした良いスタイルをずっと変えないことと、運動不足に気を付けています。運動しないと胃腸の動きが悪くなり、便秘や体調不良の原因になります。放っておくと動かないことがあるので、清掃のためにプールに入った時は一緒に泳いだりして、運動させています」

◇セレナは何を食べるんですか?
半田さん「アマモという海草と野菜のロメインレタスを与えています。エサにも細心の注意をはらっていて、海から採取してくるアマモは異物が混入しているので、金属探知機にかけて釣り針などを丁寧に取りのぞくんです。釣り糸やゴムひもなど、金属以外の異物もあるので目視でもしっかりと確認しています」

金属探知機を通した後は、水洗いしながら異物混入を二重チェック。
実際にアマモに混入していた釣り針と糸です。自然界で暮らす生きものにとっては、こんなに小さなものでも命の危険になるそうです。
手間ひまかけて用意したアマモを、おいしそうに食べるセレナ。1日25~30kgものエサを食べるそう。

◇ほかに気を付けているところはありますか?
半田さん「エサだけでなく、便の状態や動き、食べる量など、日々の観察は欠かせません。普段の動きを十分に把握しておかないと、小さな変化に気づけないですからね。セレナに会うのを楽しみにしているお客さんのためにも、健康管理にはとても気を遣います」

◇責任のある仕事ですが、どんなことにやりがいを感じますか?
半田さん「セレナの担当になって27年ですが、日々新しい発見があることでしょうか。意外と飽き性だったり、人間が触るのは平気なのに、体長を測るためにメジャーを当てたらビックリして逃げていったり。予測できない反応が多いところが面白い。でも一番うれしいのはエサをちゃんと食べてくれることです。『今日も健康で過ごしてくれてよかった』とホッとします」

取材班に気づいたセレナが近づいてきてくれました。人に育てられたセレナはとても人懐こく、体を触っても嫌がりません。かなりの至近距離でジュゴンを見ることができて感激です。

後編では、「鳥羽水族館」でしか出会えない変な生きものや、海外の水族館に派遣された学芸員のインタビュー、オススメのグルメやお土産グッズを紹介します。

今回紹介した施設はコチラ
鳥羽水族館
住所:鳥羽市鳥羽3-3-6
電話:0599-25-2555
時間:9:00~17:00(7月20日~8月31日は8:30~17:30) ※入館は閉館時間の1時間前まで
定休日:なし
料金:大人2,500円、小人(小・中学生)1,300円、幼児(3歳以上)600円
URL: https://www.aquarium.co.jp/