飼育種類数国内1位の「鳥羽水族館」には知られざる魅力がいっぱい(後編)

2021.4.23

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

「とばすい」の愛称で親しまれ、2020年に65周年を迎えた「鳥羽水族館」。飼育生物の種類は約1,200種で国内1位。ユニークな表情がSNSで話題になったアザラシや、飼育日数で世界記録を更新中のジュゴン、超レアな生きものや一風変わった生きものを集めた「へんな生きもの研究所」など、見どころがいっぱいです。水族館を支えるスタッフの努力や情熱とともに、三重県が世界に誇る「とばすい」の魅力を前編・後編の2回に分けて紹介。後編では、「へんな生きもの研究所」や、海外の水族館に派遣された学芸員のインタビューを紹介します。※記事中の価格は税込み

<strong<Index>
・超レアな生きものに会える「へんな生きもの研究所」
・“見せる水族館”のノウハウで、海外の水族館の発展に貢献
・ラッコやジュゴンをモチーフにした、カワイイお土産やグルメも要チェック

超レアな生きものに会える「へんな生きもの研究所」

2013年に設立された「へんな生きもの研究所」。深海で暮らすふだん目にすることができない生きものや、「なにこれ!」と思わず叫んでしまいそうな不思議な形や生態を持つ生きものたちを約60種300点も集めたエリア。学芸員が発見した新種もたくさん展示されています。

同研究所の担当者である、学芸員の森滝丈也(もりたき たけや)さん。無脊椎(むせきつい)動物の専門家であり、“新種ハンター”の異名を持つスゴイ人です。
入ってすぐ目に飛び込んでくるのが世界最大のダンゴムシの仲間「ダイオウグソクムシ」。

まるで鎧(よろい)をまとったロボットのような風貌(ふうぼう)です。光の届かない深海で生息していて、その生態は謎に包まれています。驚くべきことに、しばらくの間はエサを食べなくてもいいようで、約5年間エサを食べない「ダイオウグソクムシ」がいると話題になったことで、一躍有名になりました。

「エサをなかなか食べてくれないので、その点では苦労しています。匂いでエサの存在を感知するので、アジやイカなど匂いの強いものを与えているんですよ」と森滝さん。この日もエサを入れてもまったく反応なし。食べなくても生きていけるなんて、不思議です。

水槽には、変わった形や色の生きものがいます。
(写真提供:鳥羽水族館)

色鮮やかなナマコの仲間「アデヤカキンコ」。食用で出回っているナマコとは見ためがまったく違います。赤く丸いカタチから、英名では「シーアップル」と言います。

イソギンチャクを家にするヤドカリがいました。ヤドカリの動きに合わせてユラユラと揺れるイソギンチャクがとてもキレイです。
(写真提供:鳥羽水族館)

台湾からやってきた日本初展示の「イヌガエル」です。「ワン」と犬のような声で鳴く、とても珍しいカエル。

目立たないけれどちょっと変わった生きものの研究に情熱を注いでいる森滝さん。「へんな生きもの研究所」では大学など研究機関と連携して、珍しい生きものの生態や行動観察を行っています。森滝さんも、2ケ月に一度のペースで三重県南部の尾鷲沖(おわせおき)の熊野灘(くまのなだ)へ調査に出かけるそうです。

「研究者は生きものを標本にして調べますが、生きている状態で調べる機会はほとんどありません。私たちが水槽内の生物の行動を観察することで、新たな知見を得るお手伝いをしています」と森滝さん。しかし、生態が分からない生物の飼育は難しく、試行錯誤の繰り返しなのだそう。「一つでも多くの生態解明に貢献していきたいです」と語ってくれました。

研究所には森滝さんが発見した新種の生物も展示されています。この「ユミヘリゴカクノシダムシ」もその一つ。ヒトデの体腔内(たいこうない)に寄生する甲殻類(こうかくるい)です。熊野灘で採取し、2020年2月に新種として報告されました。発見者の森滝さんは学名を「Dendrogaster tobasuii」として、「とばすい」の名前を入れたそうです。誰も知らない未知の生物を発見し、自分で名前をつけられるなんて、ロマンがありますよね。

森滝さんの新種発見はまだまだあります。魚に寄生するウオノエという生物の仲間で、トリカジカという深海魚のエラに寄生する「トリカジカエラモグリ」を発見しました。

ある日、水族館に搬入されたトリカジカに見慣れないウオノエの仲間が寄生していることに気付き、知り合いの研究者に見てもらったところ、まだ知られていない種類だと判明。研修者によって、学名は発見者の森滝さんにちなんだ「Elthusa moritakii」と名付けられたそうです。

新種ではありませんが、「鳥羽水族館」で観察を続けて和名がついたものも。こちらはオスとメスの2体が重なる姿が鏡餅(かがみもち)のように見えることから、「カガミモチウニ」と命名されました。

研究所の外壁を突き破るように、ダイオウグソクムシが顔を出す人気フォトスポットも。実物のおよそ15倍もある巨大レプリカは迫力満点!

“見せる水族館”のノウハウで、海外の水族館の発展に貢献

生きものの飼育展示だけでなく、調査研究にも力を入れてきた同館。その実績を評価され、独立行政法人国際協力機構(JICA)の海外協力隊員として派遣された学芸員さんもいると聞き、取材させてもらいました。

2020年1月から3月まで、パラオ共和国のパラオ国際サンゴ礁センター付属水族館で、アドバイザーとして働いていた、企画広報室の杉本幹(すぎもと みき)さんです。
学芸員として企画広報室に在籍し、フィリピンやオーストラリア、チリ、北極など世界中で調査を行ってきました。鳥羽水族館の生きものの多くの調査に関わっているそうです。飼育に関する豊富な知識と、広報担当としての経験を見込まれて、パラオの水族館への派遣が決まりました。

◇新型コロナウイルスの影響をうけ、予定よりも早い2ヶ月での帰国になったそうですが、どんなことに取り組んだのでしょうか
杉本さん「パラオの水族館は教育的な要素が強く、生態の説明などはきちんとしているのですが、暗くてラベルが読みづらいなど、“見せる”展示の基本ができていませんでした。そこで、見る人が興味を持ってくれるような展示を提案しました」

現地の水族館で水槽展示のアドバイスを行う様子。(写真提供:鳥羽水族館)

◇例えばどんな仕掛けを考えたんですか?
杉本さん「岩に擬態(ぎたい)するオコゼの仲間を展示するなら、それに似たサンゴ礁(しょう)と岩だけを入れてあえて殺風景(さっぷうけい)にするんです。そしてパネルに『ここに3匹の魚がいるよ』と書くと、子どもたちは喜んで探してくれます。生息地の環境を再現することも大事ですが、同時に、興味を持ってもらえる見せ方を考える必要があるんです。そういった点では、日本の水族館はとても優れていると思います」

◇展示以外の工夫も行ったのですか?
杉本さん「パラオには飼育生物に愛称を付ける習慣がなかったのですが、保護されたウミガメの名前を一般公募しようと提案しました。現地スタッフは半信半疑でしたが結果は大当たり。SNSへの反響が過去最高になり、国内での広報活動に貢献することができました」

パラオの水族館の見どころなどを伝える、館内ガイドも行ったそうです。(写真提供:鳥羽水族館)

◇培ってきた経験をフル活用されたんですね
杉本さん「現地スタッフとの関係もできてきて、これからというところで帰国することになり、かなり心残りですね。しかし、パラオ水族館と当館は姉妹館として友好協力協定を締結しているので、これからも交流は続いていくと思います」

◇パラオ派遣で得られたことはありますか?
杉本さん「国民全体の環境問題への意識の高さに驚きました。海にビニールが落ちていたら当たり前のようにみんなが拾っている。暮らしに根付いているんですね。私たちも見習いたいところです。鳥羽水族館でも以前は子どもを対象とした『少年海洋教室』という、生きものの生態や環境問題を考える取り組みを行っていました。機会があれば、環境問題を取り上げた教育活動やイベントを運営していけたらと思っています」

ラッコやジュゴンをモチーフにした、カワイイお土産やグルメも要チェック

さまざまな生きものとの出会いを楽しんだら、お待ちかねランチタイム。「鳥羽水族館」では、カワイイ生きものをイメージしたメニューが食べられるレストランも人気スポットです。さらにぜひ買っておきたいオススメのお土産も紹介します。

(写真提供:鳥羽水族館)

「鳥羽水族館」にはレストランが2店舗あり、サンゴ礁の海を再現した大水槽のすぐ向かい側にあるレストラン「花さんご」では、ラッコのメイをイメージした「メイちゃんのカレー」(オレンジジュース付き・1,280円)がいただけます。子どもも食べやすい甘口と、ピリッと刺激的な中辛の2種類。あまりのカワイさに、運ばれてくると、みなさん写真を撮りまくるのだとか。確かに、食べるのがもったいないくらいキュートな見ためですね。

(写真提供:鳥羽水族館)

オリジナルグッズがたくさん販売されている「プラザショップ」では、モッチリとした肌触りがクセになるジュゴンのぬいぐるみが、子どもから大人にまで大人気です。「もちもちじゅごん」(大/4,800円、小/2,300円)。

(写真提供:鳥羽水族館)

箱の表紙をめくると、生きもののイラストが描かれた「めぐる旅Book」(710円)。ジュゴンやイルカなどがプリントされたオリジナルのクッキーは、お土産に最適ですね。

どちらのグッズもネットショップでも購入することができます。
https://shop.aquarium.co.jp/

個性豊かでかわいい生きものがいっぱいの「鳥羽水族館」。取材中もとにかく癒されっぱなしの楽しい1日でした。それだけでなく、多種多様な生きものの飼育を裏側で支えるスタッフさんたちの努力に触れ、命をあずかる責任やお客さんを楽しませるための情熱を知ることができました。季節のイベントなども開催しているので、たくさんの生きものに会いに出かけてくださいね。

※掲載情報は、すべて取材時のものです。

今回紹介した施設はコチラ
鳥羽水族館
住所:鳥羽市鳥羽3-3-6
電話:0599-25-2555
時間:9:00~17:00(7月20日~8月31日は8:30~17:30) ※入館は閉館時間の1時間前まで
定休日:なし
料金:大人2,500円、小人(小・中学生)1,300円、幼児(3歳以上)600円
URL: https://www.aquarium.co.jp/