本屋大賞3位「犬がいた季節」は四日市市の高校が舞台!作者に直撃インタビュー

2021.6.11

旅行大好き ぐーたらライター 宮崎優子

全国の書店員が「面白かった」「お客様にも薦めたい」と思う本に投票する形で選ばれる「本屋大賞」。直木賞や芥川賞と同じくらい注目度の高い賞ですが、そんな2021年「本屋大賞」の第3位に輝いたのが「犬がいた季節」(双葉社)。実はこの作品に登場する高校のモデルとなったのが三重県立四日市高校で、作者の伊吹有喜(いぶき ゆき)さんの母校でもあるそうです。三重県出身で、地元・四日市市観光大使も務めている伊吹さんにインタビュー。執筆のきっかけや裏話、地元民だからこそ知っている町の魅力などを語っていただきました。

INDEX
・四日市高校が舞台の青春小説が本屋大賞3位に!
・高校で犬を飼っていたのは実話だった!
・作者が語る四日市市の魅力と印象深いスポット
・新作の舞台は尾鷲市

四日市高校が舞台の青春小説が本屋大賞3位に!

<「犬がいた季節」あらすじ>
1988年(昭和63年)のある日、三重県四日市市にある八稜(はちりょう)高校に迷い込んだ一匹の白い子犬。コーシローと名付けられたその白い犬は、生徒とともに学校生活を送ることに。
コーシローの世話をした歴代の高校3年生を描いた5つの話に、エピローグとなる令和元年の最終話を加えた全6話構成で、昭和から平成、そして令和へと続く時代を背景に、高校生ならではの迷いや決意を瑞々しく描いた青春小説です。

この物語では「使い捨てカメラ」や「ルーズソックス」、「阪神・淡路大震災」、「ノストラダムスの大予言」など、その時代を象徴するモノやコトが続々登場します。時代が移り変わっても変わらない、人間の思いやりや切なさといった感情が描かれていて、青春時代を懐かしく振り返って共感する人も多いのではないでしょうか。

2020年10月に発売されて以来、書店員の間で高い評価を得て、2021年4月に発表された「本屋大賞」で3位を受賞しました。受賞直後から全国の書店で大々的に販売されるなど、大きな話題となっています。

高校で犬を飼っていたのは実話だった!

尾鷲市で生まれ、四日市市で育ったという作者の伊吹有喜さん(撮影・下林彩子)

◇なぜ四日市市を舞台にしたのですか
伊吹さん「当初はまったく別の話を書こうとしていたのですが、担当の編集者さんと打合せをしていた時にたまたま高校時代の話になりました。母校である四日市高校では、物語と同じく実際に犬を飼っていたのですが、その話を編集者さんにしたらすごく驚かれて。私にとっては犬のいる学生生活がごく当たり前だったのですが、普通に考えたら高校で犬を飼っているって珍しいですよね。すごく盛り上がって『ぜひ、その話を書いてみては』と薦めていただいたので、それなら、作品の舞台も実際に高校があった四日市市にしようと考えたんです」

2020年11月、伊吹さんと高校生も参加し、四日市市内で行われた刊行記念トークイベントの様子
(写真提供:四日市高校)

◇高校で犬を飼うというエピソードは実話だったんですね!
伊吹さん「犬の名前も同じなんですよ。物語では「コーシロー」ですが実際は「コウシロウ」。別の名前も色々考えたのですがどうしてもしっくりこなかったんです」

犬の「コーシロー」のモデルとなった「コウシロウ」は四日市高校の校庭の一角で安らかに眠っているそうです。(写真提供:四日市高校)

◇コウシロウも物語と同じように自由に校内を歩き回ってたんですか?
伊吹さん「はい。私が入学した頃はすでに老犬でしたが、教室や野球部のバックネット裏にひょっこり現れては気持ちよさそうに寝そべっていたのが印象的でした」

◇作品を通して伝えたかったことやテーマは何ですか?
伊吹さん「高校の同窓会に出席した時、犬のコウシロウの話をしましたら、皆さん、いろいろなことをなつかしく思い出してくださって。私よりもずっと先輩の方でも、コウシロウのことを聞くとすごくうれしそうに話してくださるんです。時代が違っても卒業生にとってコウシロウは共通の思い出なんですね。実際のコウシロウは昭和49年から昭和60年までの間、昭和の高校生たちと一緒にいたのですが、創作にあたっては時代を平成に移して、平成の高校生を描いています。十数年も同じ場所に居続けて、入れ替わっていく生徒たちを見守ってきた犬の視点で、時代を経ても変わることのない青春時代の思い出や、18歳のフレッシュな感情を描ければと思いました」

物語の世界観をより盛り上げる”三重弁”にも注目

◇作品を作る上で苦労したことは?
伊吹さん「方言ですね。物語の背景を描くためにはとても重要な要素ですが、話し言葉そのままに再現すると、読んでいる人に言葉の意味が伝わらなくなってしまいます。かといって登場人物がみんな標準語だとリアリティがないですよね。その辺のバランスに苦心しました」

「県外の人にも意味が通じて、かつ三重っぽさ、四日市っぽさが出る方言は何だろうと考えた結果、採用したのが語尾に『~やん』を付けることでした。三重県、特に北部の人は否定を表す『やん』を使って『できやん』とか『寝れやんやん』という言い方をよくします。第2話の男子高校生たちの会話場面では、三重県人なら思わずクスッと笑ってしまう自然な三重弁のやり取りがあります。三重県は大阪と名古屋の言葉が交じっていたり、県内でも北部と南部で言葉が違ったりと、わりと独特な言葉の文化が根付いています。方言にも注目して読んでいただくと、また違った楽しみ方が出来ると思います」


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作者が語る四日市市の魅力と印象深いスポット

小説には、地元出身の伊吹さんだからこそ描ける、リアルで美しい風景描写が多数登場します。物語に登場するスポットの中で、特にオススメの場所を教えていただきました。

伊吹さん「四日市市は、西に鈴鹿山脈、東に伊勢湾があり、すばらしい自然に恵まれているのが特徴です。新鮮な海の幸や山の幸が楽しめるのもいいところですね。小説には登場していないですが、少し足を延ばせば御在所岳(ございしょだけ)や湯の山温泉、鈴鹿サーキットやナガシマスパーランドなどのレジャースポットもたくさんあります。豊かな自然がありながらも、駅周辺はお買い物にも便利なので、生活するにはちょうど良い町。暮らしていた当時はあまり気づきませんでしたが、離れたことで、より一層地元の魅力を感じるようになりました」

① 十四川(じゅうしがわ)の桜

(写真提供:四日市高校)

伊吹さん「近鉄富田(とみだ)駅や四日市高校のすぐそばを流れる十四川の桜並木は本当にきれいです。川沿い約1.2kmにわたって桜が咲き誇る様は圧巻。毎年たくさんの四日市市民がお花見に訪れます。物語の1話~5話全てに登場しており、この物語の重要なイメージのひとつ。私も大好きなスポットです」

② 四日市市ふれあい牧場

(写真提供:三重県フォトギャラリー)

伊吹さん「第5話の主人公の祖父が営んでいた牧場は、四日市市ふれあい牧場がモデルになっています。高台にあって晴れた日は遠く知多半島まで見渡すことができます。また、乳搾り体験やバター作り体験※ができるなど、家族みんなで楽しむことも。個人的には、新鮮な牛乳を使ったソフトクリームが濃厚でお気に入り。とってもおいしいので、機会があればぜひ試してみてください」
※体験の実施についてはHPで確認を

③水沢(すいざわ)の茶畑

水沢地区ののどかな田園風景(写真提供:三重県フォトギャラリー)

伊吹さん「4話に出てくる茶畑は、かぶせ茶の栽培がさかんな水沢地区をイメージしています。小説ではふれていませんが、さらに山の方にあるもみじ谷の紅葉も地元では有名なスポットです。観光ガイドブックには紹介されていない魅力的なスポットが、まだまだ四日市市にはたくさんあります。この作品をきっかけに、多くの人に知っていただけたら」

鈴鹿国定公園内にある水沢のもみじ谷(写真提供:三重県フォトギャラリー)

物語に登場するスポットをまとめた「犬がいた季節 散策マップ」が、「よっかいちフィルムコミッション」のHPで公開されています。小説のエピソードとともに、スポットの魅力も紹介されているので、四日市市にお出かけの際にはぜひチェックしてみてください。

よっかいちフィルムコミッション
https://yokkaichi-fc.jp/

新作の舞台は尾鷲市

「小説新潮」で新作「灯(あか)りの島」の連載を開始した伊吹さん。この作品の舞台は三重県尾鷲市だそうです。
「尾鷲というと海産物や熊野古道が有名ですが、戦時中には海軍の母港として、そして戦後の高度経済成長期は発電所の町として栄えた歴史もあります。1944年、熊野灘部隊の一人として尾鷲市を訪れた海軍の青年と、地元の少女の出会いから始まる物語。少女の成長と町の変遷を通して、時代の大きなうねりを描いていけたらと思っています」

高台から見下ろした尾鷲市の様子(写真提供:三重県フォトギャラリー)

「犬がいた季節」の背景や執筆の裏話も教えていただいた作者・伊吹さんへのインタビューはいかがでしたか。伊吹さんが語られる言葉の随所に、青春時代を過ごした四日市市への深い愛情が感じられ、また、地元の人だからこそわかる深い魅力もたくさん知ることができました。お出かけする際には、参考にしてみてくださいね。

(掲載情報は、すべて2021年5月時点のものです)

■今回取材・紹介した施設等はこちら
三重県立四日市高校
住所:四日市市富田4-1-43
電話:059-365-8221
URL:http://www.shiko.ed.jp/

十四川の桜並木
住所:四日市市富田4
電話:059-366-1513(富田地区まちづくり協議会)
URL:https://tomida.org/maturi/sakuratop.html

四日市ふれあい牧場
住所:四日市市水沢町1538
電話:059-329-3711
営業時間:(売店)10:00~16:00
     (牧場)24時間
定休日:木曜・第3水曜
URL:https://sites.google.com/site/fureaibokujyou/
※売店の営業時間はコロナ禍の影響で変更する可能性がありますので、詳しくはHPをご覧ください

水沢のもみじ谷
住所:四日市市水沢町
電話:059-329-2001(水沢地区市民センター)
URL:https://kanko-yokkaichi.com/watching/318/

よっかいちフィルムコミッション
住所:四日市市安島1-1-56
電話:059-357-0382
URL:https://yokkaichi-fc.jp/


三重フォトギャラリー※写真提供
URL:https://photo.mie-eetoko.com/