
最近よく耳にする「サスティナブル」(持続可能性)という言葉。国際的な目標として定められた「SDGs(エスディージーズ)」では、2030年までに達成をめざす17の目標を掲げていて、三重県でもさまざまな分野で取り組みが進んでいます。県の特産品を使った、廃棄を減らし限りある資源を守る取り組みに注目。「SDGs」目標達成をめざす、伊勢市の「株式会社サンブンノナナ」、尾鷲市の「えびすや」に取材し、きっかけや商品への思いをお聞きしました。
流通していなかった真珠をサスティナブルなジュエリーに
真珠といえば美しい球体をイメージしますが、実はすべての真珠が完全な球体で出来上がるわけではありません。養殖する過程で真円に育たなかった真珠は、これまで価値が低く評価されていました。ここに注目したのが、伊勢市でジュエリーの製造販売を行う「株式会社サンブンノナナ」です。

同社では、自然の影響でゆがんだ形やさまざまな色のあこや真珠をジュエリーとして加工し、「百花(ひゃっか)」としてコレクション販売。球体に尾びれがついたような形の真珠を「金魚真珠(きんぎょしんじゅ)」と命名し、商標登録しています。ジュエリーブランド「SEVEN THREE.(セブンスリー)」代表の尾崎ななみさんにお話をうかがいました。

伊勢志摩の情報発信を担う観光大使「伊勢志摩アンバサダー」でもある尾崎さん。ご自身がモデルにもなって、ブランド展開を行っています。

加工作業中にひらめいた金魚真珠のアイデア
◇「SEVEN THREE.」のブランドコンセプトを教えてください
尾崎さん「伊勢志摩産のあこや真珠だけを使用したジュエリーブランドで、“産地を明確に”“真珠は無着色で使う”ということにこだわり、2018年から販売しています。私の祖父は、60年以上も真珠の養殖を行っていて、85歳の今も現役。身近で真珠養殖の作業を見続けてきたからこそ、私にできることでサポートしたいという思いから立ち上げました」
◇金魚真珠と名付けたきっかけは?
尾崎さん「真珠の選別は1つずつ手作業で行います。変形している真珠は一般的に”バロックパール”と呼ばれているんですが、それらの真珠が集まったときに、金魚のように見えるものがたくさんあり、『金魚が泳いでいる!』と興奮しました。そのあと、これらの真珠を『金魚ちゃん』『金魚の真珠』なんて呼んでいたのが始まりですね。一粒ずつ形が異なることだけで流通にのらなかった真珠も、伊勢志摩で大切に育てられ、誕生した真珠であることには変わりありません。作ろうと思っても作れないし、数も決して多いわけではない。だからこそ希少価値があるし、特別な真珠にしたいという思いから、ネーミングが決まりました」

◇金魚真珠のような売り方はあまり見かけません
尾崎さん「歪(いびつ)な形の真珠は、大手企業では多店舗で統一商品としての販売ができない点から、中小企業は一点ものを扱うには手間がかかるという理由から取り扱いが難しいのです。決して品質は悪くないのに、非常にもったいないなと感じていました。また、生産者の未来を考えた時に、何かプラスになる活動をしたいと思ったんです」
◇「百花」にはどんな種類がありますか?
尾崎さん「着色はせず、ブルー、グレー、ゴールド、グラデーションカラーなど自然の色合いをそのまま生かした真珠や、真円でない形の真珠を展開しています。真珠は一粒使いで主役にしてシンプルなデザインに、長く使っていただけるようチェーンやパーツは変色しにくい18金素材を採用しています。三重県が主催する『三重グッドデザイン』にも選んでいただいています(2019年選定)」

無駄なく利用することが真珠を知ってもらうきっかけに
◇三重県の真珠養殖はどのような現状ですか?
尾崎さん「縮小傾向にあります。2年ほど前から、養殖に使われる母貝(ぼがい)の大量死が続いているんですが、その原因ははっきりとわかっていません。母貝を育てるまでには約2年、一粒の真珠が完成するまでには合計約3年から4年かかりますが、母貝が減ったことで生産量は激減しています。さらに、養殖業者の高齢化も進んでいて、後継者不足も深刻ですね。技術の習得には時間がかかるので、誰でも、すぐに始められるわけではないんです」


◇規格外の真珠を使った新たな取り組みも始められたそうですね
尾崎さん「真珠層の巻きが弱かったり、天然の傷が少し目立つなど、各コレクションでジュエリーとして販売するクオリティにまで届かない真珠もあります。それらの真珠は、コードブレスレットのハンドメイドキット用として使うことにしました。ランクを明確にすることで、多くの真珠を活用できますし、たくさんの人に真珠にふれてもらうきっかけになればとワークショップなども開催しています」

◇「百花」への思いや、今後の展望について教えてください
尾崎さん「真珠は自然とともに誕生する宝石なので、一つ一つ個性があって当たり前。みんなと同じじゃない、自分だけの好きな色や形を選んで、真珠を楽しんでいただけたらうれしいですね。今あるものを生かしてものづくりをすることも、サスティナブルな取り組みの一つです。これまであまり世に出ることがなかった真珠なども積極的に採用し、見方を変えて“新たな価値”を提案していきたい。真珠を知らない人はいないけど、知られていない背景や真珠の魅力を伝えていくことが私の役割だと考えています」
【「金魚真珠 百花-HYAKKA」が買える場所】
SEVEN THREE. online store
https://seventhree.shop/
汀渚 ばさら邸
https://www.basaratei.com/
アートアクアリウム美術館
https://artaquarium.jp/
尾鷲ヒノキの間伐材でコースターやキッチンアイテムを
2017年に農林水産省が認定する「日本農業遺産」に選ばれるなど、高い品質と独自の生産技術で評価を得ている尾鷲ヒノキ。その尾鷲ヒノキを育成する際に出る間伐材(かんばつざい)や、加工する際に出る端材(はざい)を使って、コースターやキッチンアイテム、おもちゃなどを作っているのが、尾鷲市の雑貨店「えびすや」です。「えびすや」を姉妹で運営する大形弥生さん、あかねさんにお話を聞きました。

◇木工細工販売店を始めたきっかけは?
弥生さん「子どもの頃から絵を描いたり、工作をするのが好きでした。また、母親が森林組合で働いていた影響もあり、木工製作に興味を持っていたんです。専門学校の家具専門コースで2年間木工を学んで、卒業後は、静岡県の伊豆にある工房で、地元の木を使った作品作りを1年間勉強。そして地元で工房を立ち上げるために尾鷲にUターンし、2007年に工房『えびすや』をスタートしました。2年後には、製作した雑貨を販売する店舗をオープンしたんです。最初の10年間は1人で運営していましたが、2017年からは妹が参加してくれるようになりました。製作は私が行い、妹はデザインや経理、営業担当という形で分担しています」
◇「えびすや」という店名の由来は?
弥生さん「もともと、祖母が『えびすや』という食堂兼駄菓子屋さんを経営していました。子どもの頃、手伝っていたときに、なんとなく『いつか継ぐんだろうな』なんて思っていて。そこから屋号をいただきました」

◇どんな商品がありますか?
弥生さん「アクセサリーやカトラリー、おもちゃがメイン。あとは干支飾りやキーホルダー、名刺ケースなど約300種類を販売。店内にあるものは、すべて尾鷲ヒノキの間伐材や端材から作っています」
あかねさん「20代~50代くらいの女性がターゲット。カワイイ!と思ってもらえる商品を販売したいですね。アクセサリーには私の趣味がかなり反映されています」
弥生さん「店舗に並んでいる商品以外でも、熊野古道など観光スポットの看板や、ホテルのワークショップで使う材料、企業から依頼を受けてオリジナルの記念品などを作ることもあります」


◇捨てられるはずの木材でものづくりをする理由は?
弥生さん「先人が生産技術を確立し、受け継いできた尾鷲ヒノキという素材を、無駄にせず、すべて使いきることで、少しでも環境保全に貢献できたらと思っています。また、この取り組みで、尾鷲ヒノキの存在を多くの人に知ってもらうきっかけになれたらとも考えています」
◇尾鷲ヒノキの特徴とは?
弥生さん「尾鷲ヒノキは尾鷲市と紀北町の山々で育てられています。この辺は日当たりがいいこともあって、木の赤みや香りが強いのが特徴ですね。明治の初めにはすでに独自の育成技術が確立していて、林業発祥の地とも言われているんですよ」


◇間伐材や端材を加工する際に難しいポイントはありますか?
弥生さん「捨てられる部分には節や割れがあったりするので、そこを避けて作らないといけないのが難しいですね。できあがりを想像しながら木を削っていかないと、完成近くで割れてしまったりすることもあります。また『もとがえし』という木の根元部分を使うこともありますが、木目が複雑に入り組んでいて加工が難しい反面、普通のヒノキでは出せない木目を出せるのが魅力でもありますね」
“知る人ぞ知る”尾鷲ヒノキを次世代につなげたい
「えびすや」の看板商品でもある尾鷲ヒノキのコースターは、2015年に三重県が主催する「三重グッドデザイン」に選ばれました。翌2016年には、志摩市で開催された「伊勢志摩サミット」で使用するコースターとして採用に。2017年には、日本のサービスや商品を世界に向けて発信するプロジェクト「おもてなしセレクション」にも選ばれるなど、全国的に知名度が上がりつつあります。


◇間伐材や端材を使う以外にも尾鷲ヒノキのための取り組みをされているそうですね
弥生さん「商品に使っているのは、ほぼすべてが『FSC認証』を受けた尾鷲ヒノキです。『FSC認証』とは、持続可能な森林資源で伐採された木材であるということを証明する国際的な制度。環境に配慮した木材で商品を作ることで、尾鷲ヒノキをたくさんの人に知ってもらいつつ、貴重な資源として森林を未来に渡って守り続けていくことができます」
◇「えびすや」の商品はお店以外にどこで購入できますか?
あかねさん「『えびすや』のHPでオンライン販売しているほか、道の駅や三重県内のさまざまな店舗でも取り扱っていただいています。そして、尾鷲市内だと私が副代表を務めている雑貨店『OWASE MARCHE(オワセマルシェ)』でも販売しています。『えびすや』のもの以外にも雑貨を販売しているほか、カフェスペースもあるんですよ。そして毎月テーマを決めてイベントも行っていて、地元の方はもちろん遠くからもたくさん参加してくれています」

◇取り組みへの思いと今後について教えてください
あかねさん「尾鷲ヒノキは、流通の仕組みが確立されていないこともあり、どうしても高価になってしまうんです。とてもいい木なのに地元以外でなかなか評価されていないのが残念。“知る人ぞ知る”木材の尾鷲ヒノキの良さを、少しでも多くの人に知ってもらいたいですね」
弥生さん「捨ててあるもの、いらないもので商品を作るということが、最初は受け入れてもらえないこともありました。最近では、そういったものにも価値を見出していこうという考え方が浸透してきて、取り組みへの評価も変わってきています。環境に優しく、使う人のことを考えたデザイン性の高いものづくりを、これからも進めていきたいです」
これまで流通していなかった真珠を使ったジュエリー。“知る人ぞ知る”良質な尾鷲ヒノキの端材を使った木工品。いずれも身近な資源を活用したい、大切にしたいという思いから作られたものです。ぜひ実際に手に取って、その質の良さや作り手の思いを感じてください。そして三重県に訪れた際には、生産地に足を運んでみるのもおすすめですよ。
【えびすやの商品が買える場所】
えびすや ONLINE STORE
https://ebisuya-hinoki.stores.jp/
OWASE MARCHE
https://www.owasemarche.com/
おわせ お魚いちば おとと
http://www.e-ototo.jp/
始神テラス(紀勢自動車道紀北PA内)
http://hajikami-terrace.com/
鳥羽1番街
https://www.toba1ban.co.jp/
道の駅 海山
https://michinoeki-miyama.com
道の駅 木つつ木館
https://hinokiya-stove.wixsite.com/kitsutsukikan
三重県総合文化センター内 アートショップMikke
https://www.center-mie.or.jp/guide/restaurant_shop/museum_shop.html
伊勢シーパラダイス内 和~なごみ~
https://ise-seaparadise.com/restaurant-shop/
- <今回の取材先はこちら>
- 株式会社サンブンノナナ
住所:伊勢市大湊町264-76
電話:03-6277-6133 (平日10:00〜18:00)
URL:https://seventhree.jp/
えびすや
住所:尾鷲市光ヶ丘14-18
電話:0597-23-0009
営業時間:13:00〜17:00
営業日:月曜日(不定休)
URL:https://www.ebisuya-hinoki.com/
三重県の取り組み紹介
三重県は、「誰一人取り残さない」ことを理念としたSDGsの考え方を原動力に、「三重県らしい、多様で、包容力ある持続可能な社会」の実現をめざしています。
https://www.pref.mie.lg.jp/KIKAKUK/HP/m0005000049.htm