いなべ市の山の魅力を伝える山ガールたちに注目!

2021.11.5

観劇から旅行まで、一人でどこまでも 上田芽依

三重県の最北端にあるいなべ市。登山家に人気の藤原岳(ふじわらだけ)や竜ヶ岳(りゅうがたけ)のほか、自然豊かなキャンプ場も多く、アウトドアファンが集まる地域です。定期的に女性限定のアウトドアイベントを主催する「日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ実行委員会」を取材。知られざる山の魅力、初心者におすすめの登山コースなど、今すぐいなべ市の山に登りたくなる情報を、たっぷりお届けします。

「日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ」って?

(提供写真:以下、提供写真元はすべて「日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ実行委員会」)

「花の百名山」として、年間5万人以上が訪れる「藤原岳」。さまざまな滝が楽しめる「竜ヶ岳」など、多彩な魅力をもった山が存在するいなべ市で、登山初心者の女性に、山登りの楽しさを伝えるため、アウトドアイベントを企画しているのが「日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ実行委員会」です。運営スタッフの竹内優子(たけうち ゆうこ)さん、渡邉裕子(わたなべ ひろこ)さんにお話を伺いました。

山が好きすぎて、名古屋市から藤原岳の近くに移住したという竹内さん

◇なぜこの取り組みを始めたのですか?
竹内さん「もともと、いなべ市では、町の観光資源である自然・登山・アウトドアを切り口に、市内外の方と交流を図ったり、地域活性化や市をPRしたりする事業を行っていて、私もお手伝いしていました。その一環で、女性限定の登山イベントを実施。とてもたくさんの参加者が集まってくださったんですが、そのときに『登山をしたいけれど周りに経験者もいなくハードルが高い』『テント泊をしてみたい』『テントを購入したいけれど、失敗したくないから、泊り心地を体験してみたい』といった声を聞いたんです。私も、登山を始めた頃、同じように悩んだ経験があり、こういうみなさんの、初めの一歩を踏み出せるお手伝いがしたい、と思ったのがきっかけですね。そこで、『日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ実行委員会』の活動に参加しました」

◇いなべ市の山はどういうところが魅力なのでしょうか?
竹内さん「初心者から上級者まで、幅広い人が楽しめる山が揃っているところですね。軽いハイキングにぴったりの山や、きれいな花がたくさん咲いている山、山頂から御岳山が見えたりといった、景色がすばらしい山も多いです。また、山麓にはキャンプ場や温泉など観光スポットがあり、ファミリーも楽しむことができます。
さらに、愛知、岐阜、三重を結ぶ東海環状自動車道の整備が進み、名古屋から来るのにも便利になりました。2019年には市内に大安ICが完成し、ICから車で30分も走れば、いろいろな山の登山口に到着できます。電車も三岐鉄道の三岐線と北勢線があり、いなべ市自体のアクセスの良さもポイントですね」

第2回のイベントに参加し、2021年から実行委員会に加わった渡邉さん

◇実行委員会にはどういう方が参加されているんですか?
渡邉さん「イベントは女性限定ですが、メンバーは、男性8人、女性5人の13人。みなさん山には関係のない仕事に携わる社会人で、登山で知り合ってメンバーになった人ばかり。『山が好きでたまらない』『山の良さを伝えたい』という気持ちが強く、初心者向けの山を登る『ビギナー登山』や、ハイキング気分で楽しめる『ゆるハイク』、キャンプ飯を一緒に作る『ワンバーナークッキング』など、登山ビギナーも気軽に参加できる企画をいろいろと実施してきました。イベント準備のときは、平日の勤務後や、休日返上で準備に取り組むなど、時間をやりくりしながら楽しく取り組んでいます」

キャンプ場でのイベントやワークショップも

登山初心者の女性をターゲットに、さまざまなイベントを企画してきた同実行委員会。
竹内さん「初開催したイベントは、1泊2日で『青川峡(あおがわきょう)キャンピングパーク』を貸し切って盛大に行いました。アウトドアグッズの使い方や、ケガをした際の応急処置、『みつろうのリップクリーム作り』などワークショップのほか、歌って登れる“シンガーソングハイカー”加賀谷はつみさんのライブ、ガイド付き登山など、盛りだくさんのイベントを開催し、とても好評でした」

竜ヶ岳をバックに「あそこまで登ってきたよ~」とイベント参加メンバーで記念写真(提供写真)

「キャンプに慣れていない人のために、テント泊とコテージ泊を選べたり、登山コースを複数用意するなどの準備をしました。また、夕食は地元野菜を使った市内のレストランなどに協力してもらい、アウトドアイベントながら、地元のお店も楽しめるような工夫も。イベントを重ねるたびにテント泊の人が増えていて、『初めてテントを購入しました!』と参加してくれた方がいらっしゃったのは、うれしかったですね」

「草木染め」のワークショップの様子(提供写真)
夜はテントがズラリ。みんなで星空を眺める楽しい時間(提供写真)

「いなべ山女子フェスタ」流、山の楽しみ方

初心者もベテランも、それぞれの楽しみ方で、自由に過ごせるのが山登りの奥深さ。「イベントに参加したら、ぜひ自分ならではのスタイルを見つけてほしい」と話す2人に、それぞれの山での楽しみ方を聞いてみました。

竹内さん「缶ビールを持って行って、ハンモックで昼寝をしながら飲むことも。夜に登るナイトハイクも大好き。一度、星よりも多いぐらいのシカの目に囲まれていたときは、ビックリしました。星空ってこんなにきれいなんだと感動したり、朝日や夕日が見られたり。テント泊は一度するとやめられないです」

竜ヶ岳から名古屋方面の夜景を望む(提供写真)
「愛用のコーヒーセットを持っていき、山頂でゆっくりコーヒーを楽しんだりもします」と竹内さん

渡邉さん「私はずっと動いていたい派。谷に降りてイワナやアマゴの渓流釣りをするために、釣竿を持っていったりします。麓(ふもと)では見られない植物や、岩場で咲いている花を見つけると、その生命力に感動しますね。携帯電話を乗せられるぐらい大きいヒラタケなど、きのこ探しも大好き。ときにはカモシカに出合えることもありますよ」

さらに「山の上でのクッキングも楽しみの一つ」と渡邉さん。初心者におすすめの調理器具は?と聞いたところ、「今、流行りのメスティンがイチ押し!」。メスティンとは、1人用くらいのサイズのアルミ製飯盒(はんごう)のことだそうです。「お湯が沸かせるし、お米を炊いたり、パスタを作ったり。蒸し器にもなるし、燻製(くんせい)もできます。小さなサイズなので、携帯用のコンロが無くても、100円ショップで手に入るキャンドルなどで、充分代用できるのもいいですね。調理をしなくても、お湯を沸かして、コーヒーをいれたり、カップラーメンを食べるだけでも、山のきれいな景色を見ながらなので、とても気持ちがよく、美味しさも倍増しますよ!」

メスティン(写真左)はさまざまな調理法に対応した優れもの
渡邉さんは、保温性の高い水筒を持って行って現地でお湯を沸かす手間を省くこともあるそう
こんなオシャレな「山メシ」を楽しむことも(提供写真)

いなべで登山するならここ!初心者にもおすすめのコース3選

初心者でも登山しやすい山が多いいなべ市。おすすめの山を3つピックアップしてもらいました。

その1 花と景色の美しさはいなべ市随一「藤原岳」

池の向こうに見える「藤原岳」(右)と「竜ヶ岳」が美しい(提供写真)

いなべ市と滋賀県東近江市の境に位置する標高1,140mの山。
竹内さん「この山のおすすめポイントは、なんといってもキレイな花がたくさん咲いていること。『花の百名山』にも選ばれています。いくつかある登山道のなかでも、おすすめは大貝戸(おおがいと)コースです。少し体力がいるけれど、足場もしっかりしていて迷いにくいコース。ゆっくり登って頂上まで3時間ぐらい、下りも含めると歩行時間は5時間ぐらいです」

フクジュソウ(提供写真)
セツブンソウ(提供写真)

渡邉さん「春には、フクジュソウの群生やセツブンソウも楽しめます。また、登山口にはトイレがあり、山頂の手前には、整備された避難小屋があるのもうれしいポイント」

藤原岳展望丘(山頂)と避難小屋前に整備されたトイレ(提供写真)

また、藤原岳は、頂上付近が比較的平坦な地形で、ゆっくり休憩したり、お昼寝もできるのだとか。「山には、シカがいっぱいいるので運が良ければ出合えるかも。また、麓には、石釜で焼きあげたパンがおいしい『Café Attente』(カフェ アタント)があり、下山後にお茶を楽しむことができます。県外から来るなら、阿下喜(あげき)温泉や六石(ろっこく)温泉に入って帰るのもいいですね」と、山登りを終えた後のお楽しみも紹介してくれました。

その2 映えスポットがいっぱいの「竜ヶ岳」
藤原岳よりも少し南に位置する標高1,099mの山。
渡邉さん「巨岩が積み重なった『重ね岩』、山頂までの美しい稜線など、思わず写真を撮りたくなる、映えスポットが多いことで有名な山。最短コースの石榑(いしぐれ)峠だと、上りは1時間半ぐらいです。雨が降らない限り足元はすべりにくいのでおすすめです」

重ね岩では、こんな特撮のような写真も撮れるのだそう(提供写真)
頂上付近の足元には背の低い笹原が一面に。眺望のよさが人気です(提供写真)

もこもことした見た目から、「羊」と呼ばれたりもするツツジ科の木「シロヤシオ」が群生しているのも竜ヶ岳の特徴。5月には真っ白の花が咲いて白い羊、秋になると紅葉して赤い羊の群れのようになるんだそう。

もこもこした姿がかわいい「シロヤシオ」(提供写真)
紅葉した「シロヤシオ」(提供写真)

竜ヶ岳は、滝が多いことでも有名。頂上をめざさずに、片道1時間半ほどかけて、「長尾滝」などいくつもの滝をめぐるコースもあり、そちらもおすすめだとか。

四季を通して美しい姿を見せる長尾滝(提供写真)

その3 北アルプスや白山連峰まで見える「鈴北岳」
いなべ市・滋賀県犬上郡多賀町・東近江市の境に位置する標高1,182mの山。
竹内さん「鈴北岳は、頂上付近の眺望が最高。滋賀県の琵琶湖から、岐阜県・富山県などにまたがる白山連峰、さらに長野県の北アルプスまで見わたせるんです。鞍掛(くらかけ)峠からだと標高差も少なく、稜線歩きを楽しみながら、2時間かからずに登れます」と竹内さん。

見晴らしがいい鈴北岳の山頂付近で撮影(提供写真)
なだらかな道でゆっくりと景色を満喫(提供写真)

番外編 苔が見事な「御池岳」、ほっこりできる「狗留孫岳」 
惜しくも上の3選には漏れてしまいましたが、2人がぜひおすすめしたいという山を2つ、ご紹介します。
一つは「御池岳(おいけだけ)」。登山口はいなべ市で、山頂は滋賀県に位置する山。山上には1,000mのあたりに「テーブルランド」と呼ばれる広大な平原が広がっていて、その広々とした景色が、渡邉さんのお気に入りなのだそう。

御池岳(提供写真)
御池岳(提供写真)

竹内さんは、「狗留孫岳(くるそんだけ)」がお気に入り。「人が少なくて家から近いから、必ずお弁当を持って行って、山頂でいただきます。山頂にはなぜかシーサーが置いてあったり、道中の看板に『ファイト』と書いてあったり、面白いポイントがいくつかあるんです。麓のおそば屋さんもおいしいですよ」

2021年2月には同実行委員会プロデュースで「いなべの渋山(しぶやま)」という冊子も発行しました。

SNSで話題になり海外からも問い合わせがあったという「いなべの渋山」(提供写真)

「いなべ市の中でも、”鈴鹿セブンマウンテン”として知られる藤原岳と竜ヶ岳の人気が特に高く、シーズンになると、鈴鹿山脈の登山ルートが密になってしまうんです。それを解消できないかと思い、”渋山”というものをブランディングしました。いなべ市には、もっといろんな魅力的な山があるんだよというのを伝えたくて」と竹内さん。
先ほどの狗留孫岳のほか、烏帽子(えぼし)岳など、一般的には有名ではない、玄人好みの山にスポットを当て、登山ルートや見られる植物、生き物などが、写真付きで紹介されています。すでに在庫僅少ではありますが、いなべ市役所商工観光課などで無料配布中とのこと。

イベントや地元のお店なども、登山客を温かく迎えてくれる雰囲気に満ちたいなべ市。地域全体で、豊かな自然を存分に楽しもう、というスタンスが感じられました。2022年には、デンマークの老舗アウトドアブランド「Nordisk(ノルディスク)」がプロデュースする広大な施設がオープンを予定。ますます盛り上がるいなべ市のアウトドアシーン。ぜひ一度訪れてみませんか。

<今回の取材先はコチラ>
日本のまんなか♡いなべ山女子フェスタ実行委員会
URL:https://inabe-yamajoshi-fes.com/

三重県の取り組み紹介

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