
三重県南部に位置する尾鷲市。温暖な気候で、海の恵み、山の恵みが豊富なこの地域には、観光客だけでなく、県外からの移住者もたくさん暮らしています。そんな尾鷲市の魅力に注目。今回は第1弾として、大阪市と尾鷲市との二拠点で生活をしながら料理店を営む羽尾康(はねお やすし)さん、貯(ちよ)さんご夫婦に取材。移住者の目線で見た尾鷲市の魅力について、お話を聞きました。
海の幸を思いっきり味わえる「ほんじつのさかな」
羽尾さんご夫婦の営む料理店「ほんじつのさかな」は、2019年にオープン。尾鷲港からほど近い場所にある古民家を自分たちでリノベーションした店舗で、水揚げされたばかりの新鮮な魚介類が味わえると、遠方からも多くの人が訪れる人気店となっています。



二拠点生活に尾鷲市を選んだ理由は?
羽尾さんご夫婦が、尾鷲市で店舗を始めようと思ったきっかけについて、お話を伺いました。

◇お店を始めたきっかけは?
羽尾さん「実は、妻の実家が尾鷲市にあるんです。だからここの魚が本当においしいというのは以前からよく知っていました。もともと大阪で飲食店を経営していて、こちらの魚を仕入れるために、漁港や漁協に通っていたんですが、移動費など、コスト面で採算が合わない…。でも、尾鷲市の魚を扱いたいという思いがあきらめられなくて。それならいっそ尾鷲市で勝負しようと決心しました。ただ、子どもたちも小さかったので、完全に移住してしまうわけにもいかず、週末は尾鷲市、平日は大阪市でという二拠点での生活がスタートしたんです」
貯さん「田舎暮らしが楽しそうだなっていう気持ちもありました」

◇思い立ってから実際に営業を開始するまではどのくらい?
羽尾さん「物件探しから始めて、この古民家と出合い、自分たちでリノベーション作業をして…という期間がだいたい1年弱ですね」
貯さん「私は当時、会社勤めをしていたので、週末に尾鷲市に来て、作業してまた帰るという生活でした」

羽尾さん「大阪から尾鷲市内まで約200km。スムーズに走っても3時間はかかります。よく、遠距離移動が大変でしょうと言われますが、それはまったく辛くなかったですね。基本的には『お互い楽しめなくなったらすぐやめよう』というスタンス。二人でいろんなルートを探しながら、移動も楽しんじゃおうもうという考え方で取り組めたのがよかったと思います。季節ごとの花、きれいな川、地場の農産物、無人駅、そういうものをすべて楽しみながらの移動時間でした」
貯さん「お店が完成した今も、楽しんでやっているのは変わらないんですよ(笑)」
◇大阪市と尾鷲市両方での営業は、ずっと続けられるんですか?
羽尾さん「将来的にはこちらに軸を移すつもりで考えています。今は大阪には月に1~2回帰るくらいで、ほとんどメインは尾鷲市ですね。2019年11月にオープンして、すぐに世の中がコロナ禍になったので、尾鷲市にはお年寄りも多いことから、大阪との往来はなるべく控えようと妻と相談して決めたんです」
礼を尽くせば必ず受け入れてくれる温かさ
◇住んでみて感じることは?
羽尾さん「このあたりは、昔から住んでいらっしゃる方が多い地域ですが、みなさんに、本当に温かく迎え入れていただきました」
貯さん「懐が深いというか、優しさを感じますね」
ご主人「子どもさんが都会に出てしまった方も多いので、『よそから来てくれるのは活気があっていい』と言っていただけるんですよ。他の土地から来ても、きちんと礼を尽くして地元の方々に接すれば、必ず受け入れてくださるという安心感がありますね」
◇ここはぜひおすすめしたいというポイントは?
羽尾さん「とにかく食べ物がおいしいし、人情味も豊かです。そして何よりも自然。神秘的な熊野信仰が根付くこの土地には、ありのままの自然を受け入れ、敬うような暮らしが息づいています。自然とともに原点回帰を意識した生活をすることで、きっと、人生の素晴らしい時間を過ごすことができますよ」

貯さん「この地域には、伝統的な『尾鷲ヤーヤ祭り』や、打ち上げ花火で有名な『おわせ港まつり』など祭りがたくさんあります。2020年、2021年は、コロナ禍でほとんどが中止になってしまいました。これから、いろんなことが再開されたら、そうしたお祭りや地域のイベントにも、積極的に参加していきたいですね」
◇尾鷲市での好きな場所を教えてください
貯さん「尾鷲市街から車で15分ほど海へ向かうと、地元の人が“松本浦”と呼んでいる海岸があります。天然の磯があって、干潮時には磯遊びができるんですよ」
羽尾さん「熊野古道センターもいいですね。少し高台に建っているんですが、そこから見える尾鷲湾の景色は最高です」


私たちが惚れ込んだ自然の魅力を移住体験で味わって
「ほんじつのさかな」では、2020年の秋からアルバイトスタッフの募集を開始。アルバイトスタッフには、格安の家賃で住まいを提供するなど、プチ移住体験のお手伝いもしているそうです。
◇この取組をはじめたきっかけは?
羽尾さん「まずは単刀直入に人手が足りなかった(笑)。そしてせっかくなら、都会の人に田舎に住んで楽しんでもらって、しかも田舎って、意外とビジネスになるんだよって言うのを見てほしかったんです」
貯さん「そのためには住居が欠かせないなと。“田舎暮らし”いいなぁと思っても、住むところをどうするかというのがハードルになって、なかなか実行に移せない。お店は週末だけの営業なので、週末だけ住んでもらってもいいですしね」
羽尾さん「とにかくここに住んで、私たちが惚れ込んだ尾鷲市の大自然を体感してもらいたいですね。観光客として訪れるのもいいですが、暮らしてこそわかる、自然の移り変わりや厳しさ、素晴らしさがあります。そして仕事も少し手伝ってもらって、尾鷲市のいろいろな部分を、ワンストップで経験できるきっかけになれればと思ってます」

貯さん「でもまだ都会からの方はいらっしゃらないんです。反応はすごくあるんですけど」
羽尾さん「常にウェルカムなんですけどね。海も山も川もすぐ近くにあって、本当にすばらしい地域なんで、いっしょに遊びたい、楽しみたいと思っています」
貯さん「アルバイトをしてもらうのは4時間くらいなので、それ以外は自由に遊んでもらって。お金を稼げて、楽しめて、家もあって、おすすめですよ(笑)」
羽尾さん「もちろん、ガッツリ仕事したいという人もいらっしゃると思うんです。フルで働きたいという方には、相談に乗ったり、いろいろお手伝いさせていただけるかなと思っています。店をオープンしてから、ここでさまざまなネットワークもできたので」
貯さん「なんでも声をかけてください。お家もいっしょに探します。DIYもいっしょにやります(笑)」
羽尾さん「少しでも多くの方に、この尾鷲市の魅力に触れていただきたいですね」
◇今後尾鷲市で取り組んでみたいことは?
貯さん「尾鷲市はもちろん、東紀州エリア全体を盛り上げていきたいですね。大阪でもやっていたインバウンドに向けた取り組みとして、熊野古道などを、海外にPRしていけたらと思っています」
羽尾さん「地域の皆さんと一緒に、観光客を受け入れるためのコミュニティづくりもやっていければと考えています。また2021年2月からは、隣の紀北町(きほくちょう)の施設の運営コンペに参加して受託したカフェの運営も始めました。観光客も地元の人にも立ち寄っていただける、楽しいスポットにしていけたらいいですね」

次回、第2弾は、アイドルでありながら尾鷲市に移住し、YouTubeなどで地域の魅力を発信している池山智瑛(いけやま ちあき)さんに取材。田舎暮らしで苦労した点や、メンバーである「尾鷲市地域おこし協力隊」について紹介します。お楽しみに。
- <今回の取材先はこちら>
- 「ほんじつのさかな」
住所:三重県尾鷲市港町9-8
電話:080-3789-7065
営業時間:11:30~15:00
土曜、日曜、祝日のみ営業
URL:https://www.facebook.com/honjitsunosakana/
三重県の取り組み紹介
三重県では、伊勢神宮、熊野古道など日本有数の歴史遺産や豊かな自然に恵まれた南部地域における働く場の確保や定住の促進に向けて取り組んでいます。
https://www.pref.mie.lg.jp/NANBU/HP/index.htm