ヘルパーサービスでバリアフリーを実現! 車いすのままで伊勢神宮を参拝できる

2018.3.16

ママライター 森下裕美子

専門研修を受けたヘルパーのサポートで
玉砂利、階段があっても車いすのまま内宮を参拝

特別な場所として崇拝されてきた伊勢神宮。江戸時代には、日本人の6人に1人が参拝したと言われるほど、庶民の間でお伊勢参りが大流行したとか。現在でも国内外から多くの方が訪れる中、高齢者や体の不自由な方が参拝されるケースが増えているそうです。
実は、伊勢神宮は車いすで参拝することができます。そこで今回は、車いすを利用している方と、ライターの森下が伊勢神宮をめぐり、車いすでの参拝事情をレポートします。

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伊勢神宮は、正式には「神宮」といい、「内宮(ないくう)」(皇大神宮)と「外宮(げくう)」(豊受大神宮)の2社を中心に、大小さまざまな社が点在。すべて合わせると125社もあるそうです。天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、内宮の御祭神です。

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伊勢神宮の参道には玉砂利が敷かれ、車いすの細いタイヤでは、思うように進みづらい上、階段を上らなければ参拝できない場所もあります。
これまで、地元のNPO団体や市民団体が無償の参拝サポートボランティア活動を行っていたものの、依頼数が年々増加。そこで、2015年に6つの団体による「伊勢おもてなしヘルパー推進会議」が立ち上がり、参拝サポートの体制を整備し、有償の「伊勢おもてなしヘルパー」というサービスが始まりました。

今回は、この「伊勢おもてなしヘルパー」のサービスを利用して、車いすで、天照大御神をまつる内宮の「正宮(しょうぐう)」を参拝します。

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レポートに協力してくださった三重県在住の伊藤芳和さんと奥さま。ご病気のため、10数年前から車いすを利用しているそうです。
実は伊藤さん、2017年11月に神宮に来たものの、「車いすで玉砂利の参道を移動するのは無理だろうと、宇治橋(※)を渡ったところで頭を下げて帰ったんです。今回は正宮まで行けると聞き、本当にうれしく思います」と話してくれました。※宇治橋=五十鈴川にかかる内宮の入り口

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「伊勢おもてなしヘルパー」のサービスは、利用する人の身体状況や同行者の人数によってヘルパーの人数、料金が変わります(希望日の1週間前までに要申し込み。詳細は、文末のガイドにある「伊勢おもてなしヘルパー」のWebサイトを参照)。今回は正宮への階段を車いすのまま上がるため、ヘルパー4人が同行し、料金は1万円。写真左から山本さん、久野さん、井口さん、伊藤さんです。

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まず、内宮の表玄関「宇治橋」の手前にある「衛士見張所(えしみはりしょ)」を訪ね、電動車いすを借ります。左の伊藤さんの車いすは、正宮への階段を上がる際に必要になるので、ヘルパーが運びます。

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衛士見張所の車いすは、電動・手動があります。玉砂利をスムーズに進むにはこれぐらいの太いタイヤでないと、加重でタイヤが砂利の下の土にめり込むそう。電動・手動ともに無料で借りられますが、予約不可で当日申し込みのみ。台数にも制限があります。

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伊勢市の観光案内所5カ所のうち、宇治浦田観光案内所と伊勢市駅観光案内所の2カ所でも、手動車いすの無料レンタルを行っています。内宮は宇治浦田観光案内所、外宮は伊勢市駅観光案内所での貸し出しが便利。レンタルは事前予約が可能(宇治浦田観光案内所:電話0596-23-3033)。

今回は神宮の電動車いすを借りましたが、伊勢おもてなしヘルパー所有の電動車いす(写真)を使用して参拝することもできます。

 

大鳥居をくぐり宇治橋を渡って
内宮の正宮をめざす
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それでは、参拝へと進みましょう。外宮のあとに内宮という順番がならわしだそうですが、「伊勢おもてなしヘルパー」のサービスは、2018年2月現在、内宮限定。そのため、今回も内宮のみの参拝です。

五十鈴川に架けられた長さ101.8mの宇治橋の手前で一礼し、大鳥居をくぐって神宮へ。この宇治橋は、日常の世界から神聖な世界へ、そして人と神とを結ぶ架け橋といわれています。
宇治橋をはじめ、内宮の参道は右側通行。ゆるやかなカーブで、フラットに造られているので、車いすでもスムーズ。橋の上からは五十鈴川の流れはもちろん、山々の壮観な景色を眺められます。

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木々に囲まれた参道を、ヘルパーが速度を調整しながら進んでいきます。

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しばらくすると、右手に手水舎が見えてきました。参拝前に手や口を洗い清めることは禊(みそぎ)を簡略化した儀式です。神宮の手水舎は高さが低いため、車いすを平行に止めれば、座ったままでも自身で手や口を洗えます。

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手水舎を後にし、鳥居をくぐると、正宮への案内看板にそって玉砂利の参道を進みます。参道の中間地点となる「神楽殿(かぐらでん)」が左手に見えます。ここでは、お守りやお札の授与や祈祷の申し込みができます。

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ほどなく、正宮まであと100mという案内が出てきます。もうすぐ、正宮が見えてくるのか、と思っていたところに…。

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ヘルパーの久野さんが「真正面からでは見えづらい、正宮の御正殿(ごしょうでん)の上部を見ることができる、おすすめのポイントがここです」と教えてくれました。

▲おすすめのポイント(ルートは今回通った車いす用ルート)

正宮の御正殿は「唯一神明造」(ゆいいつしんめいづくり)という日本古来の建築様式で、屋根は萱葺(かやぶ)き、10本の鰹木(かつおぎ)がのせられ、先端が水平に切られた4本の千木(ちぎ)が特徴です。ヘルパーの井口さんによると「朝日が昇った後、太陽の光に照らされ鰹木が黄金に輝く時が、一番きれいだと思います」とのこと。この日は午前8時30分ぐらいに参拝しましたが、確かに鰹木が朝日に照らされピカピカ輝いていました。

 

25段の階段をヘルパーが呼吸を合わせ
車いすのまま上り下りする

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さあ、正宮の参拝です。参道には木々の間から朝日が差し込み、神秘的な雰囲気です。

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正宮を参拝するには、25段の階段を上らなければなりません。電動車いすは重くて持ち上げられないので、階段下で、普段使っている車いすに乗り換えます。18段目までは階段幅が広く段差も低いので、車いすの前輪と後輪を交互に持ち上げ、一段ずつゆっくりゆっくりと上がります。ヘルパーが掛け声を合わせて、車いすの左右と後ろで持ち上げるので、バランスをくずすことはありません。上段8段は階段幅が狭いため、ヘルパー4人が左右前後のバランスをくずさないよう、車いすを持ち上げて、一段一段、階段を進みます。

この日は平日早朝だったからか参拝者が少なく、階段の真ん中を上がりました。ヘルパーの山本さんは、2018年の元日も、車いす参拝の補助を担当。「参拝者が多いときには、階段の端を上がるようにしています」

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車いすのまま、25段の階段を上りきりました。この後、伊藤さんご夫妻はヘルパーの皆さんとともに正宮を参拝。残念ながら、撮影は一般の方も含め階段下までと決められているので、参拝の様子は後ろ姿のみです。

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難しいのは、階段を下りるときです。車いすで参拝した際の順路は、上がってきた階段を再び、下りることになります。伊藤さんは前を向いたままで、車いすごと少し後ろに倒れるような姿勢になるので、「一瞬、こわいと感じましたが、しっかり支えてくださっているので、身をゆだねてお任せしました」。
ヘルパーの皆さんは研修期間中に、実際に車いすに座り階段を下りる体験をしているそうです。ヘルパー伊藤さんは「下りる時のこわさを自分でも体感していますので、ゆっくり、ゆっくり動かすよう気を付けています」。そして、25段の階段を車いすのまま下りることができました。

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正宮を参拝した後は、別宮「荒祭宮(あらまつりのみや)」へ。内宮第一の別宮で、正宮参拝後に参拝するのがならわしとされています。

 

10代から70代までの「伊勢おもてなしヘルパー」が
車いすでの神宮参拝をサポート
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参拝を終えて、ヘルパーおすすめの撮影ポイント(下図参照)で、伊藤さんご夫婦に車いすでの神宮参拝について感想を聞いてみました。
「車いす生活になってから、伊勢神宮を参拝するのは無理だろうと完全にあきらめていました。ですが、あきらめることはありませんね。ヘルパーの方にサポートしていただき、内宮の神様にごあいさつすることができたことは、本当にいい思い出になりました」

▲おすすめの撮影ポイント(ルートは今回通った車いす用ルート)

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続いて、「伊勢おもてなしヘルパー推進会議」の構成団体のひとつ、「NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」の中山めぐみさんに、取り組みについて聞きました。

―ヘルパーは男性や高齢者だけでなく、若い方もいらっしゃると聞きました。
中山さん「ヘルパーになるには、神宮についての知識はもちろん、車いすの操作方法などを座学、実技両面の研修プログラムで受講しなくてはいけません。それでも現在、高校生から75歳まで、70人もの方にヘルパーとして登録していただいています」

―「伊勢おもてなしヘルパー」を有償のサービスにしたのはなぜですか?
中山さん「無償ボランティアでは、神宮までの交通費といった費用がヘルパー自身の持ち出しになります。自分の身を削っていては、長続きはしません。ヘルパーのスタッフの確保とともに継続性を重視し、『伊勢おもてなしヘルパー』を有償にすることで、ヘルパーの最低限の負担をカバーしています。いつでも、どなたでも神宮を参拝でき、その魅力にひたっていただきたいと思います」

* * * * *

私事ですが、亡父が病床にあったときに「伊勢神宮に行きたい」と何度も何度も言うので、「元気になったら連れていってあげるから」と話していました。父がなぜ、神宮に行くことを希望したのか理由はわかりませんが、それだけ神宮とは特別な場所だったのかもしれません。残念ながら父の希望はかないませんでしたが、「伊勢おもてなしヘルパー」の活動は、私のような家族にとってはありがたい活動だと取材を通じて痛感しました。ヘルパーの皆さんも、「神宮のすばらしさを、多くの方に知ってもらいたい」「自身も足が悪いが、チームの一員として活動を支えたい」といった思いを持って取り組まれています。「いつか神宮へ」と思っていても身体の問題や高齢を理由にあきらめている方が、この活動によって神宮参拝の夢を実現できるといいですね。

 

バリアフリー観光の様子を県政チャンネルで
今回取材した車いすでの伊勢神宮の参拝の様子は、県政チャンネルでも配信中。県政チャンネルでは、車いす用リフト付きの送迎バスがある鳥羽市の海女小屋や、バリアフリー改修工事が終わったミキモト真珠島のレポートもあります。
http://www.pref.mie.lg.jp/MOVIE/v1000200141.htm
バリアフリーのガイドブック「みえバリ」
「伊勢おもてなしヘルパー推進会議」の構成団体のひとつでもある、NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンターでは、“伊勢志摩を旅したい”という障がい者や高齢者の旅行者に、伊勢志摩をはじめとした三重県内の観光施設や宿泊施設などのバリアフリー観光情報を発信しています。
また、県内各地の施設を調査したデータを基に、ガイドブック「みえバリ」を発行。バリアフリー情報や、観光スポットのポイントもバッチリ。2018年5月には改訂版の発売予定も。
http://www.barifuri.com/
今回紹介した施設はこちら。
★伊勢神宮
住所:伊勢市宇治館町1
電話:0596-24-1111(代表)
参拝時間:10月~12月=5:00~17:00、1月~4月・9月=5:00~18:00、5月~8月=5:00~19:00
http://www.isejingu.or.jp/
伊勢おもてなしヘルパー推進会議

事務局/NPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

住所:鳥羽市鳥羽1-2383-13、鳥羽1番街1階

電話:0599-21-0550

時間:9:00~17:30、木曜休(繁忙期は無休)

http://www.ise-omotenashi.jp/

 

★伊勢市内観光 レンタル車いす

【伊勢市駅観光案内所】

住所:伊勢市吹上1-1-4(JR伊勢市駅構内)

時間:9:00~17:30(車いすの貸し出しは9:00~15:30、返却は17:00まで)

電話(予約):0596-65-6091

【宇治浦田観光案内所】

住所:伊勢市宇治浦田1-10-25( 内宮B2駐車場横)

時間:9:00~17:30(車いすの貸し出しは9:00~15:30、返却は17:00まで)

電話(予約):0596-23-3033

伊勢市Webサイト http://www.city.ise.mie.jp/11388.htm

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■三重県の魅力をとことん味わうための――三重満喫力検定
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/feature/10626
三重満喫力検定