魅力再発見!モダンでおしゃれな萬古焼の歴史と若き担い手に迫る

2018.11.30

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

 

 

三重県が誇る伝統工芸品のひとつに、「萬古焼(ばんこやき)」という、やきものがあるのをご存知でしょうか。2018年は萬古焼の創始者・沼波弄山(ぬなみろうざん)の生誕300年にあたります。これを記念し、萬古陶磁器振興協同組合連合会では、「BANKO 300th」を掲げ、さまざまな事業を展開中です。おでかけ大好きライター・内山真紀が、萬古焼の魅力を取材してきました!

沼波弄山翁 生誕300年記念「BANKO 300th」について詳しくはこちら
↓↓↓
http://banko300.jpn.org/

萬古焼の優れたデザイン性を知ることができるミュージアム

まずは、「BANKO 300th」の総合プロデューサーを務める、陶芸家・内田鋼一(うちだ こういち)さんが立ち上げた私設美術館「BANKO archive design museum」を訪れました。

_K4A6406

▲こちらが「BANKO archive design museum」の入口。味のあるロゴは三重県出身の人気イラストレーター・大橋歩(おおはし あゆみ)さんによるものです

_K4A6486人物アップ

内田さんは、作品づくりの傍ら、陶芸に関するエッセイの執筆や展覧会のプロデュース、ほかにもホテルや店舗の内装など、幅広く活躍する人気陶芸作家です。

◇萬古焼について教えてください。
内田さん「江戸中期に、桑名の商人・沼波弄山が茶の趣味が高じて、現在の朝日町小向(あさひちょうおぶけ)に窯を築き、自分で茶器を焼き始めたのが始まりです。その後は、時代に合わせて柔軟に変化し、産業的なやきものとして進化を続けてきました。萬古焼の代表と言えば、紫泥急須(しでいきゅうす ※)や土鍋。土鍋に至っては、全国シェアの80%を占めるほどです。四日市萬古焼は1979年1月12日から経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定され、2013年には三重ブランドにも認定されています」

※鉄分を多く含む赤土を使用し、釉薬(ゆうやく)をかけずに焼き上げた、萬古焼の特徴的な急須のこと

◇なぜ、ミュージアムを立ち上げられたのですか?
内田さん「四日市市は、やきものの街として、長い歴史のある街です。にも関わらず、住民でさえも意外と萬古焼について知らない人が多いんです。そこで、ランドマーク的な存在として、萬古焼の魅力を発信できる場所をつくろうと考えたのがきっかけ」

◇こちらには、どういった作品が展示されているのでしょうか。
内田さん「海外への輸出を盛んに行っていた、明治から昭和初期にかけての、とりわけデザイン性に優れた萬古焼を展示しています。四日市市は明治期に入ると、四日市港の開港や鉄道の開通など、交通の便がいちじるしく発達しました。その立地をいかして、ほかの窯場に先駆け、輸出用陶器を数多く生産。玩具や人形、食器などで、色鮮やかな西洋人好みのデザインが採用されていたんです」

実際にミュージアムを案内していただきました。時代背景を感じられる「統制陶器・代用陶器」や、萬古焼の特徴でもある鮮やかな色彩に驚く「カラーバリエーション」など、7つのテーマに区切って展示されています。

_K4A6501
▲鮮やかなグリーンにモダンなデザインが施された器。ほかにもビビッドなイエローなど、豊富なカラーバリエーションは、現代の私たちにとっても新鮮な印象です

_K4A6509
▲太平洋戦争中は金属が徴収され、日常品としての金属が不足。そのため、代用陶器が出回りました。こちらはガス台。この時代にはほかの窯場でも代用陶器が多くつくられ、手りゅう弾を生産していたところもあったそうです。見た目には陶器とはまったくわかりません!

_K4A6481
▲「これも昭和初期につくられていた、直火にも耐えられる陶器のやかん。デザイン的にも優れているので復刻させ、近々商品化の予定です」と内田さんが解説してくれました

_K4A6523
▲海外向けに大量生産された食器。海外旅行先で気に入り、お土産に購入した食器が実は萬古焼だった…なんてことも1970年代頃はよくあったそうです。独特の色使いは、国内向けのモノとは違った趣がありますね

内田さん「萬古焼の定義は、実はあるようでないんです。周囲には美濃や多治見、瀬戸、常滑など、巨大やきもの産地があります。そういった産地に比べれば、後発の萬古焼は規模が小さく、歴史も浅い。でも、それが逆によかったんだと思います。『こうでなくてはいけない』といった枠にハマらずに、ほかではできないことに目を向け、隙間産業的なビジネスとしてやってきた。軽やかに柔軟な発想のもと、独自に発展してきたんです」

 

未来へのメッセージが込められた企画展「萬古焼の粋」

「BANKO 300th」のメイン事業として、企画展「萬古焼の粋 ー陶祖 沼波弄山から現在、未来に繋がる萬古焼ー」が、2019年2月3日(日)まで、ばんこの里会館(四日市市)で開催中です。この企画展も、内田さんが手がけました。

◇「BANKO 300th」の総合プロデューサーとして、どんなことを伝えたいとお考えですか?
内田さん「土鍋などは80%という高いシェアがありながら、実際にはこれが萬古焼だと分かって使っている人は、すごく少ない。高い技術と独創性で変化してきた、萬古焼の知られざる魅力を、多くの人に知ってもらいたいですね。そして萬古焼に携わる人や住民には、奥深さを知ってもらいたい。そのきっかけにしたいと考えています」

◇企画展では、創世期の萬古焼を見ることもできるんですよね。
内田さん「時代別に展示し、創世期から現代まで、どのように変化してきたかを見ることができます。萬古焼は巨大産地と比べるとマイナーブランドで、ローカル色が強いかもしれません。でも、この企画展を見てもらえば、萬古焼の用途の広さや深さ、おもしろさを伝えられるんじゃないかと思っています。萬古焼に関わる人たちには、先人たちの知恵や創造力、遊び心に探求心…そんなものを感じてもらって、その上に自分たちがいることを自覚し、これからの萬古焼を担っていってもらいたい。そんなメッセージも込めています」

では、内田さんの熱い思いが込められた企画展も見に行きましょう!

_K4A6584

企画展「萬古焼の粋」は、ミュージアムからすぐの「ばんこの里会館」で開催されています。企画展の期間限定で、館内の外装や内装に、焼き物を運ぶときに使用する杉板が一面に使われています。企画展が終わったら各窯元さんに配布して、実際に使うのだそうですよ。

_K4A6554
▲会場はらせん階段を上がった3階ホール

_K4A6525

▲展示は江戸時代から現代まで、萬古焼の変化を見ることができるように展示されています。こちらは江戸時代に作られた古萬古。赤絵といわれる繊細な絵柄がとても美しいです

_K4A6532
▲普段は倉庫のスペースを茶室に見立てて、萬古焼の始まりでもある茶道具を展示。奥にあるのは沼波弄山肖像画の軸です

_K4A6534
▲これは、江戸時代に作られた井戸車。以前、「つづきは三重で」の特集で紹介した、竹川竹斎(たけがわ ちくさい)の家の庭で使用されていたものだそう

※竹川竹斎を紹介した記事はコチラ
つづきは三重で「三重県の実は…明治期に日本の礎を築いた偉人を輩出していた」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/feature/7099

_K4A6539

▲明治から昭和の初め頃に輸出用につくられた急須。オリエンタルなデザインが西洋人に好まれていたようです

_K4A6548
▲現代の萬古焼の代名詞とも言える土鍋

_K4A6565
▲ほかにもノベルティの人形や貯金箱なども。可愛いキャラクターがとってもポップな品々です

約400点が展示されていて、見ごたえ十分の企画展でした。展示品の多くは個人のコレクションで、ほかでは決して見ることのできない貴重な品々ばかり。時代ごとに見ていくことで、時代背景と共に先人たちがどんな工夫や努力をしてきたかを、垣間見ることができました。普段は倉庫や給湯室だというスペースを、うまく利用した展示のアイデアは、さすが内田さんです。そんな点も見どころですよ。

萬古焼のこれからを担う「やきものたまご創生塾」修了生にインタビュー

萬古陶磁器工業協同組合では、萬古焼の技術者を育てることにも力を入れています。2007年には、「やきものたまご創生塾」(通称「やきたま」)を設立。日本を代表する陶芸家を講師に招き、基礎から学べる貴重な機会を提供。多くの修了生が巣立っているのだとか。今回は、8カ月半のカリキュラムを修了し2018年3月に卒業した11期生の姜 京和(かん きょんふぁ)さんにお話を聞きました。

_K4A6617
◇塾生になったきっかけを教えてください
姜さん「2年前に菰野町(こものちょう)で開催された『窯出市』に行ったときに、窯元『クラフト石川』さんの作品と出会ったのがきっかけでした。色合いやフォルムがモダンでかわいくて、こんな萬古焼があるんだと驚きました。それから、いろいろと調べているうちに創生塾のことを知って、やってみようと思ったんです」

◇創生塾ではどんなことを学ぶのですか?
姜さん「土の練り方からロクロの使い方、色を付ける釉薬のこと、絵付け…、とにかく全部です。器づくりの基本である土練りは約1カ月みっちりでした。メインの講師、伊勢志摩サミットでも作品が使用された稲垣竜一(いながきりゅういち)先生のほか、内田鋼一先生や各分野で活躍されている方々が教えてくださり、充実した時間でした」

◇卒業後はどんな活動をしているのですか?
姜さん「自宅に作業場をつくって、創作活動を続けています。現在、修了生のグループでは、皇学館大学・明和町・酒蔵が産学官連携でつくっている地元100%の日本酒『神都(しんと)の祈り』とコラボした酒杯の制作プロジェクトが進行中です。酒米『神の穂』の田んぼの土を使ってみたり、稲わらを灰にして釉薬をつくれないか検討したりなど、みんなでアイデアを練っているところ。新酒ができる来年2月の発表をめざしています」

酒盃明るいトリミング
▲こちらは10月上旬に鳥羽で開催された、ブリュッセル国際コンクール「SAKE selection(サケ・セレクション)」の乾杯用につくられた酒杯。姜さんを含む、修了生6名の作品です。創生塾を卒業後も、みなさん積極的に活動しています

◇今後の目標や夢はありますか?
姜さん「自分の作品づくりももちろんですが、何より『やきたま』をもっともっと広めたいんです。固定概念や枠にとらわれない自由な発想が、萬古焼の最大の魅力。クリエイティブなことをしたいと考えているなら、思う存分センスを発揮できると思いますよ」

「やきたま」では、卒業後の進路もバックアップしているそう。最後に陶磁器メーカーへ就職した修了生を訪ねました。
_K4A6674
▲右から「陶山製陶所」5代目・益田英宏(ますだ ひでひろ)さんと、10期の修了生・片山綾沙(かたやま あやさ)さん

「陶山製陶所」は、江戸後期に創業した歴史ある陶磁器メーカー。伝統的な紫泥急須や鳥が飛び出る仕掛けのある急須などを、職人さんが手作りしています。急須づくりは特殊な技術が必要で、後継者不足が深刻な課題なのだそう。そこで、熱意ある「やきたま」の卒業生を受け入れ、技術継承に取り組んでいます。

_K4A6645
片山さん「私が手がけた商品が多くのお客様のもとに届いていると思うと、大きなやりがいを感じます。『やきたま』を卒業し、萬古焼の職人として仕事ができるのはとても嬉しいです。まだまだ未熟ですが、もっともっと学んで一人前の職人になりたいです」

鎖国が開かれた明治から、いち早く輸出に目を向けるのはさすが商売上手な三重。柔軟な発想とアイデアで独自に進化してきた萬古焼は、知れば知るほどにおもしろいです。土鍋や急須だけではない、萬古焼の魅力を再発見しに出かけてくださいね。

 

<今回紹介した施設・イベント・事業はこちら>

★BANKO archive design museum
住所:四日市市京町2-13、1階
電話:059-324-7956
時間:11:00~18:00
休館日:火曜・水曜
入館料:500円(中学生以下は無料)※カフェとショップは入館無料

★萬古焼の粋 ー陶祖 沼波弄山から現在、未来に繋がる萬古焼ー
会場:ばんこの里会館3階ホール
期間:2018年9月29日(土)~2019年2月3日(日)
住所:四日市市陶栄町4-8
電話:059-330-2020
時間:10:00~17:00(入場は16:30)
休館日:月曜(祝日の場合は開館)
入場料:500円(中学生以下は無料)
http://banko300.jpn.org/bankoyakinoiki

★やきものたまご創生塾(問い合わせは、萬古陶磁器工業協同組合)
住所:四日市市京町2-13
電話:059-331-7146

★陶山製陶所
住所:四日市市別名1-15-9
電話:059-331-5318

■関連記事

つづきは四日市市で

つづきは三重で「スタイリッシュな萬古焼。動き出した伝統産業。成功の2つの秘訣とは?」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/work/4571

つづきは三重で「三重県の実は…明治期に日本の礎を築いた偉人を輩出していた」
https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/feature/7099