
【取材】サバト
三重県といえば伊勢えび。
常に私たちを魅了する存在です。
三重県育ちの私の伊勢えびデビューは、小学校時代の運動会。
祖母が作った特製お弁当の中に、伊勢えびが入っていました。
皆さんはいつ伊勢えびに出合いましたか?
さて今回は、伊勢えび漁と大型定置網漁をリポート。
人口約150人の漁村、尾鷲市早田(はいだ)を取材。
ーーー深夜、伊勢えび漁の漁港に立つ。
初めての伊勢えび漁取材。集合は24時。
職場から直行して、なんとか早田漁港に到着。
ということで・・・。
船着き場に到着。すると、空には満天の星。
伊勢えびの行動が活発になるのは真夜中とのこと。漁は25時頃の予定。
天候も重要。雨天時は漁を行うことができないのだとか。
初めての船、初めての漁。 期待と不安が入り混じる・・・。
いや正直、不安しかない・・・。出港・・・。

船酔いすることもなく順調な航海。
それでも不安な気持ちのせいでずいぶん長く感じる。
真っ暗な海。
聞こえるのは波と船を走らせるエンジン音だけ。
陸を離れれば離れるほど、不安な心がさらに不安に・・・。
ーえ〜と・・・、例えばなんですけど・・・、万が一船から落ちたり事故に遭遇したらどうするんですか?
伊勢えび漁師の山本久記さん(以下山本さん):命の保証は無いわな。

“こわい!!! 帰りたい!!!” と心の中で叫びました・・・。
何が起きるか分からない。普段仕事をしていて「命の危険を感じる」と思うことってあまりない。
だからこそ漁は、入念に準備をするし、天候も大事なのですね。
船が進む途中、海上にいくつかの幻想的な光。
ーあれはいったい何ですか?
山本さん:道しるべです。夜の海は真っ暗で迷ってしまうから、その防止策としてあれが漁の場所まで点在してる。あれをたどっていけばゴールまで行けるってことです。LEDです。
文明の力、スゲェ!! LEDスゲェ!!(心の中でのセリフ)
夜の海に街灯なんてありません。
LEDライトは無事な航海をするための守り神です。
約20分。漁の場所へ到着しました。
ー漁ってどんなふうに行うんですか?
山本さん:事前に海中に仕掛けておいた網をひたすら引っ張り上げるんです。伊勢えびがそれに引っかかるという原理です。
網を引っ張り上げる作業は人力。しかも普段はたった一人、真っ暗な海で。
長さ数十メートルの網を黙々と引っ張り上げます。
網に掛かるのは伊勢えびだけとは限りません。

ーうわぁ! 貝だ! 貝も掛かるのですね!
山本さん:サザエやね。
ーあっ、魚が掛かってますね!
山本さん:カワハギやな。
ーすごっ! この魚は何ですか?
山本さん:知らんなー。謎の魚やね。
チャポン・・・。
ーえええ、逃がしちゃった!?
山本さん:あくまで伊勢えびを捕るのが仕事やからね。必要のない魚は海に逃がすんですよ。
そうこうしていると海中に赤い影が!
来た来た! 伊勢えびだ!
“ピィー! ピィー! ピィー!”
ー何ですかこの音? 伊勢えびの鳴き声?
山本さん:これは骨格を振動させて出している音ですね。
捕れた伊勢えびは、すかさず海水の入った容器の中へ。
実は伊勢えびは、真水や雨にあたるとすぐに弱ってしまうらしく売り物にならないこともあるらしいのです。
なるほど! 雨天に漁を行えない理由はここにもあったんだ!
十数匹の伊勢えびと数匹の魚や貝を捕り、漁を終え港に戻る途中にはこんなやりとりも。
ー今回の漁はたくさん捕れた方ですか?
山本さん:ちょっと少ないかな。
いつも大漁というわけにはいかないようです。
しっかり準備をして臨んでも、その日の天候などに左右される漁業という仕事。
いつもベストの仕事ができるよう、常に準備を怠らない。そのうえで結果を素直に受け止める。
これは自分の仕事にも通じる気がします。(小さいミスでくよくよしちゃうこともあるから。)

山本さんの仕事ぶりは、一介のサラリーマンの私にも大事なことを教えてくれたような気がしました。
ここで、約3時間ほど休憩。
今度は尾鷲市早田が誇る、約300mの大型定置網漁へ。
ーーー威勢の良い掛け声が海に響き渡る、早田の大型定置網漁。
伊勢えび漁は小型船で行うのですが、大型定置網漁は中型船で行われます。
それに比例して、乗船する人数も増えていきます。
漁場をめざして出港。
徐々に夜が明けてきた!
朝日が昇る中、2隻の船が確認をとりながら、引っ張り合いながら徐々に引き上げていきます。
こちらは伊勢えび漁とは違い、大きなローラーが網を引っぱる原動力です。
まさに私の中の「漁」のイメージ!
正直、めっちゃ船揺れます!
そりゃそうです・・・。船同士で綱引きしてるような感じですから・・・。
船酔いしかけていた私を見て、漁師メンズは笑いながら「遠くを見ててくださいね」と優しくアドバイスをしてくれました。
これが海の男たちか・・・。強くて優しい。
ある程度の長さまで網を引き上げたら、残りは人力で引き上げます。
日もすっかり昇り、威勢の良い掛け声が海上に響き渡ります。
出世魚ブリの町、尾鷲。まだブリのシーズンではなかったので、ブリになる前のワラサや、アジ、シイラ、サバなどさまざまな魚種が捕れるのも、定置網漁が盛んな東紀州の特長でもあります。

約1時間くらいの漁が終わり、海の神様に感謝と無事を報告し、船内の神棚にお酒を供えます。
命の危険と隣り合わせの漁師。
神様への感謝の気持ちの深さが習慣として脈々と受け継がれています。
漁を終え陸に戻りました。
魚を捕るだけが漁師の仕事ではありません。
捕れた魚を運び仕分けたり、網の修繕をしたりと、漁が終わってもやることはたくさん。
忙しい中、私に温かく接してくれた漁師メンズの皆さん。
そこにはお世辞やうわべの関係など必要ない、豪快ながらも心地良い働き方がありました。
ーーーいのちをいただく。
「良かったらさっき捕れた魚を食べてみますか?」
と、うれしいお誘いをしていただいたのは、地域おこし協力隊として宮城県から尾鷲市早田にやってきて活躍中の石田元気さん。
※石田さんは、三重県が開催したWomen in Innovation Summit(ウイメン・イン・イノベーション・サミット) 2016で、合同会社き・よ・り代表として「古くて新しい女性の働き方」をテーマにプレゼンテーションを行いました。
早田漁港の方同様、今回の取材の準備などをご協力していただきました。

ーすごい! さすが漁師町の地域おこし協力隊! さばくの上手ですね!
石田さん:実は尾鷲に来るまで、魚ってさばいたことなかったんです(笑)。
そう言いながら、慣れた手つきであっという間にお刺身が完成。
遠慮無く、お刺身を頂きました。
自分も一緒に乗船させていただき、そこで魚を捕る一連の仕事を目撃したというエッセンスは「美味しい」や「新鮮」だけでなく「いのちをいただく」という意識を持たせてくれました。
漁の仕事。
見学するまでは全く別世界と思っていた分野にも、人間そのものの「生き方」に通じる大切な「ヒント」が隠れていました。
それは「人事を尽くして天命を待つ」
なんだか世の仕事すべてに通じる大事なことのようで、明日からの自分に役立つライフハックを教えてもらった気分でした。
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