若手海女さんに会いに鳥羽へ 海を学び、カキを食する

2018.2.22

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

次世代を担う新人海女さんに会いに、
海女さん人口が日本一の鳥羽市相差(おうさつ)町へ

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三重県と言えば、素潜りでアワビやサザエを捕る海女さんでも有名ですよね。最近、鳥羽市には若手海女さんが増えているというウワサが。そこで、海女さんが三重県一多い鳥羽市相差町に、関西のライター・内山真紀が行ってきました。さらに、鳥羽・志摩地域の漁業文化や、カキのグルメ情報まで、海の情報をたっぷりお届けします。※文中の価格はすべて税込み。

◆海から帰った海女さんの仕事に同行しました

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鳥羽市南部の相差町にある鳥羽磯部漁協相差支所を訪ね、若手海女さんがこの日に潜っている場所へ案内してもらいました。海女になるためには、漁協に組合員として加入しなくてはいけません。ただ、いきなり加入して海女になるのはリスクが高いので、鳥羽磯部漁協相差支所では期間限定で、海女漁体験の受け入れを行っているとか。
海女が漁をできる時期は、相差町の場合、夏(4月1日~9月15日)と、冬(10月1日~12月31日)の年に2回。三重県の条例によって、漁期が決められています。

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漁の時間は、相差町では午前9時から10時30分の1時間30分で、漁協組合によって異なるそうです。10時30分をまわり、漁を終えた海女さんが岸へ戻ってきました。

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相差町の新人海女さん。左から、アヤミさん(38歳)、リサさん(32歳)です。
相差の海女さんの漁には3つのスタイルがあると言います。岸から漁場まで泳いで行き、4m~10m程度の浅いところで作業をする「カチド(徒人)」と、船で漁場に行って20mほどの深さで漁をし、“トマエ”という役割の人に引き上げてもらう「フナド(船人)」、1隻の船に船頭(男性)と複数の海女さんが乗り合わせて漁場へ行き、それぞれ単独で漁を行う「ノリアイ」の3種。今回、話を聞いた2人は、岸から漁場まで泳ぐ“カチド(徒人)スタイル”で漁を行っています。

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冬の獲物は、サザエとナマコが中心。夏はアワビ漁が行われるとか。時季や天候、気温などによって、漁の場所は変わり、獲物がいるかどうかの判断は、経験を重ねるしかないそうです。
獲物はこの後、市場へ売りに行きます。市場へ行く前に、カチド(徒人)スタイルで使う、道具を見せてもらいました。

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まずは、アヤミさんの道具から。足ヒレと磯眼鏡、ベルト型の重り、時計、そして、一番下にあるのは“タンポ”と呼ばれている、浮き輪のようなもの。このタンポにつかまって、漁場まで泳いで行くそうです。
タンポの内側には、捕った獲物を入れる網が付いていました。このタンポはアヤミさんの手作りで、ビニールテープで仕上げたタンポはとってもカラフル!

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こちらは、リサさんの道具。内容は同じですが、海女をしていたおばあさんの道具を譲り受けたそうです。
アヤミさんとリサさんは、漁で冷えた体を温めにいったん自宅へ。その後、正午から始まる漁獲物の買い取り受付けのアナウンスを合図に、市場へやってきました。
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市場では水揚げした獲物の計量が行われ、その重さによって水揚げ金額が決まります。市場での計量が終われば、海女としての1日の仕事は終了です。

30代の2人はUターンを経て海女の道に

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仕事が終わったところで、アヤミさんとリサさんに話を聞きました。2人とも相差町出身ですが、一度県外に出てから戻ってきた“Uターン組”。アヤミさんは4児のママとして、主婦業と海女を両立。リサさんは、朝は漁に出て、夜は飲食店で働いています。
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―――いつ頃から海女を始めたのでしょうか。
リサさん(写真中)「2015年の夏の漁からです。きっかけは、単純なのものでした。県外から相差に帰ってきて、飲食店で働いていたのですがそこを辞めて、時間ができ、“どうしようかな…”と。相談していた周囲の人たちからの後押しもあって、“じゃあやってみようかな”って(笑)」

―――自然の流れで、始めたという感じなんですね。
リサさん「そうですね。海は生まれた時から生活の中にある、当たり前の存在。私にとって海女の仕事は、特別なものではなかったです。ばあちゃんの道具があったというのも、大きいかな」
アヤミさん(写真右)「私、実は泳げないんですよ。今もウェットスーツを着て、タンポがないとまったく泳げないし、進めないんです(笑)」

―――海女さんは、みんな泳ぎが得意だと思っていました!
アヤミさん「2016年に始めたばかりの頃は、浅い磯のところで顔をつけるのが精いっぱい。足が届かないような深さは絶対に無理でした。ラッシュガードを着て、チャプチャプしているような感じ。そんな私の様子をみて、先輩の海女さんが“私も最初は泳げんかったけど、今は深いところも行けるよ。だから、大丈夫”って言ってくれて、勇気を出して2017年の夏から潜り始めたんです」

―――最初は怖かったですよね。
アヤミさん「それはもう、怖かったですよ。最初は漁師の主人に付いてもらって、“父ちゃんがおるんやったら、大丈夫。もうちょっと深いところ行ってみよう”って、少しずつですね」

海の中のことは、海で経験を積むしかないと実感

―――それでも海女の仕事を続ける魅力とは何でしょう。
アヤミさん「毎日が違うからかな。天気や水温、風、条件が毎日違うから獲物の状況も毎日違う。それがおもしろいんです」
リサさん「それと、達成感。漁の成果は目に見えてわかるから、たくさん獲れた日はうれしくて、また捕りたいって思うんです。大漁の日は疲れの感じ方も違うくらい。もちろん、ぜんぜん捕れなくてガッカリする日もあります」
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―――先輩海女さんがコツや、漁場を教えてくれることもあるんですか?
アヤミさん「いろいろ教えてくれますよ。この時期ならあの辺にいるんじゃないかとか、市場で話もします。でも、それは陸の上でだけ。海の中のことは、自分たちで経験を積むしかないんです」
リサさん「陸で話を聞いて、海に潜って答え合わせ。それで初めて、“そういうことか!”と、分かるんです」

―――では、2人とも独学なんですか?
アヤミさん「いえ、師匠がいます。同じ町内の太田さんという、“男の海女さん”が私たちの師匠です。あと仲間がもう1人いて、いつもは4人で潜っています。師匠から、“今日はどこどこで潜るぞー”と電話をもらって、SNSで連絡を取り合っています」

―――漁の経験を重ねると、うまくなったなと感じますか?
リサさん「うまくなったというよりも、カンが鋭くなった。この岩場に獲物がいそう、と思って見てみると実際にいたりと、確率が高くなった気がします。逆に、いないと思ったら、むやみに探すこともしなくなりました。先輩海女さんたちには到底かないませんけどね」

―――海女さん独特の風習はありますか?
アヤミさん「みんな、道具などに魔よけのマークが入っていますよ。私は自分でペンダントを作って、常に身に付けています。海の災難や魔物から守ってくれるといわれているんですよ。リサにも作ってプレゼントしようと思っているところ」

魔よけ
こちらは、アヤミさんお手製の魔よけのペンダント。アワビの貝殻を磨いて、シンボルをペイントしたそうです。左側の縦5本、横4本の線で描かれた印は「ドーマン」と呼ばれ、多くの目があることで魔物をひるませ、退散させるといわれているもの。右側の五芒星は「セーマン」と呼ばれています。一筆書きで必ず同じ場所に戻る図形のため、潜水しても必ず浮上できる魔除けとして、伝えられているのだとか。

―――怖い思いをすることもありますか?
リサさん「正直あります。道具やロープが藻にからまったら命とりですから、すごく気を付けています。獲物がいると、不思議と限界より少し息が続くんです。海女根性なのか、“見つけたら捕りたい!”と。でも、それが危険。そんな時に不測の事態が起こったら、息がもたないですからね。欲は出さないようにしています」
アヤミさん「自然が相手ですから、欲張るとダメなんです」

海女として昔ながらの技術を受け継ぎながら、元気な相差町に

―――海女さんになって、学んだことはありますか?
リサさん「食べ物のありがたみでしょうか。命をいただくありがたみ。獲物を捕る時は、“いただきます、ありがとう”という気持ちになります。海の生き物だけでなく、山にあるものだって全部。当たり前のように食卓に並ぶことへの感謝の気持ちが大きくなりましたね」
アヤミさん「それはあるね。私も子ども達に教えてあげたいなと思う。泳ぐ魚や岩場にいる貝、豊かな海があってこそ、ですから」

―――若手の海女さんは、増えているのでしょうか。
アヤミさん「少しずつは、増えているかな。でも、まだまだ多くはないと思います」
リサさん「昔ながらの技術や文化を、受け継いでいきたいです。機械や装備など、漁の技術が発達している中で、あえて逆行しながら。けれど、いまのままではダメだとも、感じています。海女だけの収入では厳しいという現実の中で、その問題をどう解消していくかが、これからの課題。この問題が解消しないと、新しい担い手はなかなか増えないと思います」

―――海女さんとして、ここで生きていくための課題もあると。
アヤミさん「そうですね。私もリサも相差町を離れて、町の良さを再発見しました。生まれ育ったこの場所を、もっと元気にしていきたいと思います」
リサさん「海女さんを続けながら、技術や文化を残すために何ができるのか…。そんなことも考えていきたいなと思っています」

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▲リサさんとアヤミさん、そして、ベテランの海女さん(写真中2人)

捕れる獲物の量や海の環境などは時代とともに変わり、これからを生きるためにも残すべきものと、変えていくべきものがあるのかもしれません。
海女として生きるために、そして歴史や文化を守るために、若手世代の挑戦が始まっているようです。

◆ダイナミックな展示が魅力の「鳥羽市立 海の博物館」

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続いては、相差町から鳥羽市街へ向かう途中、鳥羽市浦村町にある「鳥羽市立 海の博物館」へ。こちらでは海女をはじめ、三重県内の漁業と漁村文化について、さまざまな資料を展示し紹介しています。メインとなる展示A棟と展示B棟は、旧建設省による「全国公共建築百選」(1998年)に選ばれた木造建物。大きな船をひっくり返したような館内は、解放感があり思わず息をのんだほどです。
館内には漁で実際に使われていた木造船や漁撈(ぎょろう)用具、写真や文献など豊富な資料が、趣向をこらして展示されています。
※漁撈=魚介類や海藻など水産物を獲ること。

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海女コーナーは、展示B棟にありました。縄文時代から始まったという、海女の歴史。弥生時代に使われていた鹿の角で作られたアワビを獲る道具や、明治以降に普及したという磯メガネなど、さまざまな道具が展示されています。海女さんの人形で漁の様子を分かりやすく解説するなど、興味をそそられる内容でしたよ。

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ワラでできた昔の海女小屋を再現した展示は、中へ入ることができ、当時の海女さん気分が味わえます。

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アワビやサザエ、海藻類など、海女さんが漁で獲る獲物の模型のディスプレーも。

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こちらは、カキの殻で作られた八大龍神。海女さんが信仰する海の神様です。
若手海女のアヤミさんも、お手製の魔よけネックレスを持っていましたが、海で生きる海女さんは、大漁祈願や災難、魔よけのため、神事などを大切にしてきたそうです。

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海女に関する展示以外にも、見ごたえのある資料がいっぱい。こちらは、カツオの一本釣りの様子。1階からは、船の底のようなアングルで見ることができます。中二階に上がれば、また違った目線で見ることができますよ。

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敷地内にある船の収蔵庫では、日本各地や海外の木造船が収蔵・展示されています。

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館内のミュージアムショップでは、オリジナル海女グッズも販売。魔よけの印、ドーマンとセーマンがモチーフの魔よけ手ぬぐい(1,000円)やペンダント(950円)、魔よけキーホルダー(760円)など、ここでしか手に入らないアイテムばかりです。

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普段は見ることのできない、海女さん・漁師さんの歴史や文化、漁村の暮らしを知ることができる貴重な場所です。

海産物の話を聞いて、見て…となれば、次はやっぱり、食べなくては! そこで、鳥羽名物のカキ小屋に立ち寄りました。

◆オイスターロードで焼きガキ食べ放題 カキ小屋「丸善水産」

鳥羽市浦村町の生浦(おおのうら)湾では、カキの養殖が盛ん。あちらこちらに「カキ詰め放題」や「焼きカキ食べ放題」の看板が見られ、海岸沿いの道は「オイスターロード」と呼ばれています。今回は、海上に浮かぶ屋形で、新鮮な焼きガキが食べ放題の「丸善水産」に行ってきました。

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わぁー、本当に海の上に浮かんでいます! ほとんどのお客さんがこの光景を見て「おぉー」と声が上がるそうです。

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窓からはおだやかな生浦湾が見え、ロケーションは抜群。こんな景色を見ながら、新鮮なカキを食べられるなんて、ぜいたくですね。

自社で養殖している食べごろのカキを、新鮮なうちにカキ小屋で提供するというこちら。カキの味は時期によって変わり、11月~翌年1月頃までは小ぶりながらも甘みがあるのが特徴。1月~3月頃まではプクッと太って、よりミルキーな味わいになるそうですよ。

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いよいよ、カキが運ばれてきました。各テーブルに焼き台がセットされていて、自分で焼くスタイルです。焼き時間は9分。キッチンタイマーをセットして、焼きあがりをワクワクしながら待つ時間がたまりません。山盛りに盛られた殻付きのカキが圧巻です!

焼きあがった熱々のカキをツルンと口へ入れると、ほのかに磯の香りが口いっぱいに広がります。ほど良い塩気とカキの甘みが感じられ、クセがなくとってもジューシー。いくらでも食べられます。さらにこちらでは、食べ放題の焼きカキのセットメニューとして、「牡蠣フライ定食」か「牡蠣フライ丼」(いずれも牡蠣みそ汁、牡蠣時雨〈しぐれ〉煮付き)を選ぶことができます。

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定番のカキフライは歯ごたえのある衣の中に、フワッと柔らかなカキの食感がたまりません。カキはギュッとうま味が凝縮され、焼きカキとはまた違ったおいしさです。

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カキフライ丼は丸善水産のオリジナル。自家製トマトソースが、カキフライとごはんによく合っていています。意外な組み合わせかと思いましたが、ぜひ挑戦してもらいたい一品。

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「自分のペースで焼いていただけるので、おなかいっぱいになるまで召し上がっていただけますよ」と工場長の中村善紀(なかむら よしき)さん。

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取材を忘れて夢中で食べてしまいました。11月~4月末までのシーズン中に、何度も食べにくる常連さんがいるのも納得。人気店なので、予約必須です!

日本一の海女さん人口を誇る鳥羽市相差町での取材では、次世代を担う新人海女さんたちの、伝統や技術を受け継ぎながら、新しいことへも挑戦していく。そんな力強さを感じました。自然豊かな漁師町・鳥羽の魅力を知れる、海の博物館もとても興味深かったです。そして、忘れられないのが新鮮なカキの味。カキ小屋のシーズンは限られていますので、ぜひ今だけの味覚を満喫しに、訪れてみてください。

※掲載情報は、すべて取材時のものです。

海女さん取材協力
★鳥羽磯部漁業協同組合相差支所
電話:0599-33-6002
http://jf-tiss.net
※海女になりたい人の相談も受け付け。「海女塾」の開講も準備しているので、詳しくは問い合わせを。
今回、ライター内山が訪れたのはこちら。
★鳥羽市立 海の博物館
住所:鳥羽市浦村町大吉1731-68
営業時間:3/1~11/30は9:00~17:00、12/1~2月末日は9:00~16:30(最終入館は閉館の30分前まで)▽休館日6/26~6/30、12/26~12/30
入館料:大人(18歳以上)800円、大学生以下400円
電話:0599-32-6006
http://www.umihaku.com/
★丸善水産
住所:鳥羽市浦村牡蠣横町1229-67
営業時間:【80分制】11月~4月末(カキがあればゴールデンウィークまで)
<平日>11:00~12:20、12:40~14:00<土・日・祝>10:50~12:10、12:30~13:50、14:10~15:30
料金:大人2,600円、子ども(小学生以上)1,300円
電話:0599-32-5808
http://kaijyouyakigaki.com/

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