グローバルに進化していた!伊賀市の“忍者市”化

2017.11.2

フードライター 高田強

2017年2月22日(ニンニンニンの日)、三重県伊賀市である発表が行われました。それが「忍者市」宣言。

以下が、岡本 栄伊賀市長の宣言文です 。

私たち伊賀市民は、伊賀市が忍者発祥の地であることを認識し、
忍者の歴史文化や精神を継承するとともに、忍者を活かした観光誘客や
まちづくりを行うことを目指して、ここに「忍者市」を宣言します。

これまでも忍者の里として知られていた伊賀市。「忍者市」になったことでどう変わったのでしょうか。関西のライター・高田強が忍者に関わるスポットや人物に直撃しました。

まずは、伊賀を代表する忍者施設へ。※文中の価格はすべて税込み。

◆伊賀流忍者博物館では
忍者体験にワクワク

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世界中からファンが訪れている伊賀流忍者博物館!

伊賀市で忍者といえば、上野公園内にある伊賀流忍者博物館。こちらは1964年に伊賀市内の土豪屋敷を上野公園内に移築した際、「忍者屋敷」としてスタートしました。その後増築され、「忍術体験館」「忍者伝承館」のほか、ステージがある「忍術ひろば」も備えた日本有数の忍者博物館となっています。

●忍者屋敷
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外観はなんの変哲もないごく普通の茅葺き(かやぶき)の農家は、築約250年だそう。

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この屋敷のあちこちに、防衛のための仕掛けがほどこされています。元からあった仕掛けに加えて、移築時に伊賀に伝わる仕掛けを追加して、案内しています。

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壁がくるりと裏返る映画やドラマでもよく見る“どんでん返し”。案内していただいた広報担当の幸田知春さんが、一瞬で消えました。

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押し入れの奥にも隠れるスペースが。ネタバレになるので、仕掛けの話はこのへんで。あとは現地に来てのお楽しみです。基本的には、忍者や“くノ一”(女忍者のクノイチ)が実演を交えて説明してくれます。

 

●忍術体験館

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忍者屋敷からつながる地下施設が「忍術体験館」。こちらでは、実際に使われた忍具のほか、レプリカも展示されています。

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時代劇や忍者マンガで見る、水の上を歩けるという水蜘蛛(みずぐも)は、実際に、はいてみることができます。

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スパイである忍者が、城などに忍び込むときに使用した道具なども展示されています。

 

●忍者伝承館

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忍者としての活躍よりも、一市民として生活していた忍者の暮らしぶりを伝えるのが「忍者伝承館」です。

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建物は、歴史的に貴重な永倉(ながくら、米の蔵)を移築したもの。半農生活を送っていた忍者たちの日常が垣間見られる、資料や道具が館内に並びます。

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実は“忍者”という言葉は、後からつけられた総称。展示されている貴重な古文書からは、当時は“忍びの衆”や“伊賀者(いがもの)”と呼ばれていたことがわかります。

 

こちらには忍者グッズショップ「Ninja坊」を併設。
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人気はやはり手裏剣(しゅりけん)だそうです。

 

●伊賀忍者特殊軍団 阿修羅(あしゅら) 忍者ショー

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そしてこの博物館で見逃せないのが、忍者ショー「伊賀忍者特殊軍団 阿修羅」。

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25分ほどの公演では、正確に投げる手裏剣技などの実演もあり圧巻! 鮮やかで、息を飲むほどの迫力です。

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伊賀の組紐(くみひも)を武器に敵を倒すなど、意外性もあります。

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忍者が曲芸師になって情報収集などをしていた、といわれていることから、曲芸の披露も。
シャープな動きと展開を楽しんでいるうちに、ショーは終了。かなり濃密な時間を過ごせます。日によって開催時間が変わるので、鑑賞したい場合は事前の確認がおすすめ。

 

今回、“くノ一”に扮して案内をしてくれた幸田知春さんに、ここ数年外国人客が増えている秘密などをうかがいました。
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—————「忍者市」宣言があってから、変わりましたか。
幸田さん「“忍者市宣言”の前から、より多くの皆さんに忍者について伝えようとする私たちの姿勢は変わっていません。ただ、知事、市長が忍者のことを愛してくださって、こちらにもよく訪問してくださるのはうれしいですね」

—————今日も外国人の利用客が多いようですが。
幸田さん「今は全体の15%ほどが外国の方です。アジア圏の方が多いのですが、最近は台湾、香港、あとはベトナムからのお客さまも増えつつあります。これまでは、団体ツアーの方が多かったのですが、個人旅行の方が増えているのも特徴です」

—————すごいですね。外国の方は忍者を知っているのですか?
幸田さん「みなさん詳しいですよ(笑)。私たちも外国の方に聞くことがありますが、アニメの影響が大きいようです。『忍たま乱太郎』とか、『NARUTO』が好きだという方が多いです」

—————忍者は、グローバルなキャラクターになっているんですね。
幸田さん「かなり熱心な方もいらっしゃいます。施設としても外国語を話せる案内役の忍者やくノ一(スタッフ)を増やし、今では英語、中国語、韓国語に加えて、毎日ではないですがフランス語でも対応しています」

—————今後、さらなる構想などはありますか。
幸田さん「伊賀忍者ゆかりのお寺さんの御朱印めぐりなど、周辺と組んでさまざまな企画をすすめています」

忍者がグローバルな存在になり、注目されていることがよくわかりました。
それでは、忍者をさらに深く研究している場所へ。

 

◆三重大学には今年、
国際忍者研究センターが誕生!
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衝撃の事実の連続!忍者研究が進んでいた!

三重大学では以前から、人文学部の山田雄司教授を中心に忍者について研究し、学生のほか、市民向けの講座も設けています。2017年7月には情報発信施設として、伊賀サテライト内に「国際忍者研究センター」を開設。

国立大学が忍者について研究しているというのは面白そうです。そこで、津市にある三重大学の研究室へ行ってみました。
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「忍者学のことを広めてくれるなら」と取材を快諾してくれた山田教授。

———三重大学が忍者研究を始めたきっかけを教えて下さい。
山田教授「学長の発案で、2012年に研究が始まりました。私は宗教などの研究をしていましたが、この研究を担当してからハマりまして、最近は忍者に関する文献に目を通したり、情報収集をしたりと忍者漬けの毎日です」

———忍者を研究していて、大発見はありましたか?
山田教授「そうですね、みなさんが驚かれるのが、“忍者は、頭巾(ずきん)などのいわゆる忍者装束をしていなかったこと”、そして“手裏剣を使っていなかったこと”です」

———いま、さらりと言いましたが、忍者の存在を根底からくつがえすことをおっしゃいましたよ!
山田教授「忍者というのは、本来スパイなんです。なので、特定の衣装などではなく、その場所で違和感のない服を着ていたので、映画やマンガで見るような衣装は着ていませんでした」

———でも、いろんな本などにも出ていますが…。
山田教授「歌舞伎に登場する忍者の衣装として使われたもので、それがスタンダードな忍者の衣装として広まったようです」

———では、手裏剣は?
山田教授「手裏剣という武器は存在しますが、私がこれまで読んだ忍者の資料や文献には、一切出てこないんです。伊賀や甲賀(滋賀県)に伝わる古文書や指南書的なものにも出てきません」

———となると、一番スタンダードな武器は何だったんですか?!
山田教授「石です。殴れば死に至ることもありますし、犯罪の痕跡(こんせき)も残りにくいので」

———理にかなっていますね。『忍者学』は三重大学のほかの先生とも連携しているんですよね。
山田教授「現代の科学的な視点から、忍者の世界に出てくるさまざまな物事を評価して、今後どのように利用できるかなどを研究しています。薬学系の先生が忍者の使っていた薬を研究するなど、多岐にわたっていますよ」
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———海外での発表もあるそうですね。
山田教授「外国では、忍者が今もいると思っている方も多く、“医療の場面で、どのように忍術が使われていますか?”とか、“日本の教育でどう使われていますか?”と、真顔で質問されたこともありました」
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———なぜ、外国の方はそう思うのでしょうか。
山田教授「実は、海外での忍者の認知度についても研究しているのですが、現在の海外での忍者のイメージを作ったのは、ハリウッドでも活躍する俳優のショー・コスギさんの可能性が高いんです」

———『リポビタンD』のCMでおなじみのケイン・コスギさんのお父さんが!
山田教授「1981年公開の『Enter the Ninja』という映画があります。この作品の敵忍者役がショー・コスギさん。これが好評で、コスギさんを主役にシリーズ化するほどの大ヒットになりました。ちょうどこのころ、日本が“世界一の経済大国”といわれ、世界中から注目されている時期だったこともあり、“ニンジャ”にも目が向けられたようです。ただ、映画の中ではヌンチャクを使ったりもしているのですが(笑)」

———外国人の注目度も高いようですね。日本航空とのプロジェクトも進んでいるとか。

山田教授「はい。伊賀市、三重県、三重大学、JALが共同で『忍びの里 伊賀』創生プロジェクトを発足させました。日本国内はもちろん外国の方々にも〈忍びの心・技・体〉を体験し、〈本物の忍びの里〉を感じていただくイベントなどを計画しています。まずは、大山田(おおやまだ)地域でトレイルランニングレースを用意。今後もいろいろと予定しています」

———これからもいろいろ研究が進んできそうですね。

山田先生「これまで、しっかり研究されてこなかった分野なので、テーマはたくさんあります。これからもどんどんやりますよ!」

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同行したカメラマンも、思わず質問してしまったくらい意外な事実の連続。取材班の高田は、『忍者ハットリくん』や『伊賀のカバ丸』『さすがの猿飛』といったマンガで育っているので、さらに研究が進んで「やっぱりあの装束の忍者がいましたよ〜」とならないか、期待してしまうのです。

山田教授の研究成果を理解しながらも、一部分はどこか認めたくない取材班。三重を立ち去る前にどうしても立ち寄りたかった場所へ!

 

◆名阪上野忍者ドライブインは
外観もお土産も全面的に“忍者オシ”

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忍者グッズやお土産がたっぷりそろう!

名阪国道に面する広い敷地にレストランや土産物店がそろったドライブイン。2012年のリニューアルの際に、「名阪上野ドライブイン」から「名阪上野忍者ドライブイン」と、名前に忍者をつけてしまったほど“忍者オシ”の施設なんです。これは行かねばなりません。
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よく見ると店内は忍者だらけ。忍ばずに、かなり前面に出てきています。

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せんべいまでが「忍煎(にんせん)」。

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そして、おにぎりは…。
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「伊賀忍者めし」! 伊賀米と伊賀牛を使ったご当地おにぎりです。
そんな忍者づくしな施設で、フードライターの私が、おすすめのおみやげをセレクトしてみました。
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■忍者手裏剣クッキー 12枚入り540円
サクサクと軽い食感のクッキーは、手裏剣形になっているのが特徴です。箱の内側には、忍具の説明書きがあるので、ポリポリかじりながら忍者の勉強を!

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■伊賀の穂々恵実(ほほえみ) 8個入/1,300円
地元伊賀米コシヒカリの米粉を使用した和風ケーキ。中にはあんとカスタードが入っています。冷やして食べてもおいしいそう。

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■しのぶの牛干し肉 320円
忍者が食べていたかどうかはわかりませんが、ビールのおつまみにもぴったりなジャーキー。このほか、「にん太の豚干し肉」「忍にゃんの粒こしょう豚干し肉」があります。

「忍者市」宣言だけでなく、2015年には、鈴木英敬 三重県知事を初代会長に「日本忍者協議会」が発足。三重県のほか、神奈川・長野・滋賀県など日本各地に点在する“忍者の里”同士が連携し、忍者を生かした観光振興、文化振興、地域経済の活性化などを進めています。
その中心となるのは、やはり三重県。三重大学 山田教授の研究も含め、今後も“忍者市”や三重県から目が離せません。

 

今回紹介した施設はコチラ。
★伊賀流忍者博物館

住所:伊賀市上野丸之内117-13-1

電話:0595-23-0311(伊賀流忍者博物館)

時間:9:00~17:00(入館受付16:30まで) 、12/29~1/1休館

料金:大人756円(648円) 小人432円(324円)。※料金の(カッコ)内は20人以上の団体料金。※忍者ショーは別料金。1人400円(休演日あり、要事前確認)

http://www.iganinja.jp/

★忍者・忍術学講座 (三重大学伊賀サテライト伊賀連携フィールド主催)

2017年度後期は、2018年3月まで月1回開催。事前申し込みは不要。

日時:2017年11月11日(土)・12月2日(土)、2018年1月6日(土)、2月10日(土)、3月10日(土)の各日10:30~12:00

場所:ハイトピア伊賀3階(コミュニティ情報プラザホール、伊賀市上野丸之内500)

料金:無料

http://www.human.mie-u.ac.jp/kenkyu/ken-prj/iga/kouza.html

 

★名阪上野忍者ドライブイン

住所:三重県伊賀市大内2017

電話:0120-141487

時間:8:00~19:00、無休

駐車場:180台

※掲載の情報は2017年10月25日現在。

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日本忍者協議会