業種を超えたコラボで現代風に進化する三重県の名品たち

2021.3.5

おでかけ情報はおまかせ 内山真紀

三重県には「尾鷲わっぱ」「四日市萬古焼」など伝統工芸品がたくさんあります。豊かな歴史文化や優れた技術から生み出された製品ですが、若い世代には「日常的には使いにくい」「選び方がわからない」と感じる人も少なくないそう。そんな工芸品に新しいエッセンスを加えた商品が、2020年に続々と誕生しました。現代のライフスタイルや、使う人の声に寄り添って生まれた、新たな「三重県の名品」を紹介します。※記事中の価格は税込み

<Index>
・電子レンジもOK 気軽に日常使いできる「尾鷲わっぱ」の夫婦茶椀
・“モノ”だけでなく、“コト”の魅力を発信したい
・こんなの欲しかった! ほかにもコラボ商品がいっぱい!

電子レンジもOK 気軽に日常使いできる「尾鷲わっぱ」の夫婦茶椀

新たに誕生した商品の一つが、三重県指定伝統工芸品にもなっている「尾鷲わっぱ」の夫婦茶椀(めおとちゃわん)。「尾鷲わっぱ」といえば弁当箱やおひつですが、そんな長年のイメージをくつがえす食器が誕生しました。作ったのは「尾鷲わっぱ」の技術を唯一伝承し、作り続ける「ぬし熊」の4代目、世古効史(せこ こうし)さん。

工房で夫婦茶椀を持つ世古さん


「尾鷲わっぱ」の歴史は古く、江戸時代に山で林業に従事する山師(やまし)の弁当箱として使われたのが始まりと言われています。漆(うるし)を塗り重ねて作られることから、漆の抗菌作用でごはんが傷みにくいと重宝されました。素材に使用するのは、年輪の幅が均一で強くて腐りにくいという特徴を持つ「尾鷲ヒノキ」。この木材で作られた器は100年以上使うことができるとか。「ぬし熊」では、江戸時代に作られたわっぱの修理を頼まれたというエピソードもあるほど、長く使い続けられます。

こちらは明治31年に作られた尾鷲わっぱ。今も「ぬし熊」で大切に保管されています

今回の夫婦茶椀の発案者は、三重県内で「衣(ころも)」など人気セレクトショップを展開する、「有限会社ウォーン・アウト・ガーメント」の奥野慎也(おくの しんや)さんです。自分たちが感じている“古いモノ”の魅力や良さをたくさんの人に伝えたいと、三重県の伝統産業とコラボレーションし、アパレル目線で商品を開発しています。

「弁当箱は使わない人もいるけど、お茶椀は多くの人が毎日使います。『尾鷲わっぱ』をより身近に感じてもらえるのではないかと考え、世古さんに依頼しました」と奥野さん。「サイズ感やデザインなどのイメージを伝え、作ってもらいましたが、大正解です。こんなに愛らしい夫婦茶椀が完成しました」

「尾鷲ヒノキ」の特徴である年輪の美しさが際立つ、「摺(す)り漆塗り」で仕上げられたお茶椀は、いつもの食卓をちょっと贅沢な雰囲気にしてくれます。自然素材のやさしさを感じてもらいたいと、指先で何度も何度も確かめて角を取るなど、世古さんのやさしさとこだわりが詰まったお茶椀。手の中にしっくりとおさまる、あたたかな感触がなんとも気持ちいいです。世古さんいわく「わっぱで食べるごはんは格別」とのこと。

さらに、蓋(ふた)つきなので余ったごはんを保管する「おひつ」としても使える優れもの。ほどよい湿気が保たれるので冷めてもおいしく食べることができます。さらに、木製の器は電子レンジには不向きですが、「ぬし熊」の器はレンジで温め直しもOKというから驚きです。

その理由は、接着剤など化学的な材料は一切使わず天然素材100%にこだわり、木地づくりから塗りまで丹念につくっているからこそ。混ざり物のない一級品の漆を塗り重ねることで、レンジにも耐えられる強度を備えています。器ほど熱くならず手に取ってもほんのり温かいくらい。でも、中のごはんはしっかり熱々、炊きたてのようなおいしさになるそうです。

昔ながらの手仕事で手間ひまかけて作られる「尾鷲わっぱ」。削り、曲げ、漆の塗り重ねなど、50近い工程があり、一つ仕上げるのに約2カ月もかかります。

まず、厳選した尾鷲ヒノキから板を切り出し、カンナで丁寧に仕上げます。仕上げた板を一晩水に浸けて曲げ、わっぱの側面になる横板を作ります。ヒノキは一本一本、木によって硬さが異なるため、曲げやすい温度や水に浸ける時間などを見極めるには長年の経験を要します。曲げた板は専用の留め具で固定し、1週間ほど乾かして次の工程へ。

板の合わせ目に熱したコテで細かな穴を開け、山桜の皮を通して閉じます。水に浸けても年月が経っても丈夫に残っていることから、山桜が一番なのだそう。「自然のものは強いんです」と世古さん。横板ができたら底板を切り出してはめ込み、漆の工程に進みます。

この工程ではまず、耐久性を高めるためにクソと呼ばれる、 漆と木の切り粉を混ぜたものを合わせ目に塗り乾かします。続いて青漆、錆下地(さびしたじ)、錆砥ぎ(さびとぎ)、一番摺りから六番摺り、漆の 内下塗り、外上塗りと、漆を塗っては磨き、塗っては磨きを丁寧に繰り返します。漆の工程だけで、一週間以上かかるそう。この丹精込めた手作業を経て、美しい 「ぬし熊」の「尾鷲わっぱ」は完成します。

一切の妥協(だきょう)を許さない世古さんは「尾鷲わっぱ」を作り始めて40年経った今でも満足することはないそうで、常に自分の技術を磨き続けています。「光沢や手触りを良くするため、強度を高めるために工程は今も増えています。まだまだこれから。どんどん進化していきますよ」と話してくれました。より使いやすく、丈夫に、美しく…。世古さんの探求は続きます。

<商品詳細>
商品名:夫婦茶椀
価格:セットで22,000円
サイズ:大/直径 約10cm・高さ 約7.7cm、小/直径 約9cm・高さ 約6.7cm
三重県伊勢市のセレクトショップ「衣」の店頭もしくは、オンラインショップにて購入できます。

“モノ”だけでなく、“コト”の魅力を発信したい

今回紹介するさまざまな新商品は、2020年の春にスタートした三重県の「伝統産業・地場産業の魅力増進事業」の一環として誕生しました。
この事業の担当者であり、日ごろから三重県の伝統産業や地場産業の普及や販路拡大に取り組んでいる、三重県営業本部担当課の米野功一(こめの こういち)さんに、お話を聞きました。

「ライフスタイルや消費者ニーズは常に変化し、さらにコロナ禍で社会環境も激変しました。目まぐるしく変化する社会のなかで、昔から受け継がれてきた伝統産業や地場産業の良さがあることをもっと広めたい、一方で、時代や環境の変化に応じて、新たな価値や魅力を創出していかなくてはいけないという思いから、この事業がスタートしました」と話します。

三重県内で参加事業者を募集。「ぬし熊」のほか、真珠の卸会社や、陶器メーカーなどの伝統産業や地場産業から9事業者、さらにクラフトビールメーカーなどの飲食産業から11事業者が参加することに。「ぬし熊」と前述の有限会社ウォーン・アウト・ガーメントとのコラボも、この事業がきっかけになりました。

「伝統工芸品・地場産品は単なる商品でなく、歴史やストーリー、作り手の思いがたくさん詰まっています。なのに、伝わりきれていないことがもったいないと感じていました。この事業では“モノ”だけでなく、歴史やストーリーといった“コト”の魅力を発信したいと考えたんです」と米野さん。

商品開発は、地場産業の活性化やトレンドに精通しているディレクター、バイヤーなどの専門家を招き、ワークショップ形式で実施。専門家には商品の歴史や特徴、作り手の思いなどを理解してもらった上で意見交換を行ったのだそう。地域や業種の垣根を越えてコラボ商品を開発するのは、県としても初めての試みだったそうです。

ワークショップの様子(写真提供:三重県営業本部担当課)

最終的に食器やアクセサリーなど、9つの個性豊かな商品が誕生。すべてに共通しているのは「日常で長く使いたくなるもの」ということ。繊細な伝統技術に、洗練されたデザイン性や使いやすさがプラスされ、使うごとに愛着がわくこと間違いなしの名品ぞろいです。

米野さんは「今回の事業では伝統産業や地場産業だけでなく、食品など異なる業種や地域の事業者が一丸となり“オール三重”で取り組むことができました」と振り返ります。さまざまな人が関わることで情報発信の幅が広がり、事業がきっかけで新しい取り組みを始めた事業者さんもいるそう。期待以上の相乗効果に、担当課としても手ごたえを感じているとのこと。

「この事業をきっかけとして、今後も三重県の新たな魅力や価値を、“オール三重”による取り組みとして発信していきたい」と意気込みを語ってくれました。
注目の商品をピックアップして紹介します。

こんなの欲しかった! ほかにもコラボ商品がいっぱい!

ごはんの時間を楽しくしてくれる「四日市萬古焼」の土鍋と鍋敷きセット
「四日市萬古焼」は三重を代表するブランドのひとつで、国の伝統的工芸品にも指定されています。土鍋や急須、花器など生活を彩る商品が有名で、最近では、ライフスタイルに合わせたデザイン性の高いテーブルウェアにも注目が。特に土鍋は代表的な商品で、生産高は国内産土鍋の約80%を占めるほど。その中でも、ひときわ高いシェアを維持する、1932年(昭和7年)創業の「銀峯(ぎんぽう)陶器」が手がけたのが「ひとり鍋と鍋敷き」のセット。

ひとり鍋・鍋敷きセット(写真提供:銀峯陶器)

家族の形が多様になり食事スタイルも変化する中で、個別で温かいまま食卓へ並べられるようにと生まれたもの。土鍋は蓄熱性(ちくねつせい)が高いので、温かいまま料理を楽しめます。さらに、シンプルかつ重厚感のあるデザインで、うどんやスープなどを調理してそのまま食卓へ並べても、手抜き感がないのが嬉しいですね。

実はこの商品、1988年頃に販売していた「直火丼(ちょっかどん)」のリバイバル。重ねてもかさばらないので収納がしやすく使い勝手が良いと好評だったので、もう一度商品化したいとアイデアを温めていたそうです。

木製の鍋敷き(写真提供:銀峯陶器)

セットの鍋敷きは、三重県産の木材を使った木工製品の製造・販売を手掛ける大紀町の「TARD(タード)」のオリジナル。四日市市の木「クスノキ」を使用し、伊賀市の老舗組紐店「松島組紐店」にオーダーした伊賀くみひものアクセサリー付きです。手作りのぬくもりが伝わってくる鍋敷きは、キッチンに飾りたくなるオシャレさですね。

限定BOX(写真提供:有限会社ウォーン・アウト・ガーメント)

伊勢型紙をもとにデザインした帯紙をかけるなどパッケージにもこだわり、贈り物にもピッタリな三重づくしの限定BOXが誕生しました。30セットのみの販売なので、気になる人は早めのゲットがオススメです。

<商品詳細>
商品名:銀峯陶器×TARD×松島組紐店/ひとり鍋・鍋敷きセット
価格:6,050円
サイズ:土鍋/上部直径 約20cm・底面直径 約13cm・高さ 約7.5cm、鍋敷き/直径約14.5cm・厚み約1.8cm
三重県伊勢市のセレクトショップ「衣」の店頭またはオンラインショップにて購入できます。

枕カバーや湯上りタオルにもなる多機能風呂敷

津市で創業100年を超える「平治煎餅本店(へいじせんべいほんてん)」とタオルメーカー「おぼろタオル」の老舗同士がコラボして誕生したのが「おぼろ染めガーゼ風呂敷(ふろしき)」。三重県の銘菓として愛される「平治煎餅」のロゴマークが施され、デザインも色味も落ち着いた印象の一枚です。

1908年(明治41年)創業の「おぼろタオル」は、愛媛県の今治(いまばり)タオル、大阪の泉州(せんしゅう)タオルに並ぶ日本三大タオルともいわれる、津市生まれの名品。全国でも数少ない自社一貫生産にこだわり、日本初の技術をいくつも開発し取得した特許は十数件。その伝統技術をさらに進化させ、ガーゼタオル素材の風呂敷として開発したのが「おぼろ染めガーゼ風呂敷」です。お菓子を優しく包むだけでなく、枕カバーや赤ちゃんの湯上りタオル、さらにはエコバックにも。従来の風呂敷よりも用途が豊富で、カバンに1枚入れておくととっても便利ですね。

<商品詳細>
商品名:おぼろ染めガーゼ風呂敷
価格:1,500円
サイズ:66×66cm
平治煎餅本店の店頭またはオンラインショップにて購入できます。

伝統工芸品をアクセサリー感覚で身につけられる

写真提供:有限会社ウォーン・アウト・ガーメント

帯締めなどの和装小物として親しまれてきた伝統工芸品「伊賀くみひも」をアクセサリー感覚で身に付けられる「マスクホルダー」に進化させたのは、「松島組紐店」と、「尾鷲わっぱ」とのコラボでも登場した「有限会社ウォーン・アウト・ガーメント」。メガネストラップとしても使えます。

写真提供:有限会社ウォーン・アウト・ガーメント

「伊賀くみひも」誕生の歴史は奈良時代にまでさかのぼり、武士が鎧や刀にも使っていたとされています。繊細で美しい模様とシルクならではの鈍い光沢感が魅力。細部のパーツには牛皮を使用し、使いこむほどに、味わい深さが生まれそう。贈り物としてもいいですね。

<商品詳細>
商品名:マスクホルダー(全6色)
価格:各3,080円
サイズ:全長約80cm
三重県のセレクトショップ「衣」の店頭またはオンラインショップにて購入できます。

三重県の伝統産業・地場産業の新たな取り組みはいかがでしたか? 歴史や技術などを大切に守りながら、挑戦を続ける作り手のチャレンジ精神に、取材しながら大いに刺激をもらいました。
しかも、進化は現在進行中。「尾鷲わっぱ」ではさらなる挑戦が進んでいると聞いて、詳しく教えてもらいました。それは、新しい「酒器」づくり。

「尾鷲わっぱ」の技法で作られたお銚子とおちょこ

実は、漆と日本酒の相性はバツグンで、より香りがたち、味もまろやかになるそう。酒器にぴったりですね。また、お酒を注ぐときに、お銚子の注ぎ口から雫がこぼれないよう何度も調整しながら作り上げたそうです。さらに、大小サイズ違いのおちょこは重ねられるから、持ち運びや収納にも便利。こちらは伝統産業・地場産業などで機能性・デザイン性に優れた革新的な商品に贈られる2020年度の「三重グッドデザイン賞」にも選定されています。

<商品詳細>
商品名:酒器
価格:28,600円
サイズ:お銚子/直径7.5×高さ12.5cm、おちょこ(大)/直径5.5×高さ5cm、おちょこ(小)直径5×高さ5cm
※販売は2021年3月頃を予定しています。

工芸品の作り手や老舗メーカーと、消費者に近いところにいる専門家たちのコラボで誕生した今回の名品の数々。普段の暮らしで大切に使いたいものばかりです。作り手のストーリーに、使い手のストーリーが重なることで、より“モノ”に深みと愛着を感じられるようになりそう。ぜひ、一生モノを探しに、三重県におでかけしてくださいね。 
(掲載情報は、すべて2021年2月時点のものです)

今回取材した会社・施設はコチラ
ぬし熊
住所:尾鷲市向井493-15
電話:0597-22-9960
定休日:不定休
URL:https://nushikuma.com/
衣(有限会社ウォーン・アウト・ガーメント)
住所:伊勢市本町6-4 シャレオサエキ1F
電話:0596-22-1128
時間:10:00~17:00 定休日:なし
URL:http://www.kholomo.com/
銀峯陶器株式会社
住所:四日市市三ツ谷町13-25
電話:059-331-2345
URL:https://ginpo.co.jp/
TARD
住所:度会郡大紀町野原64-1
電話:090-6112-6880
URL:https://tardmie.wixsite.com/tard
松島組紐店
住所:伊賀市緑ヶ丘西町2393-13
電話:0595-21-1137
定休日:不定休
URL:http://www.iga-kumihimo.com/
おぼろタオル株式会社
住所:津市上浜町3-155
電話:059-227-3281
URL:https://oboro-towel.co.jp/
有限会社平治煎餅本店
住所:津市大門20-15
電話:059-225-3212
時間:9:00~18:00
定休日:水曜
URL: http://www.heijisenbei.com