自然と人間が共生するまち、ユネスコエコパーク大台町。

2016.11.18

「つづきは三重で」市民記者

大台町の吊り橋

【取材】Satomiracle!

今回は三重県の中南勢にある大台町をご紹介します。
清流の宮川が流れるこの町がユネスコエコパークに認定されたことを皆さんご存じでしょうか?

何か、目に見えない幸せな「何か」が、きっと大台町にはあるんじゃないか。
そう思った私は、天気予報は雨にもかかわらず車を南へ走らせました。

大杉谷

雨予報だったからしょうがないけど、宮川はいつもの紺碧っていう色じゃなくて、昨日まで雨がザアザア降っていたようで、少しだけ白っぽく濁っていました。

ユネスコエコパークを知るには、今回新しく核心地域に登録された大杉谷に行かなくちゃ。


核心地域とは
多様な生態系が保たれている、生物多様性の保全上、最重要とされる地域。法律などによって厳格に保護し、長期的に保存しています。「ユネスコエコパーク」には、“生物多様性を保全する”“学術的研究支援を行う”“経済と社会を発展させる”という3つの機能があり、その機能を果たすために「核心地域」「緩衝地域」「移行地域」の3つのゾーンを設定しています。
(大台ヶ原・大峯山ユネスコエコパーク保全活用推進協議会ホームページより)


今日は大杉谷に入山するということで、大台町観光協会さんに連絡しておきました。そうしたら、植物や登山が大好きで、ついには大阪から大台町に引っ越してきたという木村純子さんが同行してくれることになりました。木村さんは大杉谷の山小屋で3年働き、現在は大台町の観光協会で地域おこし協力隊として活動しています。この日は、某有名旅行雑誌の取材もあって総勢5人。登山初心者の私はみんなについていけるか心配です。

木村さんにご案内していただく

さて、いよいよ登山口を通過して、核心地域へと進んでいきます。神々が宿るといわれる大杉谷に入山して、どこからともなく自然に対して畏怖と畏敬が入り交じった気持ちが込み上げてきました。

 

宮川

登山口

そんな神秘的な大杉谷で暮らし、この地を守っている方々のお話も伺ってみることにしました。

大きな思いを秘めて3年前に大台町へ引っ越してきた、宮川ダム湖観光船「望郷丸」の船長、福山英次さん。

福山さん


福山
:僕はもともと生まれも育ちも三重県の亀山なんです。そして大阪へ越して、地図の出版社に勤めました。20歳の時に事情があって大杉谷にある家に養子に入ったんです。その家はダムの下にありました。

大杉の住民たちが、なんとか廃村を免れることができないかと考えていて、僕がここに籍を置いていたことを知ってたんで、僕はずっと大阪に住んでたんですけど、それでお声がかかって、ここに戻ってきました。

大杉谷活性化のためにはまずは観光ということになって、そこで、観光船を使ってなんとか観光客を呼べないかなと。宮川ダムの周囲には綺麗な所がいっぱいあるしな。それを紹介してダムを周遊する観光を始めたんです。

ここに美しい村があったことを、忘れないでほしいと思うんです。だから、ここに遊びに来てほしいなって思ってます。
福山さん

福山:この歳で船の免許を取ったんですよ。しかもお客さんを乗せるわけですからね。車で言ったら二種免許ですよ。国家試験ですよ。アハハ。受かってうれしかったね。この免許と船で、日本沿岸を一周できるって思うと、痛快ですよ。

いい風景の所でカメラを持ってる人には、いいシャッターチャンスをしっかり作ってあげると喜んでもらえる。それがまた、僕にとってもうれしいんです。昔の会社の友だちや日本全国からお客さんがいらっしゃると、やれ浜松や、尼崎や、堺やって、常に地図に結びつくんです。だからお客さんとはすぐに友だちみたいに話が弾む。それもうれしいですね。

望郷丸

福山さん

福山:とにかくこの美しい風景を見てもらいたいねえ。ユネスコエコパークに登録されて、何か変わるんかなあって思うけど。どやろ。なんか変わるんかなあ。

木村:そうですねえ。まだまだどうしていったらいいか分からないことも多いので、国内で一足早くユネスコエコパークの登録をされている他の地域へ視察に行ってみたいし、そこでいろいろ見て学んで、持ち帰ることができたらいいなあって思っています。

福山:おお、それはいいアイデアやなあ。あんたたちみたいに若い人たちは、どんどん出ていって、いろんなことを見るのがええよ。早くに登録されているよそのユネスコエコパークの地域の活動とか、いろんなアイデアを持ち帰ってきてな。

木村:はい、がんばります。

福山船長と観光協会地域おこし協力隊の木村純子さん
▲福山船長と観光協会地域おこし協力隊の木村純子さん

大杉谷の登山口から登り始めて最初のうちはほぼのぼりですが、すごくきついというわけではない。足場は狭い岩場で崖になっている所もあり、雨降りや雨の後は滑りやすくなっているので、入山できない時もあるらしい。でも、一歩一歩ゆっくり確実に歩いて、自分のペースで進んでいけば大丈夫なんだそう。なんだか人生の哲学みたい。
崖みたいに狭い道

鎖

いよいよ大杉谷の核心地域の風景が現れだした。紺碧の宮川に目を奪われる。人の手があまり入っていないからこそ、ユネスコエコパークの核心地域に選ばれた。しかし人の手も入れないと、そこで暮らす人たちが自然に飲み込まれてしまう。自然を慈しみ、守ることが重要だと気付かせてくれる。

確信地域が姿を見せ始める

当初心配だった山歩きが楽しくなってきた。

山歩きも楽しくなってきた

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険しい山道を歩くこと数十分。これまで歩いてきた道を振り返った。そこに見えるのは大きな一枚の岩盤だった。壮大な自然の景色に、私たちはしばらく言葉を失った。岩盤をくり抜いて作られた山道。その中を私たちは歩いてきたのだ。

水面に反射する美しい光景

大杉谷には全く人が手を加えていない場所もたくさん残っている。国の天然保護区域として天然記念物に指定されている森は、三重県では大杉谷だけなんだとか…。

大杉谷

大日嵓の揺れる吊橋を渡ります。
吊橋

 

ところで、大杉谷のガイドさんがいらっしゃるんだそうです。
「仙人」の愛称で親しまれる大杉谷の宮川流域案内人、巽幸則さん。登山センター職員の蕨野祐樹さんと一緒にお話を伺いました。
仙人、巽幸則さん

登山センター職員の蕨野祐樹

-いきなりですが、「仙人」って呼ばれる事に対して、どう思いますか?

:僕が山の中に住んでかれこれ20年くらいかねえ、もうここに来た時からずっと仙人って呼ばれてますよ。一つ困る事はねえ、みんな「何食べてるの?」って聞くんだよね。僕だってスーパー行きますよ。

一同:え〜〜〜〜〜!?(笑)。

:僕だって食べますよー(笑)。野菜だって作ったりしたいけど、実がなったりするものは太陽の光がふんだんに当たらないとうまくならないのよ。この辺は山に囲まれてて太陽があまり当たらないから、実がなったりするような作物は採れないんだよね。だから、時々スーパーに買い物に行きますよ。

僕は旧宮川村の江馬(えま)出身です。もともと催事屋や大手の大型小売店で企画やってましてね、まあ、仙人の前はスーパーマンって呼ばれてましたよ。

一同:ワハハ!

:ずっと仕事してきて、気が付いたら40歳だったんです。人生80年って言われてるから、あと半分しかないなら好きな事したいなと思ってね。若い頃から山が好きだったから山に住みたいと思って、当時空き家だった家に住んだの。山荘してね。周りからは反対されたけどね、でも山に住みたかったから、住んじゃったんだよね。%e4%bb%99%e4%ba%ba%ef%bc%92

 

巽:ここ15、6年やね、川がダメになってきたのは。
今日魚いました?いないでしょう。魚がいないってことは、昆虫がいないってことなんですよ。魚は肉食ですからね。河口が荒れて川鵜なんかが上にあがってくるんですよ。魚を食べるから生態系も変わっちゃうんですよ。生き物がいない川っていうのはきれいでもダメ。生き物がいろいろ住んでる豊かな川にしなくちゃ。

:あ、ごめん、電話や。

一同:どうぞどうぞ。

:「もしもし…」

一同:………?

電話に出る巽さん

眼鏡のマークがドルマーク($)お茶目な仙人。

$マークの眼鏡

:世界のユネスコが認めてくれてるんですから、一回ここに来て、生でこの大杉谷の自然を体感してみてほしいですね。絶対に感動しますから。もし知事が来ていただけるなら、その時は大台町長と私でガイドさせてもらいますよ(笑)。
写真や映像では伝わらない風景がここ大杉谷にはありますから。
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自然と人間の共生は、自然を守りながら、社会的、文化的、経済的な発展をしていこうっていうことなんですよ。ユネスコエコパークの移行地域に住みませんか?ってくらい言ってもいいんじゃないかな。いいうたい文句なんですよ。よそにないんですからね。

蕨野さんと木村さん

木村:今日ちょっと歩いてきました。能谷川原まで。

:あんなもん、行ったうちにならんわ(笑)。
やっぱり堂倉滝まで行かなね。これが本来の、エコパークでいうたら核心って言われてる所です。ここは天然記念物でもあるし、ユネスコエコパークでもあるし、国立公園ですよ。こんなすごい所、そうそうないわけですよ。

この辺の一番のおすすめは春。この辺りは谷やから水分が多いんですよ。そうすると木は常緑樹です。山開きの際には新緑ツアーを行います。新緑の大杉谷は本当にきれいなんです。

 

 

みんなで談笑

大杉谷は決して易しい登山道とは言えません。足元も悪いし、雨が降ると滑りやすくなりますし。でも、ここは比較的短い距離で、危険な所は鎖を付けてあります。ちゃんと準備して入ったら、天然記念物にも指定されている素晴らしい自然が待っていますよ。来てくれたら絶対に感動しますので。そんないい所なんです。

画:仙人、巽幸則さん
▲画:仙人こと巽幸則さん

 

 

ちょうどいいタイミングで滝が現れました

そろそろ歩き疲れたなって思った時、ちょうどいいタイミングで滝が現れました。木村さんが、「このお水は飲めますよ」と教えてくれました。

ありがとう、滝

おいしい。まろやかな、優しいお水。喉の渇きとともに疲れも吹っ飛んで、またここから一歩ずつ歩きだす元気をもらいました。ありがとう、滝。
私は、登山口で恐怖におののいていた時より幾分逞しくなって、新しい気分でまた一歩を踏み出しました。

気分を新たに再び歩き出す

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能谷吊橋
▲能谷吊橋

熊谷川原に到着。
熊谷川原に到着

ここで休憩してまた来た道を戻ります。初心者コースを気に入った人は、次回は山を知った人と一緒に、もう少し先まで歩いてみるのもいいですね。観光協会さんが毎年、大杉谷ガイドツアーを企画しています。初心者向けの日帰りツアーも好評だそうです。仙人にガイドをお願いするのもいいかもしれませんね!

「ここの川原でちょっと休憩しましょう!」木村さんの声で私は一目散に川の中に突入。そういえば今日は雨の予報だったよね?しかも大杉谷は、日本でも有数の多雨の地域で、しょっちゅう雨が降るのにこの青空。きっと私の日頃の行いがいいからだ~!神様見ていてくれてありがとう〜!

天気は上々!
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取材に余念がありません
某有名旅行雑誌の皆さんは、取材と撮影に余念がない。

 

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宮川の水は、限りなく透明に近い紺碧。とっても冷たくて、しばらく川の中に立ってると足がキーンって冷えてくる。

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大杉谷の自然を守り持続させながら共に暮らす皆さんにお話を伺って、すごく考えさせられました。福山さん、巽さん、蕨野さん、貴重なお話をありがとうございました。

 

そろそろ休憩も終わり。来た道を戻ります。
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来た道を戻ります

 

帰りはしっかりと
一枚岩でできている岩盤も、今度はしっかり見ながら歩きます。

人がこんなに小さく見える

 

 

木村さんに、六十尋滝に連れてきてもらいました。
六十尋滝

 

ド迫力の滝を下のアングルから撮影

自然から見たら、私なんてちっぽけな人間。大きな自然の中で生かされてるんだなーって思います。でも時間はみんな一緒。無駄にしないで毎日一歩ずつ、確実に前に踏み出していこうと思いました。

よーし、やるぞっていう力が、深いところから湧いてきた。ユネスコエコパークの深みはそこにあるのかもしれない。

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ユネスコエコパーク大台町、核心地域の大杉谷、素晴らしい時間をありがとう。


大台町に興味を持った方は、

つづきは大台町で」をご覧ください!