人と動物が幸せに暮らす!生きものの命を学べる三重の施設へGO

2018.7.27

動物大好きライター 中野純子

 

三重県には、動物と触れ合いながら、同時に命の大切さを学べる施設があるってご存知ですか? 今回、動物大好きライター・中野純子が向かったのは、そんな2つの施設。人と動物が幸せに暮らせるよう、力を尽くす人たちをレポートします。※記事中の価格は税込み。

行き場をなくした動物たちがのびのびと暮らす「大内山(おおうちやま)動物園」

三重県大紀町の、のどかな山間部にある「大内山動物園」では、現在114種725頭の動物たちがのんびり暮らしています。
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しかし、その8割が、実は閉園した動物園から引き取られたり、山や住宅街で捕獲されて殺処分寸前だった子どもだったりと、辛い過去を持つ動物たちなんです。園長は、山本清號(やまもと せいごう)さん。山本さんのもうひとつの顔は、名古屋市で建設会社を営む社長。なんとこちらの動物園、個人経営なんです! では、どんな経緯でこの動物園が誕生したのでしょうか? 山本さんに話をうかがいました。
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◇「大内山動物園」が誕生した経緯を教えてください。
山本さん「もともと私がつくったのではなく、前園長の脇正雄(わき まさお)さんがつくった動物園なんです。前園長とは、今から40年以上前に釣りを通じて知り合いました。いろいろな動物を自宅で保護して動物園をしておられると聞き、三重に来るたびによくエサを持って遊びに行っていたんです」

◇どうやって引き継いだのでしょう?
山本さん「2006年に久しぶりに遊びに行ったら園内は荒れているし、動物たちも元気がない。前園長も体調を崩していて。そこで、うちの社員や友人で、動物たちをなんとかしようと応援してたの。でも2年後、前園長が亡くなられ、動物たちだけが取り残されてしまった─。動物たちが殺処分されるのはあまりにもかわいそうだから、最期まで面倒を見ようと決めたんです」
IMG_0592▲動物たちにあげるおやつは山本さんやスタッフの手作り。ササミやピーナツなど、動物それぞれの好みに合わせてメニューを変えているそう
IMG_0633▲園長におやつをもらってごきげんのキツネザル。動物がケガをしたり体調を崩すと、保護棟で手厚くケアされる

◇荒れ果てた動物園を立て直すにはご苦労があったのでは?
山本さん「初めは動物園ではなく、うちの社員が動物と触れ合える保養所にしようと考えていたの。でも、週末になると、『再開したの?』とお客さんが遊びに来る。大紀町からも立て直しの要請があり、私財を投入して経営再建に乗り出したんです。やるからには中途半端にはできないからね。野生環境の再現まではできないけれど、『ここへ来てよかった』と思ってもらえるぐらいには、できる範囲でやろうと思ったんです」

2006年のリニューアルオープン以降も、保護動物が運び込まれて来るといいます。私たちが取材に伺った日も、飼い主が飼い切れないと手放したニワトリなど20羽以上、さらに、千葉県の住宅街で保護された手のひらサイズの赤ちゃんタヌキも運び込まれていました。
IMG_0605▲取材当日に運び込まれたホンドタヌキの赤ちゃん。温かいミルクをたくさんもらってすくすく育ちますように…

 

ご長寿猿から保護タヌキまで!幸せに暮らす仲間たち

「大内山動物園」にレスキューされた動物たちは、まず、保護棟で傷ついた心と体を癒やします。

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警戒心から一度は牙をむく動物たちも、スタッフ約20名が心を砕き、愛情たっぷりにケアすることで、次第に心を開くように。元気になると一般公開の獣舎に引っ越すのだそう。
そんな動物全頭に、声をかけながらおやつをあげるのが山本さんの日課です。
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園内でまずお出迎えしてくれるのは、ウマグマのシュウくん。閉園になった四国の動物園からやって来ました。私たちがオリに近づくと、駆け寄ってきます。その姿に、「愛情をかけてるからね」と山本さん。

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珍しい白変種ホンドタヌキのミルミルちゃんは、害獣捕獲用のわなに捕まり弱っていたところを保護されました。今は少しずつ獣舎の環境に慣らしているところ。臆病な性格だそうですが、山本さんのことは大好き。

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ニホンザルのモモちゃんは、34歳のご長寿。山本さんから手渡された乳酸菌飲料を自分で上手に持ってゴクゴクと飲み干す姿はまるで人間のよう。

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サルのゲンくんは、山本さんと深い縁でつながっていました。あるとき、さまよっているサルを見かけた山本さん。ずっと気にかけていたところ、1週間後に運び込まれて来たのが、その気にかけていたサル、ゲンくんだったそう。「住宅街をつくるために、人間がサルのすみかを壊しちゃったんだわ」と山本さん。住み慣れた山を追われ、ストレスから毛が抜け落ちていたゲンくんですが、今はおだやかなまなざしを取り戻していました。

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ほかにも、親を人間に殺されてしまった野生動物の子どもが山本さんの元にやってくるそう。「動物はなにも悪くない。人が自然を壊しすぎるんです。人間はそれを見直さないといけない」。多くの命を救ってきた山本さんの言葉には重みがあり、胸に突き刺さります。

人懐っこい動物たちに大接近できるエサやり体験

園長の山本さんとスタッフの深い愛情と熱い行動力に守られた動物たちは、人懐っこくて優しい子ばかり。
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▲サーバルキャットのバルくんはお客さんに近い台の上がお気に入り

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▲松阪市の山奥で暮らしていたところ、事故に遭いケガをして保護されたアルビノタヌキのポンちゃん

エサやり体験では、ミニチュアホースやヤギ、シカに大接近! 首を伸ばしてエサをおねだりする表情に、思わずほおが緩みます。エサは、ニンジンとパンの2種類(各100円)。
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さらに「もぐもぐタイム」では、動物たちがおいしそうにエサを食べる姿が目の前に! 平日の空いている時間であれば、ベンガルトラのアラシくんにエサをあげるという貴重な体験も可能。
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動物園のエミューやオウムの羽で作ったアクセサリーや缶バッジなど、オリジナルグッズも販売。お土産にいかがでしょうか?
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新しい家族を待つ犬と猫が暮らす「あすまいる」

続いて訪れたのは、津市にある三重県動物愛護センター「あすまいる」。三重県では、犬・猫の殺処分をゼロにすることをめざしているそう。その拠点として2017年5月27日に開所したのが「あすまいる」です。
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ここでは、犬や猫の譲渡のほか、飼い主のいない猫の減少に向けての不妊・去勢手術や動物愛護教室などの普及啓発活動を行っています。開所から1年あまり。三重県の動物愛護の現状を所長の久米徹(くめ とおる)さんと主査の山本絵美(やまもと えみ)さんにお話をうかがいました。
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◇開所から1年以上がたちますが、成果はいかがですか?
久米さん「譲渡のほかにも、動物愛護教室や講習会などを76回行い、1,180名の方に参加いただきました。とくにお子さんの参加者が多く、未来を背負う子どもたちに動物の命の大切さが浸透してくれたら、と願っています」
山本さん「犬や猫は飼えないけれど『あの子はどうしてる?』と気軽に立ち寄ってくださる方もいて、初年度は来館者だけでも2,406組5,280名と、予想以上に多くの方に来ていただいたんですよ」

動物愛護の拠点として県の人々に浸透しつつある「あすまいる」。
では、どんな施設なのでしょうか? 中を見学させてもらいました。
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天井が高く、温かみのある木目調のエントランスホールは開放的な雰囲気。この右手にある飼育室で、10頭の犬と31匹の猫が新しい家族を待っています。

犬の展示室「き~ぼうのへや」。大きな窓のある部屋にはじゅうたんが敷かれ、くつろげるソファやマットがあり、まるでリビングルームのようです。
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こちらは猫の展示室「つむぎちゃんのへや」。猫がのびのびと遊べる設計になっています。
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このような造りになっているのは、室内で飼われていた犬や猫にできるだけ同じ生活をさせてあげたいという想い、さらに新しく飼い主になる方へ“こういう環境で飼ってあげてください”という見本になれば─、という想いがあるからだそう。

今回は特別に、飼育室も見学させてもらいました。取材に訪れた時間はちょうど犬のお散歩タイム。雨にもかかわらず、ちぎれんばかりに尻尾をふって、リードを引っ張る犬たちの表情は、とても生き生きしていました。
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「犬は、一度人に裏切られると不信感を表情や態度に出す子が多いんです。だからこそ、職員が愛情いっぱいにお世話しています」と久米さん。
とくに最近は、飼い主の高齢化が進み、体調を崩して入院するなどで、やむを得ず愛犬を手放す人が増えているといいます。突然、全く知らない環境に移され、人におびえてけたたましくほえていた犬も、スタッフが優しくケアすることで、徐々に本来の無邪気な姿を取り戻すそう。
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続いて猫が暮らす飼育室へ。扉を開けたとたん、「ミュー、ミュー」と子猫の大合唱が! 春は猫の出産シーズン。保護されている31匹のほとんどが、飼い主のいない猫が産んだ子猫でした。まだ免疫力が弱いため、獣医でもある久米さんや山本さんらスタッフが、注意深く健康状態をチェックし、譲渡しても安心な大きさになるまで大切に育てます。
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「あすまいる」では、2017年5月の開所から2018年3月31日までに、109頭の犬たちと242匹の猫たちが新しい家族に迎えられました。そんな優しい記録が、「思い出アルバム」にぎっしりとつづられています。
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「犬たち、猫たちが暮らしやすい施設で愛情をかけて育てていますが、それでも家庭に勝るものはありません。『あすまいる』から犬や猫を引き取ったご家族から、『元気にしてますよ』という報告があると、とてもうれしいですね」(山本さん)

動物との共生や命の尊さを学べる!犬や猫のお世話体験も

三重県の犬・猫の殺処分数は、2008年度に犬1,172頭・猫3,459匹だったのが、2017年度には犬72頭・猫556匹とたしかに減少しています。しかし、それはあくまでも過去と比べての話。人間の勝手な都合で犬や猫の命を奪う殺処分をゼロにするには、まだ長い道のりです。「いかにして殺処分を減らしていくかが今後の課題です」(山本さん)
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動物の命の大切さを知ってもらおうと、「あすまいる」が開催しているのが夏休みの子ども体験教室。保健所や「あすまいる」にやってくる犬や猫たちの現状を知り、動物との共生や命の尊さを一緒に学べる内容になっているとか。犬や猫のお世話体験もできちゃいますよ。さらに9月20日(木)~26日(水)の動物愛護週間にもイベントを開催予定なのでぜひチェックを!

今回、2つの施設を訪れ、改めて「命の重さ」と「動物と共生する大切さ」が胸に刻まれました。一度は人間から裏切られた動物を救うのも、また人間。優しい人々に守られて、再びかわいい表情を取り戻した動物たちに、ぜひ会いに行ってみてくださいね。

 

<今回訪れた場所はコチラ>
★「大内山動物園」
住所:三重県度会郡大紀町大内山530-4
電話:0598-72-2447
営業時間:9:00~16:00、無休
入場料:大人1,500円、子ども(3歳~中学生)500円
駐車料:土・日・祝、行楽シーズンは1台500円
http://www.oouchiyama-zoo.com/
★三重県動物愛護推進センター「あすまいる」
住所:三重県津市森町2438-2
電話:059-253-1238
開館時間:9:30~16:30、水曜・土曜(祝日を除く)・祝日の翌平日休。開館中はいつでも見学OK
入館料:無料
※犬や猫の譲渡は三重県在住の人に限られます
http://www.pref.mie.lg.jp/ASMILE/

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https://www.mie30.pref.mie.lg.jp/feature/5651