本格派パティスリーが続々オープン!個性が光るスペシャリテの秘密とは!?第1回

2020.12.11

スイーツコーディネーター 松本由紀子

10年ほど前は、本格的なパティスリー(フランス菓子屋)が少ないと嘆きの声が聞かれたという三重県。ですが、ここ数年、関東や関西で修業を重ねたパティシエが地元の三重県で自分の店をオープンさせるUターン開業などもあり、三重県のパティスリー業界が盛り上がりをみせています。修業先で得た知識や技術と、三重県の魅力をいかにマリアージュさせるか!? 三重県のパティスリー業界を牽引(けんいん)する4名のパティシエに、それぞれの個性あふれるお菓子のヒミツや今後の展望を伺いました。今回から4回にわたり、ご紹介していきます。(※記事中の価格は税別)

第2回
「神戸北野ホテル」やフランスで修業を重ねた新進気鋭(しんしんきえい)「パティスリー アノ」
第3回
女性ショコラティエのパイオニア!ショコラ専門店「フェーヴドカカオ」
第4回
カリスマパティシエ辻口博啓(つじぐち ひろのぶ)さんが展開!アクアイグニス内「コンフィチュール アッシュ」

大阪の名店「なかたに亭」などで研鑽(けんさん)を積んだ実力派「パティスリー アンスピラシオン」

「パティスリー アンスピラシオン」は2020年1月18日に松阪市にオープンしました。お店のコンセプトは、『親しみやすい高級感』。テーマカラーは、お菓子屋さんには珍しいカーキをチョイス。ショップカードやピック(値札)などにも使われています。シェフの宮原淳(みやはら じゅん)さん自身のなかでしっくりくる色合いなのだそう。客層は30~40代が多く、松阪市以外にも伊勢市、鈴鹿市、伊賀市などからも来店されるそうです。

宮原さんは、1986年に、北牟婁郡(きたむろぐん)紀北町(きほくちょう)で生まれました。2005年、三重県立相可(おうか)高等学校 食物調理科へ。食物調理科の製菓コースでは、なんと初の男子生徒だったそう。調理クラブに入部し、学校が運営する「高校生レストラン『まごの店』」で腕をふるったことも。
卒業後、ホテルオークラ東京入社、「パティスリーミツワギンザ」(東京・銀座)を経て、2012年渡仏。リヨンの「patisserie Delices des sens(パティスリー デリスデサンス)」で1年間修業後、2014年から「なかたに亭」(大阪・上本町)へ。製菓長を務めたあと、自分の店を開業しました。

◇店名の由来は?
宮原さん「店名の『アンスピラシオン(Inspirations)』はフランス語でインスピレーションの意味。古いものからインスピレーションをもらって、新しいものを知る、温故知新(おんこちしん)の意味を込めています。修業時代、師匠である中谷哲也(なかたに てつや)シェフから『お前はちょっと古い考え方の人間や。でもそれだけではあかんぞ』と常々言われていたんです。そこで、inspirationの最後にsはつかないんですが、あえて『Inspirations』としてsをつけることで、古いものから新しいもの、新しいものから古いものへの両方向のインスピレーションを大切にするという意味をもたせました。フランス語に精通(せいつう)していないと気付かないかもしれませんが、師匠からの言葉を胸に刻んでおくためにも、この店名にしたんです」
店名に込められた熱い想いを知り、取材中に胸が熱くなりました。

◇松阪市を選んだきっかけは?
宮原さん「先輩からも大阪での出店を勧められていましたが、東京や大阪で学んだ知識を地元・三重県で生かしたいという思いが強かったので、最初から一貫して松阪市で開業しようと決めていました。ここは偶然見つけた空き物件でしたが、交通量も多く、広い駐車場も完備されているために決定。設計士である父がデザインしてくれて、店舗の一部にはカフェスペースも設けることにしました」

◇地元の人の反応は?
宮原さん「三重県にはロールケーキ、シュークリーム、プリン、フルーツケーキなどをメインとする洋菓子屋さんが多く、本格的なパティスリーはあまりありません。でも、『フランス菓子ってサイズも小さいし甘すぎるんじゃないの?』という反応だったお客さまも、実際に食べてみると、濃厚だけれども、ただ甘く重いだけのケーキではないと理解してくださり、『食べたことのない食感にびっくりした』といった驚きとともに、喜んでくださるようになりました。また、東京や大阪のパティスリーを知っている地元の方々からは、『こういうお店が三重にもできて嬉しい』『大人が買いにこられるケーキ屋がやっとできた!』といったうれしい声もいただいています」

宮原さんにシェフのオススメ、自慢の「スペシャリテ」を教えてもらいました。

フランス時代の思い出の味から誕生した「アレクシー」
漆黒のグラサージュが艶やかな「アレクシー」(530円)。ミルクチョコレートのムースの中に、クレームブリュレとナッツ入りブラウニー。濃厚ながらも舌の温度でゆるりと口溶(くちど)ける、究極になめらかなテクスチャーに暫(しば)し陶然(とうぜん)。ショコラの芳醇(ほうじゅん)な苦みとクレームブリュレの濃厚な甘みが溶け合い、香ばしいナッツの食感がアクセントになっています。ビジュアルから想像するほど重厚ではなく、なめらかな口溶け感と芳醇な香りの余韻(よいん)が印象的。
こちらはフランス修業時代の思い出の味をブラッシュアップした一品で、当時の同僚の名前が、商品名としてつけられているそうです。店内には二人が並んだステキな笑顔の写真も掲げられているので、ぜひご確認を。

濃厚なバニラがたまらない「トレヴィ」
人気の高い商品が、こちらの純白に煌(きらめ)く「トレヴィ」(500円)。バニラ好きによる、バニラ好きのためのケーキ。アクセントに塩が効いています。ホワイトチョコレートのムースの中に、ホワイトチョコの濃厚なガナッシュ。土台はパンドジェンヌ(アーモンドたっぷりの焼き菓子)。底には塩入りのシュトロイゼル(そぼろ状の焼き菓子)。
とにかくバニラが濃厚で、口中に甘く芳醇な香りがたちこめる、バニラ尽くしの贅(ぜい)を極(きわ)めた一品。底にしかれたシュトロイゼルの食感と塩気が、口休めにも。

生菓子・焼き菓子はそれぞれ約15種類ほどそろっています。焼き菓子やショコラなど、お取り寄せ可能なアイテムも多数そろうので、さまざまな詰め合わせで発送することが可能です。

ヴィエノワズリーやショコラも並ぶパティスリーのモデル店に
「三重県にはパティスリーがまだ少ないので、モデルケースとなるよう、生菓子や焼き菓子以外のアイテムも増やしていきたいですね。フランスのパティスリーのように、ヴィエノワズリー(お菓子屋に並ぶ菓子系のパン)を並べたり、通年でショコラを楽しんでいただけるようなお店にしたいです!」
「東京や大阪、海外などで修業を積み、見識を広め、Uターンをして三重県で開業する人が増えてほしいですね。そうすることで、三重県のパティスリーの層も厚くなると思います」と語る宮原さん。

地元にこだわり、修業時代に身につけた知識や技術を存分に発揮して三重県のスイーツ界に新しい風を吹き込む宮原さん。今後、三重県にパティスリー文化が普及していくことが期待できそうですね。

(掲載情報はすべて2020年10月時点のものです)

<今回紹介した施設はコチラ>

パティスリー アンスピラシオン (Patisserie Inspirations)
住所:松阪市嬉野須賀領町539-1
(JR名松線 権現前駅から徒歩5分
電話:0598-31-3101
営業時間:10:00~19:00(売り切れ次第終了)
定休日:火曜日・水曜日
URL:https://www.instagram.com/patisserie.inspirations/
URL:https://www.facebook.com/patisserie.inspirations/

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